6月10日に原子力規制庁の行政事業レビュー公開プロセスに参加した。議論を通じて、同庁が行政組織として機能しているのか、とても心配になった。
最初の評価対象は原子力施設における地質構造等に係る調査・研究事業。原子力施設周辺の活断層は施設の安全に影響する。そこで、周辺の活断層が最後に動いた時期を明らかにする地質構造調査手法を開発する事業が実施されている。
僕は次のように発言した。
この事業について理解できないのは、研究成果を論文誌、国際会議等で発表するのをアウトプットとしている点。学会で認められるよりも成果を活用して原子力施設の安全性が高まるほうが重要である。研究者の努力には敬意を表するが、事業の方向としては違う。
アウトプット指標(短期成果指標)は研究成果による審査・規制基準等の改善件数など、アウトカム指標(長期成果指標)は改善基準を用いた審査件数などにすべきである。
公開プロセスの結論は「事業内容の一部改善」だった。アプトプット、アウトカム指標を事業目的に沿うように見直し、併せてレビューシートの記載を修正することになった。
ところで。なぜ活断層を調査するのか。50年に一度動くようなら施設が稼働している間に動く恐れがある。1万年に一度であれば、まず動くことはない。損害の程度と発生確率でリスクを評価する手法を「確率論的リスク評価」と呼び、原子力施設の安全管理に重要な考え方である。
問題は「確率論的リスク評価」が国民に理解されていないこと。北海道の泊原発について先日判決が出たが、裁判官は「確率論的リスク評価」を理解していなかったようだ。日本海で10メートルを超える津波が起きる確率、地盤の液状化で防波堤が壊れる確率を評価するよりも、裁判官は住民の不安を重視した。「確率論的リスク評価」に関する国民理解の向上事業が求められる。
次の事業は「放射線監視等交付金」と「環境放射能水準調査等事業委託費」。前者は原子力施設周辺で放射線量を24時間監視する都道府県への交付金である。後者は全国各地での土壌等の放射能水準を調査する事業。
放射線監視等交付金の予算規模について質問した。気象庁のアメダス観測では観測点は全国1300か所で、事業費は7億円に過ぎない。原子力施設周辺の観測地点も1300か所というのに70億円も使っている。
24都道府県がそれぞれ2つずつサーバを持っている、通信回線を多重化しているなどの回答があったが、デジタルを上手に活用しているようには聞こえなかった。同席した山田太郎内閣府大臣政務官も発言されたように、クラウド活用などデジタル庁の掲げるデジタルガバメント構築方針に沿ってシステムを組み替える必要がある。
後の事業では日本分析センターに分析作業が委託されているが、日本分析センターは本事業に収入の過半を依存する組織になっている。代わりに分析できる組織がないと、事故で分析が完全に止まってしまうリスクを発注側は避けられない。発注側にも受託側にも危険な契約となっている。一部であっても規制庁内で分析するなどの代替策について検討を進めるのがよい。
公開プロセスの評価は放射線監視等交付金について「事業全体の抜本的改善」、環境放射能水準調査は「事業内容の一部改善」だった。放射線監視等交付金については、国と地方の分担を見直しクラウドの活用を進めるべきという結論になった。環境放射能水準調査についてはバックアップの必要性等について意見が一致した。
どの事業も継続性が重視され過ぎたために、ピントにずれがあった。同庁が行政組織として機能しているのか、とても心配になった。