和服から洋服にトランスフォームできる服を作りたい

デイリーポータルZ

電子工作やクラフト、メディアアートなどの作品を作っている人が一堂に会するメイカーフェアというイベントがある。

デイリーポータルZでも毎年出展をしていて、今年「よかったら出ませんか?」と誘ってもらった。

すぐに「出ます!」と二つ返事で答えたわりに、なにを展示するか全く決めていない。

スマホのネタ帳をさかのぼると「和服から洋服に時空を越えてトランスフォームする服」とメモしてあった。

なんかすごそうである。

ゴジラ対キングギドラみたいな、訳もわからぬすごそう感がある。

言葉の壮大さのおかげですんなり企画が通り、初めてのメイカーフェアに向けての制作が始まった。

デザインを描く

まずは、これがあればそう見える!という和服と洋服の特徴を書き出してみた。

和服の特徴は袖と帯とえり。洋服の特徴も袖とえりだと思う。シルエットの線も特徴的だ。

ここからデザイン設計を練り、通勤中も食事中も寝る前も、ささやかな恋のようにデザインのことを考えた。

 

そして、決まった!

和服からジャケットとマーメイドスカートの現代トレンドファッションへトランスフォームさせよう!

設計図はこちら。

10年以上使ってたペンタブが壊れたので手書きです。

帯でかくして和服に見せるが、上下を分離させて作る。

上着は袖を付け替えてジャケットに変形させる。洋服の袖は、和服の背中の帯結びとして使おう。

スカートはファスナーを開くと裾が広がりマーメイドシルエットに変形する仕様だ。

 

となると、和服の袖と帯が余るのだ。

実は、昨年もメイカーフェア用にトランスフォームする服を作った。(結局、コロナの影響で展示中止になってしまいましたが。)

これが昨年の「パンツが袖になるトランスフォーム服」だ。

その際に悩んだのは、トランスフォームする上でパーツの余分がどうしても出てしまうことである。

昨年はどうにもならなくて余分なパーツを丸めてカバンに詰め込んだ。

今回もそうしよう。カバンに詰め込んでなかったことにしよう。

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布を買いに行く

次に、布を選びにライターのとりもちうずらさんと日暮里へくり出した。

#うずらさんとランチ

今回は、服本体の布と帯・袖の布の2種類探すつもりだ。

布屋をぐるぐる巡り、本体の布は厚手の花柄の布に決めた。

ゴブラン織りという、お金持ちの家のカーテンやマットになっているしっかりした布だ。

帯の部分はマットなレザーがかっこいいと思いついた。

うずらさんにも色合わせを手伝ってもらい、グレーの花柄と黒のレザーを購入した。

和服にも洋服にも使えそうな絶妙な花柄。めちゃくちゃ高かった。

これで材料が揃った!

土台のパーツを作る

ここから洋裁開始。

先に土台となるジャケットとスカートを作り、次に付け替えになる和服と洋服の袖を作って合体させよう。

まずは土台になるスカートを作る。

型紙を書いて、

これはマーメイドスカートの型紙。もう形がかわいい。

裁断する。

本当は縫い目で柄が途切れないように、柄も考慮して裁断をするけど、今回は柄は無視して切ります。

ジャケットの型紙も書いて裁断。

左がジャケットの身頃部分、右がマーメイドスカートだ。

これを縫い合わせるとこうなる。

あの裁断後の布切れのようなパーツを縫うとこうなるのだ。洋服への加速がすごい。

良い!既に良すぎる。

このまま作業を進めずに、このかわいさを噛み締めていたい。

成長は嬉しいけれど、この2歳をもっと見ていたいのだ。

 

嬉しくなって着た。

ひ〜!!良すぎ!このまま出かけたい。

丈感もシルエットも最高だ。

こうやってちょっと作っては着てを繰り返し、良さを噛みしだきながら作業している。

 

次にジャケットにえり、内側に見返しをつけて細部を仕上げる。

裏の始末や小さいパーツに意外と時間がかかる。作業してるのに進みが遅くてもどかしいパートだ。

ほつれないように裏側の縫い代を処理して、今日は終わりにしよう!

いや、まだ掃除があった。

 

付け替えパーツを作る

次に付け替えパーツの洋服の袖、和服の袖、帯を作っていこう。

和服の帯と洋服の袖はレザーの布で作る。

帯用に細長く裁断し、

裏についている固い芯地を剥がしていく。

これがかなり根気のいる作業。しっかりくっついているので、腕は筋肉痛になるし指は燃え尽きる。

良い方法はないか調べたところ、除光液を芯地に塗り込むと剥がれやすいらしい。

やってみたらネイルまで剥がれてきた。

ネイルがジオラマの芝みたいになってる。

全部剥がせた!と時計を見たら1時間も経っていた。

繊維に擦れて両手の指の関節に水ぶくれができていた。満身創痍だ。

疲れてるのかな。海苔に見える。

しかし帯で満足していられない。

同じくレザーを使う袖の芯を剥がしていたら、夕方になってしまった。

あぁ、布が美しい。絵画か。

 

ラストスパート

袖ができたら合体部分を作っていく。

袖と身頃はファスナーをつけて取り外し可能にしたい。

願望を頭で想像するだけで、縫い終わってたりしないかな。

いけない、いけない。

作業が億劫になってきたら、凝りたい部分の作業をしよう。

私の好きなパーツである、袖口を素敵に仕上げるぞ。

袖口にボリュームを出すため、布を折り重ねてタックを寄せる。

この袖口を縫ったとき、ミシンの針が折れた。

レザーが硬すぎて厚すぎたのだ。一針ごとに打ちどころが悪いと針が折れる。賭けみたいな縫いだ。

ピピピピピ!!というミシンに「ごめんごめん!」と返す。ここだけだから!耐えて!と念じながら針を変えて進める。

 

布を止めているシルクピンも、縫っているときにミシン針とぶつかってよく曲がる。

NIKEだ。​​

針たちにパワハラで訴えられたらぐうの音も出ない。

この道具たちも満身創痍なのだ。

 

何とか袖口を縫い終えて、カフスにはお花のボタンをつけてみた。

かわいい~!

好きなパーツを作ったおかげで調子が出てきた!

 

よし、ラストスパートだ!

和服の袖を作り、

ノッてきたぞ!​​​​​

袖の合体部分は、スナップボタンで取り外し可能にした。

ものすごいスピードでつけられた。無敵タイムだ。記憶にもない。

これでジャケットへのトランスフォームが完成!

袖が違うだけで雰囲気が変わる。

スカートもファスナーをつけて開閉可能になった。

ファスナーをあけるとレザーが出てきて裾が広がる。

これで完成!やったー!うれしい!

約1週間、25時間ほどかかった。達成感がすごい!!

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トランスフォームまでに時間がかかる

さっそく和服から現代ファッションへトランスフォームしてみよう。

ということで和服を着ます。

帯をしめるのが難しくて10分かかった。

ちゃんと和服に見える!

えりもとは内側に折り込み、和服のように重ねた。

帯の上に巻いている細い帯締めは、細ベルトで代用。

背中の帯結びは、洋服の袖パーツを結んでリボン風に。

垂れている袖口がいい感じ!トランスフォームで偶然生まれたこの帯の形がとても好きだ。普通に帯を作ろうとしてもきっとたどり着けなかった。

後ろのえりも折り込めばすっきり。

中森明菜の「DESIRE-情熱-」感。

ちょっとはしゃいでも着崩れてこないのもいい。

この歩幅が和服を着ているんだなと感じる。

 

そして、ここからが見せ所のトランスフォームだ!

和服の袖を外して、

外した袖はその辺に置いておく。

帯に見立てて結んでいた洋服の袖を取り外し、

外した洋服の袖も一旦その辺に置いておく。

残りの帯も取り外し、えりを出して、スカートの裾を広げる。

えりを出すところがお気に入り。

あと少し!袖はいったん脱いでつける。

このようにどうしても泥臭い工程が入る。

よし、これでトランスフォーム完了!!

おぉー!かっこいいモダンファッションだ!

スカートは流行りのマーメイドスカートに変形。

少し形や丈感が変わるだけで和服の面影がなくなる。

短丈のジャケットも今っぽい。

だぼっとした袖の重量感がかっこいい。

袖口のボタンもいい。

ここを見ていると嬉しくなる。パワースポット。

帯の上に巻いていた帯締めはベルトに使用。

さりげないアクセントになっている。

細部もいいのだが、このシルエットがとにかくかっこいい!!

あー!好きだ!

かっこいい感じでと写真をお願いしたら、ものすごい強そうなものが撮れてた。

ボスの肩幅。

そして余ったパーツはカバンに詰め込んだ。

よし。

これで和服から現代ファッションへトランスフォームする服が完成した。

形作るのも楽しかったし、手塩にかけて作った服を美しいと思えるのがなによりうれしい。

ともあれ、メイカーフェアが楽しみである。

 

はじめてのメイカーフェア

9/3.4に東京ビッグサイトで開催されたメイカーフェアに服を展示した。

来てくださった方ありがとうございました。

ロボや電子工作を見に来て、服に興味を持ってくれる人がいるのか心配だったが、年齢を問わず、特に女性の方に多く見てもらえた。嬉しかった。

 

2日目、ブースに座っていたら、かわいらしい小学生2人組が、メイカーフェアのインタビュー隊というような旗を掲げて私のところにやってきた。

 

「なんでこの服を作ろうと思ったんですか?」「これはなんの材料で作ったんですか?」と、私におもちゃのマイクを向けながらハキハキと尋ねてくる。

 

簡単に説明をすると一生懸命メモを取る、なんていい子たちなんだ。

最後に「チェキを撮ってもいいですか?」と聞かれた。

 

なるほど、インタビューした人としてノートに貼ったりするのかな?と思いながらも「え!恥ずかしいな〜!」と一丁前に渋っていると、全然マネキンの服をチャッと撮って去っていった。

 

本当に恥ずかしいにも程がある。

とても勉強になった二日間だった。

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