海のオアシスとも言える海草群生地の土壌に、膨大な量の糖が含まれていることが判明しました。普通、糖分が海中の微生物に分解されると二酸化炭素となって放出されますが、海草の働きのおかげでそれが抑制されているため、今回の発見により海の生態系によって貯蔵されている炭素、いわゆるブルーカーボンの重要性がさらに増したと研究者は指摘しています。
Sugars dominate the seagrass rhizosphere | Nature Ecology & Evolution
https://www.nature.com/articles/s41559-022-01740-z
Sweet spots in the sea: Mountains of sugar under seagrass meadows
https://www.mpi-bremen.de/en/Sweet-spots-in-the-sea.html
海草は地球上で最も効率的に二酸化炭素を吸収することができる植物の1つで、海草が吸収できる炭素の量は同じ面積の陸上の森林に比べて2倍、吸収速度は35倍にもなるとのこと。この海草の根からしみ出す栄養素と微生物の相互作用、いわゆる根圏を研究していたマックス・プランク海洋微生物学研究所(MPIMM)の研究チームは、海草が生息している土壌中の糖分濃度が、これまで海洋研究で測定されていた値の80倍も高いことを突き止めました。
これについて、MPIMMの研究者は「今回分かった糖分濃度を元に計算すると、世界中の海草の根圏には、主にスクロースの形で60万~130万トンの砂糖が存在すると推測されます。これは、缶入りコーラ320億本分に相当する量です」と話しています。
海草は、光合成で糖を生産し自分のエネルギー源や成長に使用していますが、日中や夏場など日差しが強い条件下では、自分で消費したり貯蔵したりできる量を上回る糖ができます。そこで、使い切れなくなった糖は根から放出されるとのこと。これが、根圏に大量の糖が存在する理由の1つだと考えられています。
エネルギー豊富な糖は微生物にとって格好の栄養源なので、糖が土壌に存在していたらすぐに微生物によって分解されてしまうはずです。研究チームによると、海草の根圏にある糖が微生物に消費されないのは、海草がフェノール類を放出しているからだとのこと。フェノール類としては、赤ワインやコーヒー、果物に含まれている抗酸化物質であるポリフェノールが有名ですが、フェノール類には抗菌作用もあるため、微生物の代謝を阻害することができます。実際に、研究チームが海草から抽出したフェノール類を海草の根圏にいる微生物に投与したところ、糖の消費が大幅に減少したことが確かめられました。
ここで疑問になるのが、海草がわざわざフェノール類を分泌してまで、土壌中に捨てた糖分を微生物から守る理由です。論文の筆頭著者であるMaggie Sogin氏によると、根圏にいる一部の微生物はフェノール類を分解しつつスクロースを分解して、窒素を始めとする海草にとって必要な栄養素に変換することができるとのこと。つまり、余分な糖分を有益な栄養素に変えてくれる微生物との共生のために、海草は大量の糖分をフェノール類で土壌に保管しているのではないかと考えられます。
大量の炭素を糖として海底に貯蔵している海草ですが、地球環境の変化により年間7%の割合で減少しつつあります。研究チームの試算によると、海草が死滅して根圏にある糖が全て分解されてしまった場合、少なくとも154万トンの二酸化炭素が大気中に放出される結果になるとのこと。これは、33万台の自動車が1年間に排出する二酸化炭素の量に匹敵します。
こうした研究結果について、Sogin氏は「今回の研究は海草の理解に貢献するとともに、これらのブルーカーボン生態系の保全がいかに大切であるかを明らかにするものです」と述べて、海草の保護の重要性を強調しました。
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