プーチンの「呪い」を如何に解くか:ロシアの報復工作の成果

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昔ならば嫌なことや不吉な出来事が連続して起き、その原因が分からない時、王様や君主は「われわれは呪われている」と感じ、家来たちにその呪いを解くためにまじない師や祈祷師を探すように命令した(日本では昔、呪いや災難除けのために寺や神社を建立した)。

21世紀の今日、そのような命令を下す指導者はさすがにいないだろう。今ならば「どこかの国がわが国にサイバー攻撃を仕掛けている」とか、「影の国(ディープステート)が背後で暗躍し、情報工作をしている」と疑い、自国の情報機関にその対策に乗り出すように指令する。

総選挙の結果、野党陣営に敗北し、辞意を表明したスウェーデンのアンデション首相 同首相SNSより

当方は今、一つの考えというか、疑惑を感じている。具体的には、ロシアのプーチン大統領の「呪い」といったほうがいいかもしれない。ロシアを批判するコラムを大量生産している当方に対するプーチン氏の「呪い」がかかってきたのではない。ロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、ロシアに反抗した国々への「呪い」だ。通常の言葉を使うならば、「ロシア側の報復工作」といえるだろう。以下、それを少し説明する。

当方の一方的な推測だが、ロシア正教徒のプーチン大統領の「呪い」の対象となっている国は3カ国だ。チェコ、フィンランド、そしてスウェーデンだ。チェコは現在、欧州連合(EU)の下半期の議長国だ。フィンランドとスウェーデンは北欧の中立国だが、ロシアのウクライナ侵攻後、北大西洋条約機構(NATO)に加盟を申請した。ロシアからみたら、それらの3国は反ロシア陣営に加担する国であり、許すことが出来ない国ということになる。

もちろん、ロシア側の「報復工作」は上記の3国だけに限られているわけではない。ただ3国ではロシア側の報復工作の成果が既に見られだした国、といったほうが妥当だろう。他の反ロシアの国々でも今後、ロシアの報復工作の成果が出てくるかもしれない。

まず、チェコの場合だ。このコラム欄でも報告したが、首都プラハで3日、約7万人が参加した大規模なデモが行われた。ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻させて以来、欧州各地でロシアのウクライナ侵攻に抗議するデモは開かれたが、今回のデモはロシア批判というより、「政府はウクライナ支援ではなく、国民生活の改善に努力を」というものだった。要するに、ウクライナではなく、チェコ・ファーストを叫ぶデモだった。

チェコはウクライナ戦争勃発後、他のEU諸国と同様、対ロシア制裁を実施する一方、旧ワルシャワ条約機構時代の武器を提供してきた。同時に、ウクライナからの避難民を積極的に迎え入れてきた。同国は今年下半期のEU議長国だ。ロシア軍の侵攻に対抗するウクライナを支援するEUの結束と連帯を調停する立場だが、ウクライナ戦争の影響もあって、物価高騰、エネルギー危機が深刻となってきている。そこで「ウクライナ支援もいいが、国民の生活を優先すべきだ」という声がデモ集会では聞かれた。昨年12月に発足したペトル・フィアラ首相を中心とした新連立政権は大きな試練に直面している(「ロシア『EU議長国チェコを狙え』」2022年9月6日参考)。

フィンランドの場合。ロシアのプーチン大統領が軍をウクライナに侵攻して以来、ロシアと1300キロ余りの国境を接する同国には、「わが国も第2のウクライナになるのではないか」という国防上の危機感が政治家、国民の間で急速に高まっていった。そして最終的には中立を放棄してNATOに加盟申請する決定が下された。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領とアンデション首相 同首相SNSより

それを主導したのは36歳の若いマリン首相だ。同首相は紅潮した表情で同国のNATO加盟を表明していたのを思い出す。マリン首相にとっても忘れることができない檜舞台だったはずだ。ここまでは良かったが、公務の合間で開かれたプライベートなパーティーで首相が興じる姿を撮影したビデオが次々と外部に流れ、メディアで報道されたのだ。最初のビデオを観た人から「首相はハイになっている」という疑いを持たれ、薬物検査を受けざるを得なくなった(「フィンランド首相『私も人間』」2022年8月28日参考)。

2番目はマリン首相が1人の男性と抱擁するところが映っていた。「既婚者の女性が別の男性と…」といった批判の声が聞かれたが、ここまではまだ許容範囲だったかもしれない。しかし、3番目の写真はそう簡単ではなかった。首相官邸で開かれたパーティーに招待されていた2人の女性が上半身裸でキスをしているシーンがメディアで報じられ、マリン首相も謝罪せざるを得なくなった。

最後はスウェーデンの場合だ。プーチン氏の「呪い」を受ける理由はフィンランドと同様だ。NATO加盟だ。中立国だが、近代的な軍隊を誇るスウェーデンのNATO加盟はNATOにとって大きな支援となる一方、ロシアにとっては脅威だ。そこで同国のNATO加盟を指導したアンデション首相への報復工作が進められたというわけだ。同国では11日、総選挙が実施され、政権を担当してきたアンデション首相の与党社会民主労働党が野党の右派中道陣営に過半数を許してしまった。その結果、同首相は辞意を表明せざるを得なくなったのだ。

上記の3件はいずれもロシア軍のウクライナ侵攻に対してロシア批判してきた国での出来事だ。短期間で異変が続けて起きた場合、それを「偶然」と取るか、「背後に何かある」と考えるかは人によって違うだろう。ただ、松本清張の推理小説ではないが、別々なところで生じた出来事も、その「点」を繋ぎ「線」とすると、予想外のことが浮かび上がってくるのだ。

チェコの場合、7万人に膨れ上がった大規模な反政府デモの背後には、ウクライナ支援で結束するEUの連帯を崩そうとするロシアの工作が見え隠れする。フィンランドの場合、NATO加盟を推進したマリン首相のイメージダウン工作だ。そしてスウェーデンの場合、NATO加盟を申請したアンデション首相を選挙で政権から追いやることだ。ロシアが欧米諸国の選挙では様々な工作を展開することはよく知られている。前回の米大統領選でもロシアの選挙工作が囁かれたほどだ。

最後に、上記の3点がプーチン氏の「呪い」から生じた出来事であるとすれば、どうすればその「呪い」を解くことができるかだ。答えは案外、シンプルだ。対ロシア制裁を解除すればいいのだが、それはできない相談だ。とすれば、ウクライナ戦争が終わるか停戦合意するまではプーチン氏の「呪い」は続くと考え諦観するか、昔の王様のようにまじない師か祈祷師を探し出すしかないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年9月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。