【反プーチンで収監中】ナワリヌイのドキュメント映画が同じ世界線のこととは思えなかった / 毒殺未遂の犯人をハメて自供させるシーンも

ロケットニュース24

ロシアに「反体制派のカリスマ」と呼ばれる人物がいることをご存じだろうか? アレクセイ・ナワリヌイという人なのだが、なんとこの人、ただの活動家ではなく政治家である。反プーチンを掲げてロシアで政治家できるんだな……。と思いきや、2022年6月現在収監中なようだ。

wikipediaには毒殺未遂事件という物騒な文字も。そんなアレクセイ・ナワリヌイのドキュメント映画『ナワリヌイ』が衝撃的な内容だった。これ本当にドキュメントなのか……?

・CNN Films製作

6月17日から単館系の映画館で上映開始となっている『ナワリヌイ』。私(中澤)が観に行ったのは公開2週目の25日だ。土曜日だし渋谷ど真ん中にあるシネクイントだし映画的にはかき入れ時! でも、客席はガラガラだったから、ドキュメントに集中するには良い環境だったと言えるだろう

拘束前の直接インタビューから始まるこのドキュメント。出演しているのはもちろんアレクセイ・ナワリヌイ本人で、製作にはCNN Filmsが名を連ねる。そう、アメリカのニュースチャンネル「CNN」の映画部門だ。すなわち、製作国もアメリカであり、そういう意味では目線に忌憚はなさそう。

・今の時代だからこそのドキュメント

映画は98分のものなのだが、まず驚いたのは、ドキュメントにしてはとても劇場型なこと。言われなければ再現ドラマかと思ってしまうほどよくできてる。登場人物の反応や、カメラの画角が完璧なのだ。これはひょっとしたら、ナワリヌイ自身がネットでの動画配信も活動の1つとしているからかもしれない。

そのクオリティーで決定的すぎる瞬間の映像が流れるので、思わず撮り直したのかと思ってしまったのだ。しかし、実際、出演者には本人や家族の名前が並んでいる。これは今の時代でしかありえないことのように感じた。


一方、内容には今の時代の話とは思えない部分がある。個人的に衝撃だったシーンは以下の3点だった。


・毒殺未遂事件の当時の映像

ナワリヌイがモスクワに向かう旅客機内で体調不良になり、そのまま意識不明の重体となった毒殺未遂事件。本ドキュメントでは、旅客機内で苦しみ叫び声をあげるナワリヌイの映像から、担架で運ばれる写真などが流れる。現場の生々しさが尋常ではない。ちなみに、ロシア政府は本件についてプーチンの関与を否定しているのだが……

・毒殺未遂事件の犯人を特定して自供させる

なんと、毒殺未遂事件の犯人が犯行を自供する瞬間まで流れる。グループを特定して、1人1人に電話をかけていくナワリヌイ。ボロを出しそうで決定的なことは言わない犯人たちとのやり取りがヒリヒリするが、巧みな話術の罠にかかったのは科学者だった。

決定的すぎる瞬間がこれだけ鮮明に放映されたということ自体が衝撃だが、このシーンは流れからリアクションまで完璧だった。できすぎていて逆にリアリティーがないレベル。しかしながら、名前は忘れたけど、ゲロした科学者は現在行方不明になっているという。

・プーチンにナワリヌイについて質問した映像

と、ほとんどはナワリヌイ側を追った視点なのだが、プーチンがナワリヌイについて話す映像も収められている。政府の定例会見で記者がナワリヌイについて質問した時の回答なのだが、興味深かったのはプーチンがナワリヌイの名前を呼ばないこと

全部「あの者」とかで置き換えるのである。まるで『ハリーポッター』のヴォルデモート卿みたいな扱いだと思った。

・同じ世界線のことと思えない

どことなくリアリティーを感じないのも、同じ世界線のことと思えないというのが大きい。フィクションでしたと言われた方がよほど納得できるのである。それほどに信じがたく、ゆえに、恐ろしい。

休日の昼間、晴天の渋谷に出かけて見るような映画ではなかった。しかしながら、「今起こっていることを知る」という意味では稀有な映画であると思う。現在はまだ全国で15館ほどと小規模な展開だが、公式サイトによると、7月から地方の映画館での上映も増える予定になっているので、気になる方は見に行ってみてくれ。

参考リンク:ナワリヌイ
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.

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