2000m以下の雨雲はレーダーに映らない ~増田さんの詳しすぎる天気解説2022.10

デイリーポータルZ

気象予報士、増田雅昭さんに天気について聞く月1回連載。
雨雲レーダーに雨雲はないのに雨が降るときの条件、10月の天気の鍵は台風、など聞きました。
(構成:デイリーポータルZ編集部・林雄司)
 

今回もこのメンバーでお送りします

台風情報が早まっている

林:
9月は台風が発生→秋雨前線が濃くなる、の繰り返しでなかなか晴れは長続きしないだろう、と先月のお話でした。
増田:
晴れなかったですね、ほんとに。
林:
月末になって晴れが続いたかなという感じで。

9月の東京の降水量グラフ・気象庁ホームページより

増田:
9月はまあまあだいたい読みどおりで(ガッツポーズ)。にしても台風がほんとに多かったなと思いましたね。

9月は読みどおり

林:
「また台風が起こりそうです」って天気予報でもよく言ってましたよね。
増田:
休む暇がなかったというか。
林:
熱低AとかBとかの時点で。
増田:
Cとか(苦笑い)。あの時点から予報進路が出るので、ずっと報じてなきゃいけない状態になってますよね。今は。
西村:
昔は台風になってから消えるまでが短かったわけではなくて、今は精度が良くなっちゃってるってことなんだ。
増田:
そうです。それこそ南海上で台風の渦も巻いていない状態。パッと見た感じ台風に全然なっていない状態でも今後これ台風になりますから、こっちに来ますからって情報がバーンって出るわけですよね。
林:
増田さん解説お願いします。
増田:
ってなっちゃうんですよね。何分で何時台にお願いしますって感じですよね。
林:
まだわからないですね、とは言いようがない。
増田:
これわからないですよ〜って言えないような状態で。気象庁が出すときは確度が上がってると言うか、これは台風になるという状態で出してきますし。それより前に僕たちはわかっちゃうことがあるので。まだハッキリしないし黙っとこーって思ってもみんなが先に言っちゃう。

10月がカラっとするかグズグズするかは台風しだい

林:
10月は移動性高気圧がやってきて周期的に3〜4日で天気が変わるのが通常パターンだと思いますが、そうなりますか。
増田:
北海道、東北などいわゆる北日本はそうなると思います。関東から九州にかけては微妙なところですね。
10月の上旬で秋雨が終わって、このまま高気圧が少しずつ南に来てくれれば、晴れる日があってたまに低気圧がくるパターンになるんですけど。
高気圧が下がりきれてない。このへんで秋雨前線が粘るとなると10月なのに晴れないねってことになる。微妙なところなんですよ。どっちに転ぶか。

増田さんの手のところに秋雨前線があると思ってください

林:
例年より高気圧の位置が高い(北にある)んですか?
増田:
ちょっと高い。そこを左右するのが南に台風ができるかどうか。また10月の半ばぐらいに南でできたら、暖かい空気を供給するので、下がっていこうとする秋雨前線が下がれなくなって、このへんでグズグズグズグズする。
林:
上から来ているのは秋の勢力で、夏の名残が台風。
増田:
台風は必ず10月もできるんですけど、どこまで北上してくるかがポイントですね。
林:
台風がポイント。
増田:
南から熱い空気がやってくるかどうか。最終的にはさすがに10月の下旬、後半までいくと、晴れる割合が増えてくると思います。中旬どこまで秋雨前線が粘れるかというとこですね。

みんな!偏西風が登場しても読んで! 

増田:
簡単に言うと偏西風がどこまで下がるかです。
林:
……この連載、偏西風って言葉が登場すると読まれない傾向がありまして、でもみんな帰らないで!
増田:
偏西風が下がれないということは、南の暖かい空気が強い。それの一因が台風だったりするんですけど、偏西風という言葉を使わなくてもなんとか頑張って説明できました。

偏西風はこう流れている

小林:
この記事の離脱率が…
林:
偏西風って、どこかで見られるんですか?天気図だとか。
増田:
ありますよ。 

高層天気図(気象庁ホームページより離脱しないで!

増田:
上空9000mぐらいの天気図です。ここにペナントが立ってますけど、上空9000mで観測された風がこうやって置いてあるんですね。実際に観測された風です。 

偏西風は暖かい空気と冷たい空気の境目

増田:
この辺に強い西風が流れてることがわかるようになってます。
林:
風は等圧線に対して直角に流れないんですか? 
増田:
上空は違うんです。
西村:
違うんだ。
増田:
上空はほぼほぼ線に沿って風が流れるんです。そういうふうになっていて、ここが混んでるな、たしかに風強いな。この辺に偏西風があるんだなって我々は見てます。

高いところの観測は気球を使っている

西村:
実際観測した風の速さっておっしゃっていたんですけど、それってどうやって観測するんですか?
増田:
気球をあげるんです。
西村:
そうなんですね。ラジオゾンデってやつ
林:
UFOとよく間違えられるやつだ。

気象庁ホームページより

増田:
関東だと茨城のつくばしかないんですね。毎日。日本時間の9時と21時。
なんでそうなってるかというと、世界標準時の0時と12時にみんな一斉に世界中で上げましょうと決まっている。
西村:
ちゃんと国として気象を観測する機関がある国はやっている。
増田:
ほぼほぼみんなあるんじゃないですか。
西村:
見たい
林:
取材しましょう

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9月24日、神宮球場でレーダーに映らない雨が降った

林:
あと質問がありまして…神宮球場の話なんですけど。
増田:
村上のスイングのファンです。止めてコマ送りでやっぱりキレイ〜!って言いながら何回も見るんですよ。
西村:
フォームがキレイ。
増田:
ああいうフォームで自分も打ちたかった。

林:
9月24日に気になることがありまして。この日台風が来ていて18時プレイボールの時点でグラウンドがこんな状態で。

西村:
水たまり。
林:
そう、グラウンド整備して1時間半遅らせて19時30分プレイボールで試合開始になった。
増田:
後ろの日程詰まってるから、やるしかなかったんでしょうね。これ。
林:
試合を始めたらまた雨が降ってきたんです。

この日の東京のアメダス、遅らせた試合開始直後の19:40~21:00が雨
(注:降水量の観測は0.5mm単位なので、0.5mm未満の弱い雨は降水量0mmの雨として記録されています)

だけど、そのとき雨雲レーダーには雲がない状態でした。天気アプリも「しばらく雨は降りません」と出てました。
神宮で野球を見ている人がたくさんツイッターで書いていましたし、(2022年9月24日のツイッター「神宮」「雨」の検索結果)  雨雲レーダーの画像を入れてツイートされているかたもいます。

 

林:
この日、何が起きてたんでしょうか?

増田:
一個一個紐解いていきましょう。その時のレーダーを出してきたんですけど、これ20時です。神宮はこの新宿区のポイントの近くですよね。

20時 神宮球場付近に雨雲がある

増田:
20時ぐらいにかかってきていて、その後20時10分、15分、けっこうガッツリかかってるんですよね。 

20時以降、神宮球場の上にしっかり雨雲がかかる

増田:
この方のツイートは20時2分でした。でもレーダーは19時55分なんです。5分のタイムラグはあったんじゃないかと思います。
西村:
なるほど!
林:
変わり目の5分だった
増田:
もうひとつ、その下のメッセージですね。「しばらく雨は降りません」これはコンピューターがはずしちゃったってことですね。
この雨雲の動きを読みきれずにコンピューターが外しちゃっただけ。雨雲の動きを予測しているのは5分ごとに高速計算をしなければいけないのですごく計算速度が早いコンピューターなんですけど、北東からの雨雲はあまり来ないタイプなんです。
西からのよくあるパターンだったらちゃんと当てられてたと思うんですけど、あまりないパターンなので当てきれなかった面はあるでしょうね。
林:
ちょっと珍しいパターンですね。しばらく雨は降らないでしょう、じゃなくて断言したから。
増田:
危険ですよね。

増田:
3つ目、19時55分のレーダーには映ってないですけれど、観測データを見ると19時40分ぐらいから降水量0mmはある。
(注:降水量の観測は0.5mm単位なので、0.5mm未満の弱い雨は降水量0mmの雨として記録される)
このあいだはレーダーに映らないような低い雲から弱い雨が降っていた状態。
湿度が100%ですよね。そうとう湿気が地上付近にあった。
レーダーに映りにくい高さ2000mぐらいよりも下のところに湿気がたっぷりある状態で、弱い雨が落ちて来やすい状態だった。それが19時40分ぐらいから20時00分まで。

増田さんの謎解きまとめ:
1.    19時40分~20時00分にレーダーに映らない雨が降った
2.    20時00分からレーダーに映る雨雲がしっかりかかった
3.    だが、20時00分の時点で見たレーダーは5分遅れだったのでまだ雨雲が見えてなかった
4.    そしてコンピューターの予測が雲の動きを外して「雨は降りません」と表示した

林:
なるほど。2種類の雨があった。
増田:
そうですね。レーダーに映り始めたのが20時ぐらい。ここはがっつりですよ。それまではよわ〜いのが降っていた。
風が20時から北東になってるのかな。

ここがヒントでした!

西村:
風向きが変わってきてるんだ。
増田:
北東からの風っていうのは、関東では湿気が供給されやすい。
林:
ここが境目。
林:
レーダーに映るか映らないの境界は2000mですか
増田:
そのあたりが目安ですね。レーダーの種類やレーダーからの距離にもよるんですけど、2000mぐらいより上だったら基本的には映ります。
西村:
2000mってどのへんかなってちょっとわからないですね。
増田:
見慣れないとわからないですよね。
西村:
山に雲がかかってるかかかってないか。
増田:
山の近くの気象台は見わけやすいでしょうね。
西村:
スカイツリーの上から見えないぐらいのときもあるじゃないですか。あれも雲なんですか。
増田:
雲ですね。
林:
あれは低いですね。相当。
西村:
ということはめちゃくちゃ低いですね。
増田:
300mぐらいのところまで降りてくることもあって、スカイツリーの半分より下まで雲って時もありますよね。

9月のクイズの正解

9月の東京の最低気温は何度でしょう?
正解:16.5℃(9月20日)

林:
一番近かったのは蜂目さん

蜂目
16.6℃
残暑がだらだらと続いているので、9月いっぱいはそこまで下がらない気がします

増田:
すごいですよ。0.1℃。でもみんな比較的遠からずという感じ。
西村:
俺低い。(西村さんの予想は14℃・林は17.2℃)
増田:
勝負に出ていただきましたが。
林:
常連の強豪メロポンさんは17.8℃。わりと高め。

メロポン
17.8℃
今日(9月17日)台風が接近してきていますね。
この台風が通過した後、秋晴れの天気があれば気温が下がると思いますが、どうも移動性高気圧はやってきそうにもありませんね。
偏西風が日本付近では強く吹いていないからでしょうか。
そのため曇りがちの日が多く、放射冷却もないため、最低気温はあまり下がらないので、17.8℃と予想させて頂きました。

増田:
放射冷却もないから、あまり下がらない。天気の流れの読みは素晴らしいですよね。
西村:
温度をピンポイントで当てるって難しいですよね。確かに。
増田:
そう考えれば今年の2.2℃。奇跡以外の何ものでもないですよね。僕今年の思い出はって聞かれたら、天気以外も含めてですよ。一番の思い出はって言われたらあれを言いますね。

奇跡!2022年2月22日22時22分、東京は2.2度でした~月1天気2022年3月 その1~
 

10月のクイズ:
10月の東京の最低気温を予想してください。
回答はこちらから (しめきり:2022年10月15日23時59分)

増田:
去年の東京の10月の最低気温は7.9℃。こんな下がるんだ。10月24日です。その前を見ると…
2020 9.2℃ 10/31
2019 12.1℃ 10/30
2018 11.6℃ 10/22
2017 9.1℃ 10/31
2021年の7.9℃は21世紀では一番下がってたんですね。

増田:
最初の話に戻って、秋雨前線が南に下がるようだったら、冷たい空気を持った高気圧が来るでしょうから、そこそこ冷えると思うんですけどね。10℃切ると思うんです。
でも台風が10月の後半でも日本に近づいて秋雨前線があまり下がりきれてない感じだったら10℃は切れないと思います。
西村:
台風がポイント。
林:
カギを握るのは台風

林:
僕は12.3℃にします。
西村:
9.5℃で

(編集注:この対談をしたのは10月5日。10月7日に11.3℃を記録してしまいました。林は早くもはずれが確定しました。10月の最低気温は11.3℃を下回る温度が出るかどうかが鍵になりました。予想をお待ちしています)

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