埼玉でもパパイヤを育てられるかな。
茨城県古河市の農園で、南国の果物であるパパイヤを育てているらしい。しかもハウス栽培ではなく露地栽培だとか。
茨城で育てられるなら埼玉にある我が家の家庭菜園でも実るはずだと、その農家さんに教わりながら試してみた。
ここは本当にパパイヤ農園なのだろうか
2020年(一昨年)の12月、友人から「茨城にあるパパイヤ農家の手伝いにいかないか?」と誘われた。茨城でパパイヤ?
パパイヤといえば南国で育つ陽気なフルーツに決まっている。対して茨城県といえば私が住む埼玉県のお隣なので南国ではない。いくら地球の温暖化が進んでるとはいえ、北関東でパパイヤを育てることができるのだろうか。そして手伝いとはどんな作業なのか。
謎だらけの誘いに首をひねりながら茨城県の最西部、埼玉と栃木に接する位置する古河市のオラソル農園へと向かうと、そこには人間サイズの立ち枯れた植物が並んでいた。
なんとなんと、これがパパイヤの木なのである。
なんらかの病気や天災で全滅してしまったのかと心配になったが、園主の阿部さんによると、これは予定通りの状態なのだそうだ。
阿部さんによると、本来パパイヤは20~30年の寿命を持ち、品種によっては高さ10メートル以上にもなる植物だが、南国生まれなので気温が10度以下になると成長は止まり、霜に当たると枯れてしまう。
そのためここ茨城では冬を越せないため、12月のパパイヤ農園はこのように気温以上に寒々とした景色になるのだ。
冬になると枯れてしまう悲しい定め。それでも茨城で育てているのは、パパイヤはとても成長が早いので、春に苗を植えれば、その年の秋にもう収穫できるようになるから。パパイヤをナスやトマトのようなサイクルで育てているのである。
ただし出荷できるのはタイ料理などで使う未成熟の青パパイヤのみ。フルーツとして食べるには完熟するまで4か月も掛かるので、黄色くて甘いパパイヤにはならない。その前に冬が来てしまうから。
冬になると枯れてしまうとはいえ、茨城でパパイヤが収穫できるのならば、埼玉の我が家でもできるはず。
よし、来年は自家製ソムタム(青パパイヤのサラダ)作りに挑戦だ。
パパイヤ・マスター講座に参加した
そして2021年(昨年)の春。そろそろパパイヤを育て始めようかなと思っていたら、オラソル農園の阿部さんから体験型農業イベント「パパイヤ・マスター講座」のお誘いが来た。
まったくわからないパパイヤの育て方を学べる上、農園で植えている苗の販売もしてくれるという、私にとって願ったり叶ったりの催しである。
植えるのは種ではなく苗。昨年の秋に沖縄の苗業者が種を蒔いて育てたもので、5月でまだこのサイズだが、8月になれば人間よりもずっと大きくなるのだとか。
米糠と鶏糞をたっぷりと与えたフカフカの土にマルチシートというカバーをして、2.5メートル間隔で植えていく。
5/14 我が家の畑に苗を植える
購入させてもらったソロというパパイヤの苗を、埼玉にある自宅近くの小さな畑に植える。
ちょっと不安なのはオラソル農園の土がフッカフカなのに対し、この畑は田んぼの横にあるため粘土質でガッチガチの土なのだ。ココアパウダーと製造途中の味噌くらい違う。
パパイヤは水はけが悪いと根腐れを起こしやすいという話なので、明らかに向いていない土地だろう。育成における向き不向きは、気温だけが問題ではないのだ。
せめてもの対応としてちょっと高い丘を作って植えてみたが、マルチシートを敷くという努力はしなかった。なんだか扱いが難しそうなイメージがあって、一度も使ったことがないアイテムだから。マルチ怖い。
5/24 これはやばいかもしれない
畑に苗を植えてから10日後、少しは大きくなったかなと見に行くと、明らかに葉っぱの色が薄くなっていた。人間でいうところの血色が悪いというやつだ。
やっぱり土が合わないのか、マルチをさぼったので土の温度が低いからか、とにかくピンチである。ピンチではあるが、もうどうにもできないので、とりあえず応援だけしておく。
6/13 どうにか持ち直してくれた
植えてから約一か月が経過。これはダメっぽいなと半分諦めていたパパイヤだが、葉っぱの血色はだいぶ良くなった。どうにか硬い土に負けず根を張ってくれたようだ。
ただ年内に実がなって収穫できるようには、とても思えないコンパクトさである。ここからどこまで巻き返せるだろうか。
7/3 葉っぱは増えたが小さいまま
7月になって葉っぱは元気に茂っているが、大きさはそれほど変わっていない。
基本的に夏の暑さは苦手なのだが、今年はパパイヤを育てているので、「この暑さがあるから俺のパパイヤは育つんだ」と思うことができる。
7/25 急に大きくなりだした
パパイヤは暑くなると本気を出すようで、ここにきて急成長が始まった。背も伸びれば葉もグングンと大きくなっている。雑草もすごいけど。
隣で畑をやっている方から、「あれは一体なんですか?」と尋ねられるくらいの存在感がちょっと恥ずかしい。別に違法性はないのだが、説明が難しいよね。
8/24 パパイヤの散髪をする
八月後半になると高さは1メートルを超え、とうとう小さな蕾ができた。この調子ならパパイヤ食べ放題のサブスク生活がスタートするかも。
パパイヤは樹勢(枝葉が伸びる勢い)がとても強く、このままだと実を大きくするよりも葉を伸ばすことに栄養を使ってしまうので、適度に脇芽を減らしていく必要がある。
そのためパパイヤ・マスター講座のステップ2で「パパイヤの散髪」を学ぶ予定だったが、諸事情でイベントが中止となってしまったので、いきなり本番となるがフィーリングで散髪してみる。
この作業には風通しを良くすることで、台風で倒れないようにする狙いもあるそうだ。
オラソル農園の阿部さんにこの写真を送って確認したところ、これくらいで大丈夫とのことだったので一安心。
あとは花が咲いてパパイヤが実るのを待つばかり。
パパイヤの葉っぱを食べてみた
パパイヤの葉っぱはとても苦いが、乾かしてお茶にしたり、ウサギのエサにするらしい。
毒ではないのなら、せっかく散髪で新鮮な葉っぱが手に入ったのだから、柔らかそうな葉っぱを食べてみることにした。
とりあえず洗ってそのまま味を確かめてみると、これがまあしっかり苦い。青臭いとかでなく漢方薬のような苦み。口の中が歯の治療をした後みたいだ。体には良いかもしれないが、キノコなら毒だと判断するレベルである。でも食べたい。
ギュウギュウと塩で揉んでアクを絞り出し、熱湯で20分も茹でれば苦みも抜けるだろうか。
もう大丈夫だろうと食べてみると、まだまだ全然苦かった。ニガウリ(ゴーヤ)やウコンを凝縮したような力強さが抜けていない。ある意味すごいぞ、パパイヤの葉っぱ。
ここで諦めずにお湯を変えて10分さらに茹でて、ニガウリだと思ってパパイヤリーフチャンプルにしたところ、かなり苦うまい一品に仕上がった。
これでもしパパイヤが実らなかったとしても、あの日植えた苗は無駄ではなかったと思えるだろう。
9/20 パパイヤの花が咲いた
夏がすっかり終わった頃になって、ようやくパパイヤの花が咲いた。ええと、間に合うのかな。
ここでちょっとパパイヤ小話。本来パパイヤには雌雄があり、雄性花が咲く雄株、雌性花の雌株と別れるのだが、それだと栽培が大変なので、品種改良によって両性(両全性)品種が生まれたそうだ。
栽培用の両性品種には自家受粉で着果する両性と、単為結果できる雌性があり、どちらも単独で実をつける。私が育てているパパイヤもそうで、一本でも実がなるから「ソロ」という品種名。
二本育てているうちの一本は両性花、もう一本は雌性花が咲いていたことに、この記事を書きながら気が付いた。世の中は知らないことばかりである。
10/3 オラソル農園の収穫体験へ
我が家のパパイヤは収穫までまだまだ掛かりそうだが、苗を分けていただいたオラソル農園ではとっくに収穫時期を迎えたということで、パパイヤ・マスター講座のステップ3である「青パパイヤの収穫」へと向かった。
プロレスラーか。さすがは農家さんが丹精込めて育てたパパイヤだけあって、余裕の2メートルオーバー。同じ苗を同じタイミングで植えたとは思えない成長っぷりである。
一本の木から20個以上のパパイヤが実っている姿は、未来の世界の猫型ロボットが出してくれる便利な道具みたいだ。これだけたくさん実るからこそ、冬になると枯れてしまう地域でも育てる意味があるのだろう。
11/4 ようやく実が付いたけど
すっかり気温も下がって日照時間も短くなった11月。残念ながらサブスクパパイヤ生活は一向に始まらず、一応実ってくれたもののピンポン玉サイズで成長はストップしてしまった。
やっぱり素人が埼玉でパパイヤを育てるのは難しかったか。
12/2 霜が降りてギブアップ
これ以上は大きくならないであろうパパイヤを、もしかしたら突然の異常気象でまた夏が来て再び成長を始めるかもと見守っていたのだが(それはそれで困るが)、とうとう霜が降りてしまったようだ。
葉っぱはシワシワになり、昨年切り倒したパパイヤの一歩手前状態である。ここまで来たら諦めもつくので、ミニチュアのようなパパイヤを涙目で収穫した。
収穫したパパイヤを食べてみる
こうして七か月掛けて苗から育てたパパイヤを、美味しくないとは思うけど、せっかくだから丁寧に調理した。
もしかしたらプチトマトみたいに小さい分だけ味が濃くてうまいかもという期待もちょっとしている。
どんな味かと食べてみると、予想以上に硬くて苦くてびっくりした。明らかに食用に相応しくない仕上がりである。渋柿か。
もう師走だが、今年食べたもので明らかに一番苦い。青パパイヤはおいしいが、青パパイヤになれなかったチビパパイヤはおいしくないことを体で学んだ。
そんなこと学びたくなかった。
この悲しい結果を阿部さんに報告したところ、マルチシートを掛けなかったために地温が上がらず生育が悪かったこと、短期間で大きく育つ作物なので大量の肥料をあげなければいけなかったことなど、反省すべき点が多々あるようだ。
反省はあるが育てたことに後悔はない。パパイヤを植えたことでパパイヤを深く知ることができたし、買った青パパイヤを調理して食べたことでそのおいしいさも覚えた。来年こそは育て方を改善し、サブスク青パパイヤ生活を叶えたいと思う。
パパイヤの茎のメンマも作った
これは余談になるが、パパイヤの実が大きくならなかったことが悔しかったので、せめてもの抵抗として茎でメンマを作ってみた。
干した大根のようなザクザクとした歯ごたえが心地よく、茎もちゃんとパパイヤの味がしておいしい。メンマは若い竹で作るが、これは若い木っぽい味と食感だ。食べられる木。
見た目ほどメンマっぽい食べ物ではないが、これはこれで楽しめる。ただ掛かった手間を考えると、他の物を食べた方がいいかもね。
そんなこんなの2021年のパパイヤ栽培を踏まえて、2022年もオラソル農園から苗をもらってきて、去年以上にはりきって植えた。
今年こそは収穫したパパイヤでピクルスを作って、髭を生やしてパーマをかけてダンスをしながら「パパイヤ酢漬けです」と言ってやる。