「彼女が欲しい」。その昔、私(佐藤)も胸に強く抱いた願いのひとつだった。その願いを電車の中吊り広告にして掲出した男がいる。しかも1カ月間もだ!
その男、芸人の奈良原はなぜそこまでして彼女募集をしたのだろうか?
理由を尋ねようと、インタビューを試みたところ危うくケンカになりそうになってしまった! 彼は別れ際に「この記事、ボツにしてやりますよ」と捨て台詞を吐いて去っていった。何なんだよ、コイツは!?
・中吊りで彼女募集した男
インタビューをお願いしたのには理由がある。私も当サイトで彼女募集を行っていたからだ。その記事は2010年11月19日に公開されたものである。
あれから12年をも経て、当時の私と同じように切実な思いを公(おおやけ)にする男があらわれるとは……。とても他人事には思えない。
そこで! 彼が所属する「プロダクション人力舎」に取材依頼をお願いして、彼のインタビューを敢行することになり、2022年10月某日、当編集部に彼がやってきた。
奈良原「こんにちは、奈良原です。やってやります!」
佐藤「こ、こんにちは。そんなに力まなくても大丈夫ですよ(ヤバいヤツが来たな……)」
奈良原「佐藤さん、お願いがあります。僕の写真をバリバリのイケメンに加工しておいてください。実物を感じさせる写真は1枚もなくて良いので」
佐藤「え? こんな感じの加工でイイ?」
奈良原「イイですね! これで行きましょう」
佐藤「いや、ダメだ。読者にウソはつけない。実物で行かせて頂くよ」
奈良原「あ! クソ……」
・広告費は実費
佐藤「一応、ザックリとプロフィールをお教えいただけますか」
奈良原「人力舎所属のピン芸人です。高校を卒業して養成所に入りまして、現在4年目の23歳です」
佐藤「そんなに若いなら彼女なんかすぐできるよ」
奈良原「おっさんはみんなそう言うんですよ。すぐに出来てたら、借金までして中吊り出さないですよ」
佐藤「借金? もしかしてあの広告は実費?」
奈良原「会社が持ってくれる訳ないでしょ。事務所には許可をもらうために説得しましたけど、広告費用は全部自分持ちですよ。
上信電鉄の全車両に1枚ずつの広告を1カ月間で約7万円。掲出用のポスター制作の印刷代がだいたい3万円。それからポスターデザインを後輩芸人の岡本匠くんにお願いしたので、そのデザイン費用料が2万円。事前に車両を見に行ってますから、その費用が2~3万ってところでしょうか。
全部で15万くらいかかってるんですよ。全部実費です!」
佐藤「割と安いかもだけど、芸人年収7万円の奈良原さんにとっては高額だね。2年分の売上に相当する。それで成果は?」
奈良原「成果があったら、こんなに力んでないんですよ! イジリの問い合わせばかりで。人によっては「お前みたいなヤツに彼女はできない、なぜなら……」って説教すらしてくるヤツまでいますからね。
それならまだしも「うちにも広告出しませんか?」って営業かけてくるヤツまでいるんですよ。いつまでも彼女できないと思ってるところが、腹が立つんですよねえ」
佐藤「たしかに。繰り返し出すような広告内容じゃないしね。で、彼女いない歴はどれくらいなの?」
奈良原「え?」
佐藤「ま、まさか? 奈良原さんって……」
奈良原「言うな!」
佐藤「ドドドド……」
奈良原「この話題は終わりです、次!」
・曲と写真集を作っていた
佐藤「では次、彼女募集の広告を出したのは、中吊りが初めて?」
奈良原「舐めてもらっちゃ困りますよ。僕のこれまでの努力を順番にお伝えしましょう。まずですね、アーティストってモテるじゃないですか。多少顔がアレでも、曲が良ければモテる。むしろ顔ではないところでモテてるって人もいらっしゃいますよね?」
佐藤「とても偏ったモノの観方だと思うけど、言いたいことはわからんでもない」
奈良原「だから僕も曲を出したんですよ。プロの作曲家に依頼して、僕の書いた詞を曲にしてもらいました。もちろん、歌ってますよ。僕が」
佐藤「曲のタイトルはやっぱり「彼女が欲しい」なんだ」
奈良原「これしかないでしょ。それで同年12月にファースト写真集を出しています」
佐藤「その顔で?」
奈良原「あなたに言われたくないですよ。人のこと言える顔ですか?」
佐藤「ごもっともで……。それで、写真集を?」
奈良原「Kindleですけどね。2021年12月に発売しました」
※「奈良原ファースト写真集「charming」 Kindle版」販売価格税込2200円
佐藤「説明欄に「ピン芸人奈良原、待望のファースト写真集発売!」ってあるけど、誰か発売を待っていたのかな……」
奈良原「何か言いましたか? 続けますよ」
佐藤「まだあるの?」
奈良原「真剣なんですよ、僕は! どれだけ努力しているか、わかってない!! 切実なんです!」
佐藤「ごめんごめん、決して茶化してる訳じゃないだよ。ただ、努力の方向が独特だなと」
・先輩芸人を関連ワードに
奈良原「続けますよ。次にYouTubeにも広告を出してました。YouTubeは広告の設定がすごく細かくできるんですよね。ご存じかもしれませんけど。
性別や年齢、地域なんかを絞って広告出せるんです。だから対象を女性に絞って、港区や品川区、千代田区なんかに絞って「彼女募集中」って広告を出していました」
佐藤「その地域に絞ったのには、何か理由があるの?」
奈良原「お金が多そうだから……」
佐藤「さっきまで純粋に恋愛を欲していると思っていたけど、それを聞いて一気に雲行きが怪しくなってきたぞ」
奈良原「あ、そうだ。YouTube広告といえば、関連ワードの設定もできるんですよね。ユーザーが検索したワードに合わせて広告を出せるんです。だから、事務所の先輩の「東京03」さんとか「アンタッチャブル」さんとか、「ラバーガール」さんとかを関連ワードに設定していました」
佐藤「先輩を自らの彼女募集広告の肥やしに使うなんて……」
・芸人奈良原の彼女募集記念レース
奈良原「次の話に行きます」
佐藤「まだあるのか……」
奈良原「北海道・帯広の「ばんえい競馬」ってご存じですか?」
佐藤「知ってるよ。個人でもレースの名前を付けられるんだよね。「冠レース」っていうのかな? ま、まさか……」
奈良原「ふふふ……、そのまさかですよ! 今年の8月に「芸人奈良原の彼女募集記念」を開催しました。こちらがその時の馬券です」
佐藤「マジかよ! 本当にやっちまうとは。っいうか、そのレースに3万も突っ込んでハズしてるじゃねえか!」
奈良原「冠レースだから勝てると思ったんですけどね」
佐藤「芸人年収7万のヤツが3万も馬券に突っ込むなよ」
・専用マッチングアプリを計画
佐藤「これからやりたいこととかあるの? 彼女募集で」
奈良原「ありますよ。マッチングアプリ作りたいんです」
佐藤「確実に出会えるようなヤツ? 会えないってよく聞くもんね」
奈良原「そうなんですよ! 僕もいろいろやってるけど、主戦場はイケメンが総取りみたいなもんですよ。僕みたいな普通の男には入る余地がない。だから考えたんですよ。僕が出会えるマッチングアプリを」
佐藤「何か良いアイディアが浮かんだんだね」
奈良原「そうです! 男性は僕だけ。そうすれば、僕は確実に出会えるんですよ!! 「奈良原に会えるマッチングアプリ」です!」
佐藤「もしかしてこの人、天才かもしれへん……」
奈良原「アプリを開発するためにプログラミングを勉強してるんですけど、難しすぎて個人ではできないんですよね。だからどこかの企業にお願いできればいいんですけどね」
佐藤「その発想は本当に面白いと思う。ただ協力企業があらわれるかは微妙かなあ……」
奈良原「まだありますよ。今年の夏に間に合わなかったけど、花火大会を開きたかったんです」
佐藤「それはなぜ?」
奈良原「突然花火が夜空に上がったら、「今日花火大会?」ってなるでしょ。そしたら、検索するじゃないですか。検索結果で「芸人奈良原の彼女募集花火大会」って出てくる訳ですよね」
佐藤「うん、まあ、そうですね」
奈良原「自腹で花火大会開きたいんですけど、費用がスゴイんですよね。多少の金額では1分とか2分で終わっちゃう」
佐藤「花火を見た人が検索する頃には、芸人奈良原の彼女募集花火大会は終了してしまうと」
奈良原「そういうことです」
佐藤「それはそれで面白いと思うよ、うん」
奈良原「無責任なこと言わないでください」
佐藤「不意に真面目に答えるのやめてくれる?」
・「それでも彼女はできる」
佐藤「あのさ、さっきから聞いてると、本当に彼女ができる気がして来ないんだけど。彼女できるの?」
奈良原「みんなそういうんですよ。でもね、佐藤さん。自分でやってないでしょ? 中吊りとかやってないでしょ?」
佐藤「いやまあ、うちのサイトでは彼女募集したけど、中吊りはなあ……」
奈良原「いいですか、あのガリレオも「地動説」を説いた時に誰にも信じてもらえなかったんですよ。「青色発光ダイオード」の発明も最初は誰にも理解されてなかった。
僕の彼女募集も同じなんです。やってみないとわからないでしょ? 僕は言い続けますよ、「それでも彼女はできる」ってね」
佐藤「話の風呂敷を広げんなって。ガリレオと同レベルの話ではないでしょうが」
奈良原「実現可能かどうかの話でいえば同じです! もしかしたら今日このインタビューを終えて、帰る時に彼女できるかもしれないでしょ!」
佐藤「できないよ! そんなに簡単なら、もう彼女いるはずだろ!!」
奈良原「簡単かどうかの話じゃないですよ。可能性は常にゼロではないって話をしてるんです。
そこまでいうなら、「彼女募集している奈良原」自体をナシにしてやりますよ! 帰りに彼女できたら、彼女募集の奈良原じゃなくなるから、このインタビューも無意味になりますよね」
佐藤「できないだろ」
奈良原「できるかもしれないでしょ! 彼女できたらこの記事はボツでしょ? ボツにしてやりますよ!」
佐藤「やれるもんならやってみろ!」
奈良原「わかりました。僕はもう帰ります。彼女作りに行きますから」
佐藤「がんばれよ、応援してるぞ」
奈良原「あ、そうだ。コレ、あげます」
佐藤「ナニコレ?」
奈良原「僕の生写真です。大事にしてください」
佐藤「え? あ、うん。ありがとう。大事にする……」
ということで、奈良原さんとの有意義なインタビューは終了した。ちなみに彼のプロフィールを改めてお伝えしておこう。興味のある人は、彼のSNSをフォローしてくれよな!
名前:奈良原
年齢:23歳
所属:人力舎(4年目のピン芸人)
身長:182センチ
芸人年収:7万円
SNS:Twitter、Instagram、アメブロ
取材協力:プロダクション人力舎
参考リンク:Youtube、アマゾン
執筆:佐藤英典
Photo:Rocketnews24