米ペロシ下院議長の台湾訪問がもたらす懸念:何をしに台湾に行くのか

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アメリカのペロシ下院議長が台湾を訪問しそうです。このブログがアップされた後、半日ぐらいのうちである8月2日夜に台湾に到着しそうだという情報が溢れていますが、安全上の理由でルートなどはいくつものパタンが浮上しており、具体的にいつ頃、何処から入国するのか、判明していません。

ペロシ米下院議長 同議長ツイッターより

ペロシ下院議長は日本、シンガポール、マレーシアのアジア歴訪をする中で台湾がその中に入っています。セキュリティを考えれば台湾を一番先にするのが正しくなります。なぜなら歴訪先から次の歴訪先に移動するとなるとあまりにもパブリックの目に留まり、隠密行動が出来ないからです。よってこの「ペロシ下院議長 台湾上陸作戦」は周到な準備が行われているとみています。

フィリピン経由ではないか、という報道もありますが、個人的には直行を前提にしながらもいざとなれば経由地としてグアムや沖縄がその選択肢になるような気がします。いずれにせよ、今週の最大のニュースになるでしょう。

では、ペロシ氏は何をしに台湾に行くのか、これがよくわからないのです。下院議長はアメリカでは大統領、副大統領に次ぐNO.3の地位です。かつてギングリッチ下院議長が台湾を訪れたことがありますが、ギングリッチ氏は当時野党だった点に於いて意味合いが違います。また、先日のバイデン-習近平氏の電話会談でバイデン氏はペロシ氏が台湾に行くことにあまり賛同していないという趣旨の発言をしていました。これが習氏に対する緩和的目的をもって発言したのか、本当に賛同していないのか、わかりかねますが、今までの報道を見る限り、バイデン氏はペロシ氏に「やめとけ」と言っているのに「いや、私は行く」という感じではないか、と推察されます。

これに対して中国側の反応はすさまじく、「火遊びをすれば必ず焼け死ぬ」(習近平氏)「中国の内政に対する乱暴な干渉で、中国の主権と領土保全を深刻に損なう」(中国外務省)とし、中国軍も台湾対岸で軍事訓練をするなどきな臭くなっています。

中国は台湾に侵攻するのかというテーマは、ロシアのウクライナ侵攻と世界の着目度から下火になっていたのですが、ここにきて少し方向転換したような気がします。

一つはロシアのウクライナ侵攻関係の報道が極端に減ってきており、世界の関心がそこに向いていないことが挙げられます。報道機関は淡泊なもので視聴率や世の中の関心を引くような事件が起きれば報道をし、話題にもなります。しかし、侵攻から5か月を過ぎた今、目新しさはなく、時間だけが過ぎていくような状態になっています。いわゆる膠着です。香港問題も結局、抵抗する香港市民を中国がパワーで押し込み、今では香港民主化の報道も活動もほとんど目にすることはありません。とすれば「のど元過ぎれば…」と習氏が思い始めている節はあります。

二つ目はちょうど今、北戴河会議をしている最中で長老が集まり、人事問題や秋の党大会のことをやり取りする中で習氏が今回のペロシ氏訪台に明白なる姿勢を見せることが求められているのだろうとみています。当然、これは秋以降の指導体制を明確にするということにもつながります。

三つ目にアメリカが先に火をつけた台湾問題だというこじつけで中国側は一気にこの「問題解決」を現実化させるきっかけと見ることもできます。習氏が言う火遊びは大火事になることすらあり得るのです。但し、アメリカはそこまで覚悟はないし、ウクライナ支援をするなかで、地政学的にも遠い台湾の両方はアメリカには厳しい対応になるでしょう。

日本も中国の侵攻に備えなくてはいけないのか。ここは若干話が飛躍するのですが、日本が下手な手を打つと尖閣などは半日で占拠されてしまうのは目に見えています。そしてアメリカは尖閣ごときで日本に加勢しません。よって、保守層の気持ちはわかりますが、ここは冷静になるべきでしょう。

そもそも岸田首相はそこまで中国との対峙に肝が据わっていないというか、自分で判断できないので懸念を表明し続け、「検討する」を繰り返すことに留まるとと私はみています。岸田氏は対ウクライナ問題での態度表明の経験で酸いも甘いも噛み分けることができたはずです。とすれば、いくらアメリカやオーストラリアから支援があったとしても日本そのものが橋頭保になれないのですから冷静な態度を保つしかないのが消去法的結論ではないかと思います。

中国には10万人以上の日本人が在住し、1万3000社以上の日系企業があるとされます。仮に日本政府が下手を打てばそれらの人々や事業、資産に極めて大きなリスクがあることだけを考えても岸田氏が中国を刺激することができるとは思えないのです。

もちろん、無防備という訳にはいきません。が、ここは慎重な判断と政府の態度表明が重要でしょう。個人的には何もなくペロシ氏が台湾を離れてくれることを祈ります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月2日の記事より転載させていただきました。