永らくワイングラスを畏れのものとみなしてきた。
まず全てガラスでできているのがおそろしい。ふくよかな丸みのグラス、グラスを支える細く長い脚、ワイングラスの持つ圧倒的なグラマラスなオーラ。
うちの質素な暮らしにはこれでじゅうぶんと、マグカップでワインを飲むわたしを見かねて、ソムリエとして働く弟が100円で買えるいいワイングラスがあるよと教えてくれた。
何年か前に流行りましたね、ダイソーの薄グラス
ダイソーで買えるうっすいうっすいガラスのグラス。100円でポーランド製のグラスが買えるなんて、とずいぶん流行っていたので見覚えのある方もいるだろう。
当時はいわゆるタンブラータイプがよく売れていたように記憶しているが、このまるっとしたワイングラスタイプが、またよく出来ているのだそうだ。
そもそもなぜワイングラスがぽってり丸いかというとその中に香りがたまって…なんでガラスが薄いほうがいいかというと飲み口の薄さによって飲み心地が…
弟からいろいろと教えてもらった気がするが、正直よく覚えていない。
おぼろげな記憶だけど確かにダイソーの薄ワイングラスで飲む酒はおいしかった。でもそれって本当にグラスのおかげなのか?
ただ酔っ払っていただけじゃない?
ワイン以外にもいろいろな飲み物を薄ワイングラスで飲んでみる
ならば確かめよう、ダイソーの薄ワイングラスのよさを。
酔わずに味の違いを判断できるよう、ノンアルの飲み物を缶・ビン・ペットボトルといった容器のままといつものタンブラーグラス、それから薄ワイングラスとで飲み比べてみた。
飲み比べる飲み物だが、過去にべつやくさんが味噌汁をワイングラスで飲んでいたのを読み、しょっぱい系も試すことにした。
〜飲み比べドリンクリスト〜
・オロナミンC
・缶コーヒー(ブラック)
・ウィダーinゼリー
・コカコーラ
・富良野ホップ炭酸水
・シーフードヌードル
・パック豆腐の水(豆腐?の水??なぜ???という声が聞こえてきますが後ほどご説明します)
飲み口変われば味が変わるはガチ
飲み比べてまず実感したのは飲み口の厚みによって味が変わるということだ。
ぶあつく細い飲み口は、液体が舌に触れるまでに一瞬「タメ」があり、間を置いてざっぱんどっぱんと味がやってくる。一方飲み口が薄く広くなるほど、シームレスに舌へ液体が流れる。まるで穏やかな海のように、気がつけばひたひたと味が口内に広がるのだ。
飲み比べてもっとも衝撃的だったのはシーフードヌードルのスープである。
それがどうだ、薄ワイングラスだとすさあ…と舌の上をスープが撫でていく。塩味よりも油分や海鮮の風味がじんわり広がり、飲み込む頃にようやくジャンクな塩気のことを思い出すのだ。
なんだかとても上等な飲み物になってしまって、おいしいけど戸惑う。10年ぶりの同窓会で会ったらショックを受けたのち一言二言交わして「あ、なんだ根っこは変わってないんだね」とかなんとか、ホッとして好きになってしまうと思う。
一方、逆に薄グラスだとおいしく感じられなかったものもある。
どちらもゴキュっと飲み干してうまい!というタイプの飲み物だ。
薄ワイングラスで飲むとその勢いはどこへやら、ぼんやりぼやけた味になってしまった。ワイングラスと同じように、きゅっとすぼまったびんやパウチの飲み口も意味があったのだ。
それから好みが人によって分かれて面白そうなのが豆腐の水である。
夫と同棲を始めたばかりの若かりし頃、パック豆腐の水を捨てようとしたら「え?捨てるの?飲まないの?」と聞かれ、「え?飲むものなの?」と素直なわたしは考えを改め、以後パック豆腐の水を飲むようになった。のだが。
編集の古賀さんに「パック豆腐の水を飲むのは一般的ではないので説明が必要です」と言われて目が覚めた。やっぱりパック豆腐の水を飲むのは一般的ではないですよね?!?
〜パック豆腐の水を飲むようになった経緯を夫氏に聞いてみた〜
(なぜパック豆腐の水を飲むのでしょうか)え、え??だってそこにあるんだよ。おいしそうな色付きの水が。飲むでしょうよ。(何歳ぐらいから飲んでいるんでしょうか)覚えていないけれど、子どもの頃、実家で「どんな味するのかな」と思って飲みはじめたかな……。(家族みんなで飲んでいたのですか)…いや、言われてみれば自分しか飲んでいなかったと思う。少なくとも姉は飲まなかった。
……とはいえ、パック豆腐の水、おいしいんですよ。ミルキーな豆乳とはちがって、爽やかさがあるというか、飲むヨーグルトとヨーグリーナぐらい別物。
普通のコップで飲むと豆腐の力強さが味わえるけど、薄ワイングラスで飲むと豆腐に優しく抱かれているような心地がします。豆腐に抱かれてみたい方はぜひ薄ワイングラスをお試しあれ。
ワイングラスの丸みの意味は香りにあり
さて、万年鼻炎持ちの皆様に朗報です。
薄ワイングラスで飲むと香りが、わかる!!わかるぞ!!
香りを嗅ぎにいくというより、香りの方から来てくれる。香りの中にいるような感覚が新鮮で嬉しい。
缶コーヒーなんかは特に飲み比べてわかりやすいが、香り部門ではわたしの愛飲している炭酸水を推して終わりとしたい。
amazonのレビューでは「ただちょっと苦い水」など酷評も少なくなく、廃盤品に至っては近所のディスカウントショップで1本29円と、ペットボトル飲料最安値を更新して投げ売りされていた本品。
何よりもったいないのはこの炭酸水がペットボトル飲料として売られていることだと思う。富良野ホップ炭酸水、飲み方次第で大化けするのだ。
ワイングラスに注ぐと、マスカットの皮の部分のような、ホップ由来の青く爽やかな香りが炭酸とともに弾けてグラス内に充満する。甘くなく、どこまでも瑞々しい炭酸水で、これこそワイングラスで飲むべき飲み物となるのだ。
ワインだともっといろいろな理由で美味しくなるらしい
実験の結果、飲み口の薄さによる味の変化、丸みのある形による香りの変化があることがわかった。
ところが実は、まだまだワイングラスにはワインを美味しくする理由があるらしい。液体と空気が触れあう面積や、グラスの素材による液体の温度変化の違いとか。ワイングラス、奥が深い。
お酒に強い人はぜひ違いを味わってみてほしいし、飲めない人、すぐごきげんに酔っ払う人はノンアルコールで味の探検をしよう。まだまだ夏の自由研究は終わらない。