「心理学研究に応募する人の傾向」によって実験結果にバイアスがかかってしまう可能性

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心理学の研究では多くの被験者を集め、実験結果にバイアスがかからないように慎重な作業を行っています。しかし、心理学研究の被験者は参加報酬や講義の単位など、何らかの動機を持って応募してきた人々であるため、「心理学研究に応募する被験者の傾向」が存在する可能性もあります。そこでポーランドの研究チームは、心理学研究に応募する被験者の傾向について調査を行いました。

Self-selection biases in psychological studies: Personality and affective disorders are prevalent among participants | PLOS ONE
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0281046


People with personality disorders are more likely to sign up for psychology studies – here’s why that’s a problem
https://theconversation.com/people-with-personality-disorders-are-more-likely-to-sign-up-for-psychology-studies-heres-why-thats-a-problem-201237

ポーランド・Maria Grzegorzewska大学の研究チームは、心理学研究に参加する人々の傾向が実験結果に及ぼすバイアスについて調べるため、オンライン広告の募集や研究関係者からの打診を通じ、合計947人の被験者を集めました。なお、被験者の全員がポーランド人であり、全体の62%が女性でした。

そして研究チームは、被験者を「心理学の研究に参加したことがある人」と「心理学の研究に参加したことがない人」のグループに分け、それぞれのメンタルヘルスやパーソナリティ障害の傾向について比較しました。

分析の結果、過去に心理学研究に参加したことがある人々は、パーソナリティ障害やうつ病、不安障害などの人々に見られる症状を示す傾向があることがわかりました。パーソナリティ障害の人々はそうでない人々と異なる思考や感覚、他者との関係を持っていることが多く、予測不可能な行動をする可能性が高いとのこと。


心理学研究に参加する人々がパーソナリティ障害やメンタルヘルスの問題を抱えている割合が高い理由について、研究チームは心理学研究への参加が「専門家の助けを得るための安価な代替品」として認識される可能性があると指摘しています。

研究チームは、「研究者は、研究の宣伝方法や集めた被験者が、結果に大きな影響を与えないのが当然だと考えがちです。私たちの研究では、人格的な病理を多く持つ人ほど自分のトラウマを表現できる研究に引かれ、研究に志願しやすい可能性があることを示しました」と述べました。


イギリスのアベリストウィス大学で心理学の上級講師を務めるNigel Holt氏は、「この新たな研究が明らかにしたのは、自己選択という潜在的に懸念される問題です。研究の被験者はどの研究に参加するのかを選択するので、特定のタイプの人々が多数参加することで、研究結果に不当な影響を与える可能性があります」と述べています。

心理学研究は他の多くの科学分野と同様に設計されていますが、人間の被験者が必要だという点が他の多くの分野と異なります。そのため、研究に参加させやすい18~24歳程度の大学生が被験者になりやすく、研究結果をより広く一般化できるのかどうかの問題を提起するとのこと。今回の研究結果は、その懸念をさらに強めるものです。

研究者らは、「パーソナリティ障害のある人々は応募不可」といった制限を設けることはできませんが、被験者の選択方法にはより注意を払うことができます。Holt氏は、「私たちがするべきことは、十分な数の人々を対象とした研究を行うこと、そして研究を繰り返すことで、私たちの研究結果が大学の外でも通用することを確信できるようにすることです」と述べました。


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