楽天グループは11月11日、2022年12月期第3決算を発表。売上収益は2021年同期比13.7%増の1兆3647億円、営業損益は2871億円と、引き続き赤字決算となった。
これまでと同様楽天モバイルへの先行投資が赤字の主な要因だが、代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏によると、主力のEコマースや金融事業、米国で展開している「Rakuten Rewards」などが順調に伸びているとのこと。楽天モバイルや投資事業を除く四半期のNon-GAAP営業利益は、2021年同期比7.8%増の472億円になるとしている。
決算説明会に登壇する楽天グループの三木谷氏
同日に実施された決算説明会では、関心が高い楽天モバイルに関する動向について、楽天モバイルの代表取締役CEOであるTareq Amin(タレック・アミン)氏が多くの時間を割いて説明。楽天モバイルの4G屋外基地局設置数は5万局を突破、人口カバー率は9月時点で97.9%に達したという。2023年中には6万局にまで拡大し、人口カバー率99%超の達成を目指すほか、都市部でのネットワーク密度を高める取り組みも積極的に進めていくとしている。
決算説明会で楽天モバイルに関する質問に答えるタレック氏
楽天モバイルの4G屋外基地局数は5万局を突破し、人口カバー率は97.9%に到達。2023年中には人口カバー率99%超を目指すとしている
そのエリア拡大を進める上で重要な要素の1つが、楽天モバイルが現在保有していないプラチナバンドである。これまで総務省の有識者会議「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース」でプラチナバンドの再割り当てに関する議論が進められてきたが、その結果、総務省は移行は再割り当てから5年以上、再割り当てに際して必要なレピーターの交換やフィルターの設置費用負担は既存免許人、つまり現在プラチナバンドを保有している事業者が原則負担するという案をまとめている。
総務省のプラチナバンド再割り当て指針案を受け、楽天モバイルは2024年3月からのプラチナバンド使用開始を目指すとした
この内容は楽天モバイルの主張がおおむね通ったものであることから、タレック氏は「大変うれしい」と総務省の姿勢を高く評価するとともに、2024年3月からのプラチナバンド使用開始を目指して準備を進めることを明らかにしている。一方で、一定の費用を支払うことでプラチナバンドを早期に利用する「終了促進措置」の活用について、楽天モバイル代表取締役社長の矢澤俊介氏は「使うつもりはない」と明言。費用をかけずにプラチナバンドを活用することを重視する方針を示した。
決算説明会で質問に答える楽天モバイルの矢澤氏
契約大幅減もARPUは3倍増、ローミング費用削減にも目途
一方で楽天モバイルの契約数は、新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」で月額0円で利用できる施策がなくなった影響から、MVNOの契約数も含めて518万回線、MVNOを除くと455万回線と、前四半期の477万回線からさらに22万回線減少している。だがタレック氏は、2022年10月をもって実質0円で利用できるキャンペーンなどが終了したことから「有料課金ユーザーが100%になった」と話し、それ以降解約数が減少し売り上げが増えていることを高く評価。11月の契約数も「非常にいい感じで来ている」(矢澤氏)とのことだ。
楽天モバイルの契約数はMVNOも含めると518万回線、含めなければ455万回線にまで減少。だが0円施策の終了で、売上は大幅に伸びているという
実際、楽天モバイルは今回の決算でARPUも公開しており、モバイル通信に関連する「モバイルARPU」は1472円と、2021年同期(453円)と比べ約3倍と大幅にまで伸びている。ヘビーユーザーの増加とオプションサービスの付帯率向上などが売上増に寄与しているようだ。
さらに楽天エコシステムも含めたARPUは2588円となっており、2022年9月に開催された「楽天市場」の「楽天スーパーセール」における楽天モバイル契約者の流通総額は、26.2%に達したとのこと。引き続き、楽天モバイルユーザーの楽天経済圏に与える貢献度は高いとしている。
楽天モバイルのARPUは、楽天エコシステムのARPUも含めると2588円、モバイル通信のみのARPUは1472円であることが明らかにされた
また今後ARPUを向上させていく上で、タレック氏は5Gが重要になると説明。5Gを整備した大阪エリアで同社が調べたところによると、5Gの整備によって利用者のデータ使用量が40%向上し、データARPUも25%向上したとのこと。2022年9月には6440の5G基地局を展開しているというが、ARPUの伸びにつながることから今後、同社では5Gの基地局も積極的に拡大していくとしている。
大阪エリアでは5Gの整備によってデータ使用量が大幅に伸び、それに伴ってARPUも伸びていることから、売上拡大のため5Gのエリア拡大も進めていく方針だという
そしてもう1つ、タレック氏は法人向け事業に力を入れていくことも説明。既に200以上の顧客企業と法人向けサービスのトライアルを進めており、2023年初旬に本格的にサービスを提供することを明らかにしたほか、IoT向けの4G通信規格「NB-IoT」を活用したサービスを企業向けに全国展開していく方針も明らかにした。
タレック氏は売り上げを伸ばす施策だけでなく、コスト削減に向けた方針についても説明。楽天モバイルは当初、基地局整備や楽天シンフォニーの技術開発を進める必要があったことから組織を大幅に拡大してきたが、それらがひと段落する次のステージではコスト管理が重要になってくるという。
楽天モバイルは既に人口カバー率で98%近いエリアカバーを達成し、主要な部分のネットワーク構築に目途が立ったことから、今後は基地局開設費用とKDDIに支払うローミング費用が削減されるほか、基地局メンテナンスの自動化にる費用削減も進むとしている。ローミング費用に関して矢澤氏は、「(ローミングエリアは)マップを見るとかなり郊外に集中している」と説明、2023年以降そうしたエリアを主体に1万局以上の設置を進めていくことからローミングで賄うエリアはかなり減るのではないかとしている。
4G基地局整備の一巡などによって、今後基地局設置やローミングなどに係る費用は大幅に減少するとのこと
一方で、楽天モバイルの人員を削減し、ほかの部署に異動させるとの一部報道がなされているが、この点についてタレック氏は「ニュースを読んだが、全てが正確という訳ではない」と回答。大規模な基地局整備に目途が立ち、人口カバー率を高める段階に入ったことや、基地局メンテナンスの自動化が進んできたことから、それらに関わっていたスタッフの数を減らして他の成長分野に再配置することを考えているとした。
なおタレック氏は、自身が中心となって手掛けている子会社の「楽天シンフォニー株式会社」の事業についても説明。2021年8月の設立以降、受注額は13カ月で31億ドル(約4375億円)、売上収益は5四半期の累計で3億ドル(約423億円)を達成。市場からの需要が依然大きいことから、今後の5四半期で累計の売上収益10億ドル(約1410億円)を達成することを目標にしたいとしている。
楽天シンフォニーは設立からの5四半期での累計売上収益が3億ドルとなるが、今後の5四半期では累計10億ドルを目指すとしている