とあるのり弁専門店のお弁当が重い。
店頭で受け取ったとき、思わず笑ってしまうほどだった。
そこでこんな仮説を立てた。
人は重いお弁当を受け取ると笑顔になるんじゃないか。
これは、そんな説を立証するために試行錯誤した大人たちの記録です。
のり弁専門店・いちのや
まずのり弁専門店・いちのやについて紹介させてください。
きっかけは1年ほど前のお昼のラジオ。
ハライチ岩井さんが絶賛していて、興味本位で買ってみた。
九段下に本店を構え、新宿や赤坂、日本橋にも店舗があるようだ。
はじめてこれを買ったとき、私はあまりの重さについ笑ってしまった。
このお弁当、ずっしり重いのだ。
祖母の家にお土産で持っていったところ、受け取った祖母も笑っていた。なお、小食の祖母は3日間かけて完食したという。
550グラムのお弁当を手にした瞬間、私も祖母も笑顔になった。
お弁当を受け取ると、人は笑顔になるのだ。
ピンと来てもらえなかった!
重いお弁当を受け取ると人は笑顔になる。その仮定を検証すべく向かったのはデイリーポータルZ編集部のオフィス。
ライターの高瀬さんが悪魔の食べ物をふるまってくれるというので、ここぞとばかりに「お弁当を持ってもらいたい」とお願いをしたのだ。
ランチのお弁当を受け取るようなていで、いちのやののり弁を持ってもらう。
月餅:今日のお昼、ちょっといいお弁当用意したのでどうぞ。
高瀬さん:ありがとうございます(受け取る)……。
実は比較として、事前にファミマのお弁当を受け取ってもらったのだが、そいつがそもそも、そこそこ重さがあった。
これは完全に作戦ミスだ。
重いです、と先に伝えてみる
ちょうど旅ラジオの収録終わりだったSatoruさんにもご協力いただいた。
ここから、事前に「重いお弁当を渡します」と先に伝えることにした。
Satoruさん:うん、これは重い。もうすでに食べた気になりました。
ちょっと昔のCMのようなコメントをいただいた。いきなり「これ重いんです」とお弁当を渡されてカメラを向けられたら人間はこうなるのかもしれない。
安藤さん:あああ~なるほどね~!なんか密な感じがしますよね。
みんな大人なので、ちゃんと「たしかに」とか「なるほど」とか言ってくれる。大人ってえらい。
もう一度、事前情報なしで渡す
焦ってきたところで、何も知らない大北さんが来た。
とりあえず情報を何も入れずに渡してみる。
大北さん:ありがとうございます。……うわ~なぞなぞ。なぞだ~
これが普通の人間の反応である。
月餅:お弁当が重いと笑顔になるんじゃないかって思ったんですけど……。このお弁当、重くないですか?
大北さん:ああ~~!!なるほど……あ~~なるほど……!
今、わたしは、大人にお弁当を渡し、気を遣わせるという実験をしているのかもしれない。
「インチキ弁当をつくればいいんじゃないですか」
筆者の思い出の中では3倍くらい重いつもりだったのだが、現実には普通のお弁当と用意した重いお弁当の差はたったの160グラム。
このままじゃ企画倒れだ。せっかく付き合ってもらってこれじゃ申し訳が立たない。どうしよう。
打ちひしがれていると、同席していた石川さんがつぶやいた。
「インチキ弁当をつくればいいんじゃないですか」
このインチキ弁当を、今度は私に渡してもらう。
大北さん:すべての記憶を消してもらってもいいですか
月餅:はい。
とんでもないセリフだが、やっている本人たちはいたって真剣だ。
お弁当に関する記憶を消し、自然体でお弁当を受け取る心を整える。
大北さん:今日のお弁当でーす。
手を離された瞬間、とんでもない重さが腕にのしかかる。
これ、一人で食べるのか。
そのままバケツリレーのように高瀬さんに渡す。
高瀬さん:ほんとにお弁当かなって思いますね
大北さん:トレーニング器具かなってなりますよね
高瀬さん:笑っちゃうは笑っちゃいますね
月餅:お弁当ですって言って重いものを渡すゲームになってる
重りを2つにしたお弁当を石川さんに持ってもらった。
石川さん:あーでもちょっとわくわくはしますね
重さを確かめるためにみんなお弁当を上下させる。お弁当筋トレだ。
食べ物じゃないものを食べ物と言って渡されて笑っているのか、単に重いものを持つと人は笑うのか、そこまではわからない。
しかし写真に映るみんなの顔はまばゆいほどの笑顔。それだけで十分だ。そう思うことにした。
ありがとう、いちのや。ありがとうマイクの重り。
機会があったら重いものをお弁当として人に渡してみてほしい。きっと笑顔になってくれるはずです。