【福田昭のセミコン業界最前線】急速に不透明感を増す2022年の半導体市場、2桁成長が微妙に

PC Watch

2022年の世界市場は当初、14%~16%の成長を予測

 2022年の半導体市場が急速に不透明感を増している。第1四半期と第2四半期の実績を受けて業界団体とハイテク市場調査会社が市場予測を下方修正した。さらに、半導体メモリ大手ベンダーの業績見通しが急速に厳しいものとなってきた。2022年の前半には確実と考えられていた2桁成長が、微妙になりつつある。

 まずは修正前の予測を見ていこう。半導体メーカーの業界団体である市場予測機関WSTS(世界市場統計)は2022年6月7日(日本時間)に、2022年の世界半導体市場は16.3%伸びて6,464億5,600万ドルになるとの予測を発表した。市場調査会社のGartnerは2022年4月26日(米国時間)にニュースリリースを発行し、2022年の世界半導体市場の成長率を13.6%、市場規模を6760億ドルと予測した。いずれも2021年の26%成長に比べると成長率は下がるものの、かなり高い成長を維持する。

 また同じく市場調査会社のIC Insightsは2022年6月1日(米国時間)に、2022年の世界IC(半導体集積回路)市場は前年比11%増の5,671億ドルになるとの予測を発表した。

 WSTSとGartnerの予測値は、昨年(2021年)11月と12月にリリースした予測を上方修正したものだ。Gartnerは4月26日の発表文で、「半導体の供給不足による平均販売価格(ASP:average selling price)の上昇が成長を牽引する。ただし2022年を通じて供給不足は徐々に緩和し、在庫の増加とともに価格は安定する」と述べていた。特に自動車向けマイクロコントローラ(MCU)と電力管理IC、電圧安定化ICは、2023年まで供給不足を引きずるとみた。一方、PC向けとスマートフォン向けは出荷台数の伸びが鈍化するため、半導体の需給バランスは2022年中に緩和するとした。

第2四半期の業績発表でメモリ大手が第3四半期の市況は厳しいと予測

 異変が起きたのは2022年7月以降である。2022年第2四半期(4月~6月期)の業績を同年7月に発表した半導体メモリ大手ベンダーのいくつかが、次の四半期(第3四半期:7月~9月期)の業績はかなり厳しいものになるとの見通し(ガイダンス)を述べたのだ。

 最も早くに厳しい見通しを発表した半導体メモリ大手はMicron Technology(以降はMicronと表記)だろう。同社は8月を決算月とする変則的な会計年度を使用している。2022年6月30日にMicronが四半期(2022会計年度第3四半期、2022年3月~5月期)の業績を発表した中で次期(2022会計年度第4四半期、2022年6月~8月期)の見通しがかなり厳しいものになるとの見通しを示した。

 2022会計年度第4四半期の見通しは売上高が72億ドルプラスマイナス4億ドル(68億ドル~76億ドル)、粗利益率は42.5%プラスマイナス1.5%(41%~44%)である。同第3四半期(2022年3月~5月期)の実績は売上高が86億7,200万ドル、粗利益率が47.4%なので、中央値で比較すると売上高はマイナス17%、粗利益率はマイナス6.9ポイントとなる。

Micronが2022年6月30日に発表した2022会計年度第4四半期(2022年6月~8月期)業績見通し

 NANDフラッシュ大手の一角であるWestern Digital(以降はWDと表記)も、2022年8月5日に発表した2022年4月~6月期(2022年会計年度第4四半期)業績の中で次期(2022年7月~9月期、2023会計年度第1四半期)の業績は非常に厳しいものになるとの見通しを述べた。

 見通しによると、2023会計年度第1四半期の売上高は前の四半期と比べて18%減の37億ドル(中央値)、粗利益率(Non-GAAPベース、中央値)は3.8ポイント減の28.5%となる。WDの売上高は粗く分割するとHDD事業とNANDフラッシュ事業がおおよそ半分ずつを占める。事業環境が厳しいNANDフラッシュ事業の売上高は20%を超える減少になるとみられる。

WDが2022年8月5日に発表した2022年4月~6月期(2022年会計年度第4四半期)業績(Non-GAAPベース)の概要

WDが2022年8月5日に発表した2022年7月~9月期(2023会計年度第1四半期)の業績見通し

 また半導体メモリ大手のSK hynixは、2022年第1四半期の業績発表では市況を「需給バランスが不透明感を増している」とまとめていたのに対し、2022年第2四半期の業績発表では市況を「IT分野からの需要が急速に冷え込んだ」と大幅に悪化しているとの認識を述べた。同社は第2四半期に韓国ウオンベースで過去最高の売上高を記録しただけに、市況が急速に厳しさを増しているとの見方は業界関係者の注目を集めた。

SK hynixが発表した2022年第1四半期と同年第2四半期の市況。同社が2022年4月22日に発表した第1四半期の業績概要スライドと、2022年7月27日に発表した第2四半期の業績概要スライドから

調査会社はメモリ価格の低下がさらに進むと予想

 半導体集積回路(IC)をロジックとメモリに分けると、メモリの市況が急速に悪化している。ハイテク市場調査会社のTrendForceは四半期ごとにDRAM価格とNANDフラッシュ関連製品価格の実績(推定)と予測を公表してきた。2022年は第3四半期(7月~9月期)の価格予測が通常の発表後に繰り返し、下方修正された。これはかなり異例のことだ。

 DRAM価格(前四半期との比較)で見ていくと、第3四半期の予測は2022年6月20日に発表された。全体としては第2四半期(4月~6月期)が0%~5%のゆるやかな下降(品種によってはわずかに上昇)であったのに対し、第3四半期は5%前後の低下と下げ幅が強まった。ロシアによるウクライナ侵略の影響によって個人消費(スマートフォンやクライアントPCなど)が縮小しつつある。コンシューマ向けDRAMの在庫が増加して価格を下げる圧力となった。

 ところがTrendForceはわずか半月後の7月4日に、第3四半期の価格予測を下方修正する。個人消費の縮小が想定よりも急速に進み、値下げの圧力がさらに強まった。全体としては10%近い下降へと予測を更新した。そして1カ月後の8月10日には、7月4日の予測では10%前後の下げ幅だったコンシューマ向けDRAMの価格を15%前後の値下げへと再び下方修正した。コンシューマ向けDRAM市場は値下げ競争の様相を示しつつあるという。8月10日の発表では、第4四半期(10月~12月期)もコンシューマ向けDRAMは5%前後の値下げが見込まれるとする。

DRAM価格(前四半期比)の予測推移(2022年第3四半期)。市場調査会社TrendForceの発表資料からまとめたもの

 NANDフラッシュ関連製品価格(前四半期との比較)の値下げペースはDRAMよりも速い。TrendForceは2カ月間で2回の下方修正を迫られた。当初の予測は2022年6月21日に発表された。全体としては第2四半期が5%前後の価格上昇を見込み、第3四半期が5%前後の価格低下になると予測した。DRAMと同様に個人消費が冷え込み、スマートフォンの在庫削減が進まないことで需給バランスが供給過剰になると予想した。

 1カ月後の7月19日には、予測値を全体的に下方修正した。スマートフォン、ノートPC、テレビ受像機の需要が急速に冷え込みつつある。在庫が予想よりも減らず、値下げ圧力が強まった。全体としては価格の低下幅を10%前後に強めた。そして1カ月後の8月24日には、再度の修正結果をTrendForceが発表した。NANDフラッシュ関連製品の価格は全体で第2四半期と比べて15%前後の値下げとなる。

 さらにわずか1週間後の9月1日にはNANDフラッシュ関連製品の中でNANDフラッシュウエハーの価格予測を8月24日発表の15%~20%減から、30%~35%減へ修正すると発表した。買い注文の手控えが続いたために工場在庫が満杯になり、成約価格が一段と下降した。

NANDフラッシュ関連製品価格(前四半期比)の予測推移(2022年第3四半期)。市場調査会社TrendForceの発表資料からまとめたもの

 季節要因として注目すべきなのは、クリスマス商戦に代表される第4四半期の消費需要拡大がもはや期待できないとTrendForceは認識していることだ。ウクライナ紛争による燃料価格や食料価格などの急激な上昇が、例年とは違って個人消費の動きを封じこめた。

2022年の世界市場予測を7月~8月に下方修正

 再び2022年の世界半導体市場に戻ろう。7月~8月には、市場予測が相次いで下方修正された。市場調査会社のGarnerは2022年7月27日に、2022年の市場予測を7.6%成長に修正すると発表した。同社が4月26日に発表していた予測は13.6%成長だった。6.2ポイントの大幅なマイナス修正であり、昨年12月23日に公表していた成長率の9.4%よりも低い値となった。

 業界団体の市場統計機関WSTSは2022年8月22日に、2022年の市場予測を13.6%成長に修正すると発表した。WSTSが同年6月7日に発表していた予測は16.3%成長であり、修正幅はマイナス2.4ポイントとGartnerに比べると小幅にとどまった。言い換えると、かなり強気の予測を残した。

2022年の世界半導体市場予測(2022年7月~8月)。業界団体であるWSTS(世界半導体市場統計)と市場調査会社のGartnerおよびIC Insightsの発表値をまとめたもの。Gartnerは7月、WSTSは8月に成長率を下方修正した

 Gartnerは7月27日の発表文で、半導体の供給不足は緩和されつつあるとともに、半導体需要を支える電子機器の出荷が特に個人向けで弱くなっているという現状認識を示した。物価の上昇、税率と利息の上昇、エネルギー価格の上昇による可処分所得の減少が個人消費を冷え込ませた。特にPCとスマートフォンの出荷に影響を与えているとする。なお同社は6月30日に、2022年のPC出荷台数は世界市場で前年比9.5%減、携帯電話端末の出荷台数は世界市場で前年比7.1%減になるとの予測を公表している。

WSTS(世界半導体市場統計)が2022年8月22日に発表した世界半導体市場の推移(金額の単位は100万ドル)。2021年は実績、2022年と2023年は予測

Gartnerが2022年7月27日に発表した世界半導体市場の推移(金額の単位は100万ドル)。2021年は実績、2022年と2023年は予測

 市況を悪化させる要因の緩和時期はまだ見えない。半導体不足の解消に向けて供給量を増やしたところに需要の減退が重なり、供給過剰が特にメモリ分野で一気に進んだ。メモリ価格の低下による市場規模の縮小が約束されたようなものだ。2022年の世界半導体市場は、予測値の再修正(下方修正)が避けられない。そのように見える。

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