去年、デイリーポータルZでこんな記事を書いた。
ダビデ像はどれくらいマッチョなのかジムトレーナーに聞いてみる
想像以上にたくさん読まれたので喜んでいたら、出版社の方から「あの記事を本にしませんか?」という世にもありがたいオファーをいただいた。
ウェブライターになって4年、ずっとデジタルの世界で生きてきたが、ついに私の文章を紙に印刷するときがきた。
これは、「アート筋トレでスリム美体に!」という本を突然作ることになった私の、9ヶ月にわたる七転八倒の本づくりドキュメンタリーである。
関係者全員が戸惑うなか本づくりがスタート
デイリーポータルZの読者の皆さん、こちらの記事をご存知だろうか。
次から次へとバズが起きるネット世界なので全員に忘れられているかもしれないが、これは去年の秋頃に公開したインタビュー記事だ。
野田航平さんという女性専門ジムのトレーナーの方にお願いして、ミケランジェロのダビデ像やミロのヴィーナスをひたすら解説してもらった。
こんな記事です
・ジムトレーナーに有名な像の筋肉について聞いてみた
・ダビデ像は前はバキバキだが背中の絞りが甘い!
・ラオコーンはどう考えてもベンチプレスをやっている
・ミロのヴィーナスは体脂肪率は高いけど腹筋だけはめちゃくちゃやってる
自分でもけっこうお気に入りの記事なのだが、これが想像以上にたくさんの人に読んでもらえた。
※デイリーポータルZを始め、いろんな方が拡散してくれた(うれしい)
※でも自分のツイートは広がらなかった。この「書いた本人のツイートは全然伸びない」はライターあるあるです。
リアクションの大きさに喜んでいたら、しばらくしてからこんなメールをいただいた。
「こんなことあるんだな…」と思っていたら、デイリーポータルZの担当編集の石川さんにも「こんなことあるんですね…」と言われた。
関係者全員がとまどう中、こうして私の初めての本づくりがスタートした。
「芸術的にもマッスル的にもいい感じ」の作品は珍しい
編集さんと相談して決めた本のコンセプトはこんな感じ。
「あの記事が急に本の企画っぽくなったな」と感動していたのだが、ここで立ちはだかったのがウェブと本の違いである。
ウェブメディアで記事を書くとき、だいたい(私は)こんな感じで書いている。
それが、本のときはこうである。
本のスケジュールは長すぎる。
いや本が長いというよりウェブが短い気もするが、とにかくずっとウェブ専門で生きてきた私は、こんなに長い間ひとつの仕事をしたことがない。
3ヶ月目あたりで干からびそうで不安である。
本を作ったことがなさすぎて出だしで頓挫する
とはいえ、作業をしないと始まらないので、まずは本の構成を作っていく。
本を作ったことがなさすぎて、どうしていいのかわからなくなってしまった。
わらにもすがる思いで図書館に駆け込み、あらゆる本の目次だけを見るという作業を開始。
こうしてできた構成を編集さんにとりあえず送り、ボコボコに直されたものをまた直した。
構成がある程度できたら、次はテーマになるアート作品を選ぶ作業だ。
芸術の本をいっぱい見ながら、「いいマッスルだな〜」と思うアート作品をどんどんリストアップしていく。
が、これをもとに野田さんと相談したところ、こんな感じの結果になった。
絵画としていい感じだからといって、マッスルもいい感じとは限らないのだ。
「作品もマッスルもいい感じ」をふたりで探し求め続け、最終的には110作品ぐらいの候補から美とマッスルを基準に約25作品を選びぬいた。さながらバーチャルボディビル大会である。
本づくりは思っていたのと違う方向でかなりハード
構成ができたら、次は野田さんへのインタビューだ。
1回2時間ぐらいのインタビューを6回ぐらい繰り返し、それをどんどん原稿にしていく。
このあたりの作業はウェブの記事とほとんど同じで特に苦労はなかったのだが、この後、本づくり最大の危機が到来することになる。
筋トレ本なので、当然筋トレのイラストがないとダメなのだが「じゃあ誰がイラストの元になる筋トレをやるの?」というとそれは当然、私である。
実は、本づくりが決まったときから薄々「もしかしてこれエクササイズを大量にすることになるのでは?」と思っていたのだが、あまり考えないようにしていた。
本に収録するエクササイズは全30種。
野田さんにつきっきりでアドバイスしてもらいながら、すべて自分でやることになった。
野田さんには事前に「資料用の参考写真が撮れたら大丈夫ですよ!」と伝えていた。
が、実際に筋トレを始めてみたら野田さんのジムトレーナーとしてスイッチが入り、「あと10回はがんばりましょう!」「ハードバージョンもやっておきましょうね!」などと言われながら、結局すべての筋トレを完走した。
もとはといえば、私が野田さんのジムに通い始めた(ついでにインタビューをお願いした)ところからこの企画がスタートしたのだが、そのジム通いの日々がなかったら絶対にこの筋トレを完走することはできなかった。
ライターというインドアの極みのような仕事でも、いざというときのために筋肉はあるにこしたことはないのだ。
筋トレがすべて終了したら、次はそれをもとにイラストを描いていく。
当初はイラストレーターさんに頼む想定だったのだが、「イラストの絶妙なへたさ加減がちょうどいい!」という消極的なのか積極的なのかわからない理由で、私がすべてのイラストを描くことになった。
せっかく自分で描くならこだわろうと思い、本で紹介しているアートにちなんだイラストにした。
イラストの量が本当に膨大なので、仕事のスキマ時間にせっせと絵を描き続けた。
膨大なイラストが完成したら、次はようやくレイアウトづくりだ。
最後の山場は「修正ラリー」
レイアウトは、私がざっくり作ったものを、出版社にきれいにしてもらうスタイルでやった。
ここから先は出版社でやってもらう仕事がほとんどなので、私は原稿を待っている編集者のような気持ちでどーんと構えていればよかった。
紙は印刷すると直せないので、「原稿を送る→直す→送る→直す…」をウィンブルドンテニスのラリーなみに繰り返した。
無限に思えた作業の末に、やっと本が完成した。
正直「もうダメかもしれない」と1ヶ月に1回くらい思っていたので、本が出来上がった日には電池が切れたように眠ってしまった。
小さい頃から本がずっと好きだったが、まさか自分の書いた文章が紙に印刷されて、書店に並ぶ日が来るとは思わなかった。
本当に大変だったけど、ウェブと違ってじっくり時間をかけてやる本づくりは、ライターとしてとてもいい経験になった。
せっかくなので、発売されたら「国会図書館で自分の文章をコピーする」という無意味な作業をやろうと思う。
書籍の購入はこちらから。書店ではなぜか「健康・筋トレ」コーナーに置かれています。
また、本の試し読みはこちらから。サクッと読めるのでぜひどうぞ!