大規模化が進む産業とは?

アゴラ 言論プラットフォーム

Maxiphoto/iStock

1. 小規模企業で働く労働者はそんなに多いのか?

前回は、日本の「企業数」が何社あるのか、個人事業と企業の違いなどについてフォーカスしてみました。

日本には、約410万社の企業等が存在し、そのうち209万社が「個人企業」となります(2014年調査時点)。宿泊・飲食サービス業や卸売業・小売業などでは個人企業を中心に小規模企業が多いようです。

今回はもう一度労働者数に話を戻し、産業別に小規模企業や中小企業で働く労働者の割合を比較してみましょう。産業によって先進国で似た傾向があるのか、あるいは日本だけ特殊事情を抱えているのか比較してみたいと思います。

ここでは小規模企業は従業員10人未満、中小企業は従業員250人未満として扱います。

前々回にご紹介しましたが、まずは全産業の合計値から見ていきましょう。(参考: 中小企業労働者は本当に多すぎ?

今回は各国のデータが揃っている2016年で比較していきます。

図1 企業規模別 労働者数 シェア 一般産業合計 2016年
出典:OECD統計データ より

図1が、農林水産業や金融・保険業、公務・教育・保険などを除いた一般産業について、企業規模別に働く労働者の割合を比較したグラフです。1~9人規模のシェアが大きい順に並べています。

データは労働者数(Total employment)を基本としていますが、アメリカ、カナダ、イスラエルは雇用者数(Number of employees)としています。

アメリカ、カナダ、イスラエルは労働者数のデータがなかったため、雇用者数としています。

通常は、労働者数は雇用者数と個人事業主(Self-employed)の合計です。

日本の場合は何故か労働者数よりも雇用者数の方が多いデータセットとなっていますので、念のため両方ともグラフに入れています。

日本1が労働者数です。日本の統計データのうち、常用雇用者数に該当すると思われます。

日本2が雇用者数です。日本の統計データのうち、従業者数に該当すると思います。

従業者数は、個人事業主や個人経営の家族従業者(無償含む)も入ります。ここでは、日本1は小規模企業の労働者数がやや少なめ、日本2はやや多めとみておけばよいと思います。

労働者数の詳細は、下記の記事もご参照ください。(参考: 中小企業労働者は本当に多すぎ?

図1を見ると、10人未満の小規模企業で働く労働者の割合は、少なめにカウントされる日本1で13.5%、多めにカウントされる日本2で22.3%です。先進国全体で見れば、割合としては小さい方で、G7の中でもイタリア、フランス、カナダよりも下位ですね。

企業規模別 労働者数 シェア 一般産業合計
29か国中 単位:% 2016年
小規模企業 / 中小企業
44.8 2位 / 78.6 3位 イタリア
29.8 13位 / 63.3 24位 フランス
22.6 20位 / 58.0 26位 カナダ
22.3 21位 / 60.8 25位 日本2
19.2 25位 / 63.4 23位 ドイツ
19.0 26位 / 53.5 28位 イギリス
13.5 28位 / 55.0 27位 日本1
10.1 29位 / 42.1 29位 アメリカ

2. 合理化の進む製造業、小規模が多い建設業

続いて産業別のデータも見ていきましょう。まずは、製造業と建設業です。

図2 企業規模別 労働者数 シェア 製造業 2016年
OECD統計データ より

図2が製造業のグラフです。

図1と比較すると全体的に中小企業の割合が小さく、特に10人未満の小規模企業のシェアが小さいですね。

主要国では製造業の労働者数が減少していく中で、大規模化による合理化が進んでいるのかもしれません。(参考: 労働者数から見る産業構造の変化

特に日本では、この20年ほどで小規模事業所が4割程度にまで淘汰され、そこで働く労働者も半減しています。(参考: 日本の製造業で起こっている事

小規模企業で働く労働者の割合は、日本2でイタリア、フランス、カナダに次ぐ水準です。ドイツは、小規模企業のシェアが極端に小さく、250人以上の大企業で働く労働者の割合も大きいですね。

企業規模別 労働者数 シェア 製造業
29か国中 単位:% 2016年
小規模企業 / 中小企業
23.6 2位 / 76.5 4位 イタリア
14.9 10位 / 54.8 19位 フランス
12.5 14位 / 53.3 23位 カナダ
12.1 16位 / 55.4 18位 日本2
9.7 22位 / 54.8 20位 イギリス
7.5 27位 / 51.7 25位 日本1
5.9 28位 / 45.7 28位 ドイツ
5.2 29位 / 35.6 29位 アメリカ

図3 企業規模別 労働者数 シェア 建設業 2016年
OECD統計データ より

図3が建設業のグラフです。製造業とは異なり、全体的に10人未満の小規模企業で働く労働者の割合が大きいのが特徴です。

製造業と異なり、自動化などがあまり進まず、小規模での事業形態が多い産業ということが窺えますね。

小規模企業の労働者シェアでみると、日本の順位もあまり変わりませんが、ドイツやイギリスの順位が上がってきているのが特徴的です。

企業規模別 労働者数 シェア 建設業
29か国中 単位:% 2016年
小規模企業 / 中小企業
66.0 2位 / 96.0 2位 イタリア
47.2 11位 / 81.2 26位 フランス
44.2 15位 / 83.7 23位 カナダ
41.6 16位 / 84.3 21位 日本2
40.4 17位 / 93.3 9位 ドイツ
38.8 18位 / 79.3 28位 イギリス
29.8 24位 / 79.7 27位 日本1
23.0 28位 / 76.3 29位 アメリカ

ドイツの傾向が特徴的ですね。ドイツの製造業は大規模化が進んでいますが、建設業は大企業の労働者シェアが極端に小さいようです。

3. サービス業は小規模主体

続いて、卸売・小売業や飲食・宿泊サービス業などの一般サービス業について見ていきましょう。

図4 企業規模別 労働者数 シェア 卸売・小売業 2016年
OECD統計データ より

図4が卸売・小売業のグラフです。

図1の一般産業合計のグラフと比較すると、やや小規模企業の割合が大きいようです。

各国間の順位関係は概ね変わらない印象ですね。

企業規模別 労働者数 シェア 卸売・小売業
29か国中 単位:% 2016年
小規模企業 / 中小企業
59.9 2位 / 84.2 3位 イタリア
35.5 12位 / 69.0 17位フランス
22.8 21位 / 59.9 25位 日本2
22.7 22位 / 67.6 19位 ドイツ
20.8 24位 / 56.0 26位 カナダ
16.2 27位 / 45.8 28位 イギリス
13.5 28位 / 53.8 27位 日本1
10.4 29位 / 36.4 29位 アメリカ

図5 企業規模別 労働者数 シェア 宿泊・飲食業 2016年
OECD統計データ より

図5が宿泊・飲食業のグラフです。

全体的に小規模企業の労働者数シェアが大きめではありますが、日本が特徴的ですね。

日本2で見ると、10人未満の小規模企業のシェアが比較的大きい一方で、250人以上の大企業の労働者のシェアも大きいという特徴があります。小規模企業と大企業とで2極化しているような状況と言えそうです。

一方でドイツは10人未満の小規模企業の労働者シェアは小さめですが、250人以上の大企業の労働者シェアが極端に小さいようです。ドイツではすべての産業で大規模化が進んでいるわけではなさそうで、分野によっては中小企業で働く労働者が多いようです。

大変興味深いですね。

企業規模別 労働者数 シェア 宿泊・飲食業
29か国中 単位:% 2016年
小規模企業 / 中小企業
61.4 1位 / 90.2 7位イタリア
50.1 6位 / 82.3 22位 フランス
31.0 14位 / 60.1 27位 日本2
26.5 17位 / 90.7 5位 ドイツ
26.4 18位 / 79.8 24位 カナダ
19.5 25位 / 52.3 29位 日本1
17.3 27位 / 61.8 26位 イギリス
7.5 29位 / 54.9 28位 アメリカ

図6 企業規模別 労働者数 シェア 運輸・倉庫業 2016年
OECD統計データ より

図6が運輸・倉庫業のグラフです。

日本は10人未満の小規模企業の労働者シェアが極端に小さいという特徴があります。ただし、250人以上の大企業労働者シェアがそれほど大きいというわけではなく、中規模、中堅企業の労働者が多いようです。

企業規模別 労働者数 シェア 運輸・倉庫業
29か国中 単位:% 2016年
小規模企業 / 中小企業
20.3 13位 / 57.2 14位 イタリア
18.5 17位 / 42.7 24位 カナダ
12.5 22位 / 42.3 25位 フランス
10.8 24位 / 37.9 28位 イギリス
9.8 25位 / 52.3 19位 ドイツ
8.0 26位 / 34.3 29位 アメリカ
5.3 28位 / 52.2 20位 日本2
3.4 29位 / 50.5 21位 日本1

4. 日本は小規模企業労働者が多すぎるわけではない

今回は、企業規模別の労働者数シェアについて、産業別に眺めてみました。

産業ごとに傾向は異なりますが、他国と比べると日本は必ずしも「小規模企業の労働者が多すぎる」という状況ではないようです。

今回ご紹介した、製造業、建設業、卸売・小売業、宿泊・飲食業、運輸・倉庫業で、どの国も一般産業の7~8割の労働者数を占めます。

改めて各産業での小規模企業の労働者数シェアの日本の順位をまとめてみましょう。日本は多めの数値となる日本2(Number of employees)の数値とします。

小規模企業(10人未満) 労働者数 シェア
日本 29か国中
21位 一般産業合計 (G7中4位)
16位 製造業 (G7中4位)
16位 建設業 (G7中4位)
21位 卸売・小売業 (G7中3位)
14位 宿泊・飲食業 (G7中3位)
28位 運輸・倉庫業 (G7中7位)

中小企業(250人未満) 労働者数 シェア
日本 29か国中
25位 一般産業合計 (G7中4位)
18位 製造業 (G7中2位)
21位 建設業 (G7中3位)
25位 卸売・小売業 (G7中4位)
27位 宿泊・飲食業 (G7中5位)
20位 運輸・倉庫業 (G7中3位)

小規模企業で働く労働者のシェアは製造業や建設業、宿泊・飲食業でやや大きめです。中小企業で働く労働者のシェアで比較すると、製造業は18位でやや大きめですが、建設業は21位となり順位は下がります。

宿泊・飲食業も、中小企業で働く労働者のシェアで見れば27位とむしろかなり低い順位であることがわかります。

これらの事から、日本で働く労働者の内、小規模企業や中小企業で働く人の割合は、他国と比較してそれ程大きいわけではないということが言えそうです。

むしろ割合が小さい方に属し、大規模化も進んでいるようです。宿泊・飲食業が顕著ですが、小規模企業と大企業で労働者が二極化している産業もあるようです。

規模が大きいほど「労働生産性」が高まる傾向にある事は事実ではありますね。

ただ、全ての産業が大規模化すれば良いかというと、そうでもないと思います。小規模でも魅力ある独自サービスなどで付加価値を稼いでいくことも可能なのではないでしょうか。

大切なのは、それぞれの事業環境において、適正規模で付加価値をより稼げるようになっていく事だと思います。

皆さんはどのように考えますか?


編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年6月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。