海外のキーボード入力事情ってどうなっているんだろう。特に韓国語、中国語、アラビア語などアルファベットじゃない文字の入力方法が気になる。まずは韓国語の入力事情について調査した。
日本語の入力方法が面倒すぎる
仕事で英語の書類を作成する機会がある。PCのキーボードで英語を入力するのはとても簡単で、「それにひきかえ日本語はなんて面倒なんだ」と日々思っている。
日本語の入力では頭の中で 魚→さかな→SAKANA→さかな→魚 と目まぐるしく変換が行われているのだ。思考がうねうねしていて気持ち悪い。我々日本人はがんばっているとおもう。
じゃあ英語以外の他の国はどうなのか。もしかするとみんな苦労しているのかもしれない。調べてみることにした。
日本語のキーボード入力事情の予想・検証
まずはなじみ深い日本語の入力で予想・検証手順を練習しておく。日本語の文字体系をざっくり整理すると
【日本語の文字体系】
・表音文字であるひらがな(46字)、カタカナ(46字)
・表意文字である漢字(約6万字)
・表音文字は基本的に9個の子音と5個の母音を組み合わせ
・濁点(゛)、半濁点(゜)、拗音(「ゃ」「ぃ」等)によって
子音・半子音を計15個に拡張
となっている。もし私が日本語を知らない外国人だったとしたらこう予想するだろう。
【予想】1つのキーに1つのひらがなを当てはめる。カタカナや漢字はひらがなを変換することで入力する。
ごく自然な予想だ。
キーにひらがなを対応させる入力方式は実際に存在する。かな入力だ。特にJISかな配列では、1つのキーに1つのひらがなが割り当たっているので、慣れれば爆速で入力することができる。
たまに何かの拍子に設定がかな入力になってしまい、「あ」と打ったつもりが「ち」と出て絶望することがある。あれだ。
実はかな入力にもいろいろあって、たとえば親指シフト配列というものもある。(もっとさかのぼると1915年の邦文タイプライターでは2400文字の直接入力が可能だったとか、話始めるときりがないので読んでほしい記事を置いておきます→ 「かな入力」「親指シフト」「和文タイプライター」)
しかし、ご存じの通り、日本でかな入力はほとんど使われていない。使われているのはローマ字入力だ。先ほど述べた通り思考がうねうねして面倒な気もするが、学習コストが小さいという圧倒的メリットがある。アルファベット26字の配列さえ覚えれば日本語も英語もどっちも入力できるようになるのだ。
それゆえ、ローマ字入力は日本語入力方式のシェアNo.1だ。
このように、実際にキー配列を見ても、実情はわからない。外国語の入力事情調査でもヒアリングが大事そうだ。
韓国のキーボード入力事情を予想する
さてここからが本番。今回調査するのは韓国語(朝鮮語とも言う)のキーボード入力事情だ。
まずは予想する。韓国語については全くの初心者であるが、ハングル文字の文字体系に調べ、ざっくりまとめるとこんな感じだ。
【ハングルの文字体系】
・21個の母音(10個の基本母音と11個の合成母音)と19個の子音の組み合わせで1文字
・1文字の下にもう一つの子音を加えてぎゅっと1文字に収めることもある(パッチムという)
イメージをつかむため、基本母音10個と子音19個の表を見てみる。
字数は多いけど、子音と母音の組み合わせがそのまま字面になっているので分かりやすい。しかも表音文字なので発音に合うアルファベットを対応させることができる。
ということは、日本語のローマ字入力のように、英字配列をそのまま使って入力するのではないか。言うなれば韓国版ローマ字入力だ。
気になるのはパッチムだ。1文字に子音を加えたものをぎゅっと1文字に収めるらしい。いったいどうしてそんなことを…。
図の左でいうと「나」 でそもそも1字なのに、子音の「ロ」も無理やりまとめて「남」という1字になっている。駆け込み乗車だ。
仮に韓国版ローマ字入力で入力するとして、パッチムはPC側で自動的に判別してくれるのだろうか?気になる…。
おそらく無理だろう。たとえば、namuと打った場合、パッチムの有り/無しによって2通りの解釈ができるのだ。
ここまで出てきた情報だけで勝手に推測して例を書いているので、実際に「나무」や「남우」といった言葉が本当にあるのかは知らない。めちゃくちゃ卑猥な言葉だったらどうしよう…。
ということは、韓国版ローマ字入力の場合、パッチムの有無をPCに区別させるための命令が必要だ。「x」など、ローマ字規則から外れた特殊な入力をするのかもしれない。
あとは日本語のかな入力みたいに、ハングル入力もあるかもしれない。母音21個と子音19個をあわせて計40音だ。40音それぞれをキーに割り当てれば、子音と母音の入力が1キーずつで済む。爆速だ。でもそれは学習コストが高くつくという理由で、かな入力同様あまり使われていないかもしれない。(ここまで全部予想というか妄想です。)
【韓国のキーボード入力事情予想】
・ローマ字入力のように、子音を表すアルファベットと母音を表すアルファベットを組み合わせて入力する
・パッチムの有無を区別するために、キー割り当てのないアルファベットを例外的に使用する
・日本語のかな入力みたいにハングル入力もあり、21個の母音と19個の子音の計40音それぞれがキーに割り当たっている
・しかしハングル入力は学習コストが高いのであまり使われていない
ふふふ。いい感じに予想できた。
韓国のキーボードを見てみる
さて、次の段階として韓国のキーボードを見て再度予想してみる。
うわ~!いろいろな発見がある。いきなり本題には関係ないが、記号はUS配列がベースになっている。
日本だとバックスラッシュが円記号(¥)として扱われることがある。いわゆる円記号問題だ。韓国でも同様にウォン記号問題があるのだ。韓国のプログラマも日々モヤモヤしながらアドレスバーにウォン記号を入力しているのだと思うと胸が熱くなる。
そして肝心のハングルである。
なるほど、左手で子音を打ち、右手で母音を打って1字とするのか。 子音と母音のそれぞれがキーに割り当たっているというのは予想通りだったが、こんなにもきれいに左右に分かれているのは予想外だ。
気になるのは母音の数が少ないことだ。基本母音10個は全て存在するが、合成母音11個のうち、4個しかキー上に存在しない。残りの7個はどう入力するのか。
ハンはハングルのハンかなぁ。だとしたらヤングってなんだ。ひょっとして韓国版ローマ字入力のことか?ナウでヤングな若者はハングルを直接入力するのではなくローマ字みたいに入力するということではないか?
完全に忘れていたが韓国語は漢字も扱うのだった。歴史的な経緯があって現在の韓国での漢字の使用はかなり縮小されているが、キーボードでは漢字の入力をサポートしているのだ。한자キーを押せばハングルが漢字に変換されるものと思われる。
韓国のキーボードを見たいま、改めて入力事情を予想する。
・ハングル入力では左手で子音、右手で母音を入力する
・基本的にひとつのキーにひとつの音が割り当たっている
・一部のキーには2音が割り当たっており、Shiftキーを押しながら入力する
・しかしヤングな人たちはローマ字入力のようにアルファベットを用いて入力する
・ローマ字入力ではパッチムの有無を区別するために、キー割り当てのないアルファベットを例外的に使用する
・한/영キーを押すことでハングル入力とローマ字入力を切り替える
・한자キーを押すことでハングルが漢字に変換される
~分からない点~
・合成母音のうち7個がキーに割り当たっていない。どう入力するか
いい線行ってるんじゃないかと思うが、どうだろう。
答えあわせ。韓国のキーボードで入力してみる
実際に韓国のキーボードを使って入力して答え合わせをする。
字面を追って入力していくだけなのでとっつきやすい。キーを探すのも「子音は左、母音は右」と分かっていれば意外とすぐに見つかる。
このような入力方式を勝手にハングル入力と呼んでいたが、調べてみると2ボル式と呼ぶらしい。子音と母音で配置が分かれているので学習コストは日本のかな入力と比べて低そうだし、基本的に左右交互に打つので入力スピードも速い。うまくできてるな~。母音と子音が字面上でそのまま組み合わさっているというハングルの特徴を生かした設計だ。
また、気になっていたハン/ヤングのキーであるが、英数とハングルの切り替えのようだ。
調べると、영にはイギリスを表す「英」の意味があるようだ。한/영とは韓/英 だった。 ちょっと考えたら分かりそうなことだった。くやしい。(ちなみに영には本当に若者の「ヤング」の意味もあるようでした。「だから何?」って感じですが…。)
いっぽう漢字変換は予想通りだった。
あと、2ボル式ではパッチムの区別を入力する必要はない。なぜなら入力した時点で一意に決まるからだ。
で、面白いのが、入力の途中で一時的に間違いが出てくるのだ。
一時的に間違った解釈をするが、最終的には正しくなる。日本語の入力にはない特徴で面白い。
合成母音の入力方法
合成母音が11個中4個しか割り当たっていないのが気になっていたが、いろいろ試すうちに解決した。読んで字のごとく合成するのだ。
うまくできてるな~。しかしこうなってくると合成母音とパッチムを合わせると1文字に4回もキーを押すことになる。
さらに複雑な字が作れないか調べたところ、どうやらパッチムが2個のダブルパッチムというものがあるらしい。Yes!アキトのギャグではない。
뷃← ご覧の環境でつぶれずに表示されてますでしょうか?
韓国にもローマ字入力はあるが、めちゃくちゃマイナー
さて、ローマ字入力についても調べたところ、あるにはあるが、めちゃくちゃマイナーな入力方式だ。Windowsのデフォルトの韓国語入力ではサポートしていない。
疑問はだいたい解決したので、予想結果をまとめる。
【韓国のキーボード入力事情】(改訂版) →予想結果
・ハングル入力では左手で子音、右手で母音を入力する
→ 〇 (ただし、名称は2ボル式入力)
・基本的にひとつのキーにひとつの音が割り当たっている
→ 〇
・一部のキーには2音が割り当たっており、Shiftキーを押しながら入力する
→ 〇 (本文で言及していませんが確かにそうでした)
・しかしヤングな人たちはローマ字入力のようにアルファベットを用いて入力する
→ × (ローマ字入力はあるが、めちゃくちゃマイナーな方式。また、ヤングな人かは不明。)
・ローマ字入力ではパッチムの有無を区別するために、キー割り当てのないアルファベットを例外的に使用する
→ △ (ローマ字入力ではパッチムの有無の区別が必要だが、Esc や Shiftを使用)
・한/영キーを押すことでハングル入力とローマ字入力を切り替える
→ × (ハングル入力と英字入力の切り替え)
・한자キーを押すことでハングルが漢字に変換される
→ 〇
~分からない点~
・合成母音のうち7個がキーに割り当たっていない。どう入力するか
→ 2つの母音を順に入力することで合成母音を入力できる
お~。ローマ字入力以外は結構当たってる。キーボードを確認してからの予想なので当たって当然なところもあるが…。予想→検証の手順を踏むと楽しいなぁ。
韓国のスマホ入力事情も気になる
ここまでPCのキーボード入力について調査してきたが、スマホの入力事情も気になってきた。日本だとフリック入力という便利なUIがあるが韓国だとどうだろう。
iPhoneのキーボード設定で韓国語を選ぶと、PCと同じ2ボル式の入力のほか、10キーという入力方式があるようだ。
入力はフリックであるが、結局2ボル式と同じように子音と母音にわけて入力を行う。おもしろいな~。
韓国人に聞いてみた
最後に韓国人にヒアリングをした。大学時代の友人で、当時韓国人留学生だったさだこさん(あだ名) に韓国のキーボード入力事情について聞いてみた。
ほり:韓国のキーボードって入力が早そうな印象ですが、実際どうですか?
さだこ:早くて楽ですね。
ほり:アルファベットの配列とハングルの配列を両方覚えるのは大変だった?
さだこ:覚えるのは大変ではなかったです。最初からそれが普通だったから、面倒とか考えたことが無かった。それ以外の方法も無いし。
ほり:スマホだとフリック入力?
さだこ:はい。でもガラケーの時からメーカーごとにちょっとずつ違いました。
ほり:iPhoneだとこれ?
さだこ:そう。これも使うし、PCと同じ配列も使いますね。
さだこ:あとメーカーによってはこういうのもあります。
ほり:全然ちがう配列だ~!
ほり:あと、「뷃」っていう字がめっちゃ複雑なんだけど、なんて読めばいい?
さだこ:wwwww そうなんですよ。
さだこ:読み方は、「ぶぇb」ですね
ほり:「ぶぇb」
次は別の言語のキーボードも調査したい
実はスペイン語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、ロシア語、アラビア語、タイ語、トルコ語、台湾繁体字のキーボードについても調査するつもりだったが、韓国語だけでお腹いっぱいになってしまった。次は別の言語のキーボードも調査したい。
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