新型コロナによるメンタルヘルスへの影響は「以前考えられていたほど大きくない」との研究結果

GIGAZINE



新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とメンタルヘルスに関する調査結果を分析した研究により、COVID-19のメンタルヘルスへの影響はごくわずかだったことが分かったと、カナダのマギル大学を中心とした研究チームが発表しました。これにより、パンデミックによる混乱が人々の心をむしばみ、うつ病や不安障害などの「第2のパンデミック」をもたらしたとする従来の報告が、予想や思い込みの影響を受けたものであることが示唆されました。

Comparison of mental health symptoms before and during the covid-19 pandemic: evidence from a systematic review and meta-analysis of 134 cohorts | The BMJ
https://www.bmj.com/content/380/bmj-2022-074224

World’s most comprehensive study on COVID-19 mental health | myMcGill – McGill University
https://www.mcgill.ca/mymcgill/channels/news/worlds-most-comprehensive-study-covid-19-mental-health-346392

Covid’s effect on mental health not as great as first thought, study suggests | Mental health | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2023/mar/08/covid-effect-mental-health-study-mcgill-university

COVID-19が本格的に猛威を振るい始めた2020年5月には、「アメリカ人の3分の1がうつ病や不安障害になった」との調査結果が報告されていますが、その一方で「若者の3分の1はロックダウンで幸せを感じていた」との研究結果もあるなど、COVID-19やそれに伴う社会の変化がメンタルヘルスに与えた影響についての統一的な見解はまだありません。

新型コロナウイルスの影響により「アメリカ人の3分の1がうつ病や不安障害になった」との調査結果 – GIGAZINE


そこで、マギル大学のブレット・トムズ氏らの研究チームは、2022年4月11日までに報告されたCOVID-19とメンタルヘルスに関する研究論文137件を精査する研究を実施しました。ほとんどの研究は高所得国または中所得国のもので、低所得国を対象にした研究はなかったとのこと。研究が実施された地域の内訳は、ヨーロッパと中央アジアが52件(38%)、東アジアと太平洋地域が46件(34%)、北米が28件(20%)、その他の地域が11件(8%)でした。また、参加者の76%は成人で、残りの24%は19歳以下の子どもでした。

この分析の結果、COVID-19により「メンタルヘルス悪化の津波」が発生したことを示唆するこれまでの研究結果とは裏腹に、精神的な症状の増加はごくわずかだったことが分かりました。

これについてトムズ氏は「COVID-19によるメンタルヘルスへの影響は、世間で言われているよりずっと微妙なものでした。パンデミックに見舞われている間、多くの人々の精神衛生が著しく悪化したという主張は、主に特定の状況や場所、期間を切り取った『スナップショット』のような研究に基づいています。さらに、パンデミックの前や後の状況と比較する長期的な研究もまだ行われていません」と話しています。

また、トムズ氏は「私たちの発見は、厳密な科学研究を行うことの重要性を強調するものです。もしこれを怠れば、私たちの期待や思い込み、質の低い研究や伝聞が、自己実現的な予言になってしまう可能性があります」とも述べて、これまでの研究はパンデミックによりメンタルヘルスが悪化するだろうとの予測に影響されたものである可能性を指摘しました。


今回の研究では、全体としてはCOVID-19によるメンタルヘルスの悪化がほとんど見られませんでしたが、パンデミック初期には女性の症状が若干悪化していたことも判明しました。これは家庭での多忙や、医療や介護などの仕事の影響、あるいは家庭内暴力などが原因の可能性があると研究チームは考えています。

また、高齢者、大学生、性的マイノリティのグループに属すると自認している人でもうつ病の症状が悪化していたほか、サンプル数が少ないですが子どもを持つ親にもメンタルヘルスの問題が見られました。これについて、マックマスター大学の心理学者であるダニエル・ライス氏は「この結果は、一部の女性や少数のグループが精神衛生の悪化を経験しており、継続的なサポートを必要としていることを示唆しています」とコメントしました。

このように、一部の人ではメンタルヘルスの悪化が見られた一方で、社会全体ではほとんど影響がなかったことについては、メンタルヘルスの悪化と改善の両方が同時に起きた結果であると考える専門家もいます。

キングス・カレッジ・ロンドンの社会とメンタルヘルスセンターに勤める特別研究員で、今回の研究には直接携わっていないジェマ・ノウルズ氏は、海外メディア・The Guardianの取材に対して「この研究結果は、パンデミック時にメンタルヘルスが改善する人と悪化する人がいるという、私の研究を含むほかの研究結果と一致しています。この現象により、全体としてはメンタルヘルスの問題が増加しなかったのではないでしょうか」との見方を示しました。

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