僕は目が悪いし胃も悪い。だけど歯だけはいい。子供の頃、奥歯が生え変わる時にお世話になってからというもの、その後まともに歯医者に通った記憶がないくらいだ。そんな丈夫な歯を食事するためだけに使っていてはもったいなくないか。
歯を使えば果物の皮をむくことが出来るし、お菓子の袋も開けられる。歯は人の持つ最もプリミティブな道具といえるのだ。今回はそのポテンシャルを改めて確かめてみたいと思います。
※2006年1月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
ご一緒にどうぞ
歯の道具としてのポテンシャルを確認するために今回様々なものを食いちぎってみることにした。読者の皆様におかれましては身の回りに似たようなものを探していただき、一緒に食いちぎりながら読み進めてもらえば各自の歯の強さを確認することができるのではないかと思います。
*歯の強さには個人差がありますので、無理はしないで下さい。
食品部門
まずはじめに硬い食品代表、スルメ。一般的な食べ物の中で、スルメ以上に硬い食材はそれほどないのではないかというのが選考理由だ。
早速一品目、食いちぎってみたい。
あっけなかった。
スルメの食いちぎりに要した時間、約35秒。歯ごたえはあるが歯の食い込みがよく、そのために切断がしやすかった。初心者の食いちぎりには適した食材だと思う。
次、ほねっこ。犬のあごと歯は人よりも強力なのだろうか。同じものを食いちぎって検証してみたい。
と思い、ほれ食いちぎれ、と近所の野良犬に「ほねっこ」を与えたら、食いちぎらずに持っていってしまった。よって残念ながら比較対象となる犬の記録がない。
人が食いちぎった場合に要する時間は約15秒だった。素材がかなり硬いために歯の食い込みは悪いが、素材自体がもろいので折るようにして食いちぎることができる。スルメと同種の匂いがするが、味は石灰。
食品は制覇とみなします
スルメを食いちぎることで、食品業界はほぼ制したと判断することにした。この先は無機物をメインに食いちぎってみたい。
コード部門
非食品系第一弾、電話線。こういうものを食いちぎられるようになってくると工事担当者も道具に困らないのではないか。
やってみよう。
電話線を食いちぎるのに要した時間、約3分。ビニールの被覆部分は歯のかかりがよく、難なく食いちぎることが出来る。しかし中の銅線で意外とてこずってしまった。
それから切断面があまりきれいでないので、実務で使うには訓練が必要だと思う(ただし被覆をむくだけならば即実用可)。
さらに太く
次のターゲットはさらに太くなってLANケーブル。僕の以前働いていた会社では、このクラスのケーブルを切ったり貼ったりしていた。あの時は専用の工具を使っていたが、今は自営業なので食いちぎられたら便利このうえない。
LANケーブルは予想通り手ごわかった。ビニールの被覆の時点で電話線とは比べ物にならないくらい厚く、そして硬い。歯の食い込みは太い分良好なのだけど、とにかくびくともしない。
だけど結局は歯が勝った。
完全に食いちぎるまでに要した時間、約8分。途中で銅線のゴミが喉に入ってしまいうがいをしていたのがロスとして響いている。詳しく食いちぎり方を説明するとこうだ。
まずビニール製の被覆部は前歯で咬みながら線を回し、切り裂くようにすると効率がよいだろう。内部の銅線にもいちいちビニール製の被覆が施されているが、こちらは無視していい。内部の銅線を狙って前歯、もしくは糸切り歯で1本ずつ丁寧に食いちぎっていってもらいたい。本数の半分くらいを食いちぎり終えたらあとは線をねじり、コヨリ状にして一気に食いちぎることもできる。
これでコード類はほぼいけると確信した。もっと強いやつはいないのか。
紐部門
逆に歯ごたえの小さいものの方が歯の食い込みが悪く、手ごわいのかもしれない。
そう思って近くにあったビニール袋を食いちぎってみたが、やっぱり難なく食いちぎることが出来た。
紐類はどうだろう。歯を日常的に道具として使う場合、紐が食いちぎれるとずいぶん便利だと思う。そういう点で限界を知っておくことは大切だろう。
ということでまずは荷造り用のビニール紐から食いついていきたい。
ビニール紐は細い繊維を束ねて作られている。とにかく歯ごたえがなく歯の中で紐が滑ってしまうので、一気に食いちぎることはできないが、繊維を数本ずつまとめて噛み切るようにして地道に食いちぎることは可能だった。要した時間、約2分。
限界が見えない
工事用のビニールロープはどうだろう。食いちぎりという行為の限界を知るために行っている検証のはずなのだが、以外にも高いレベルに到達しようとしている。歯という道具のポテンシャルの高さを改めて実感している次第だ。
ビニールロープは細かく数えてみると132本の細いロープをこよって作られていることがわかった。細いといってもその一本一本が軽く釣り糸くらいある。ビニール紐とはわけが違う。
こいつは手ごわい。只者ではない。釣り糸1本ならば楽々食いちぎれるのに、たくさん集まるとこれほどまでに丈夫になるのだ。三本の矢の話も今なら頷ける。
紐部門の限界が見えた
ひたすらに、ただひたすらに咬み続け、ようやく食いちぎることができた。要した時間、休憩も含めて約45分。ロープを構成する細いアクリル線を1本1本地道に噛み切っていった結果だ。このあたりに歯の限界があるのかもしれない。
最後は実用性を考え、電線に挑戦することにした。
電線部門
最後に電線を太さを変えて4種類選んだ。写真右端から直径0.5ミリ、0.75ミリ、1ミリ、1.5ミリ。
電線を食いちぎることが出来たらかなり有益だと思う。食いちぎられれば、ちょっとした修理作業から家の配線工事まで、身一つでこなせるようになるのだ。そのためにはどのくらいの太さの電線まで歯でいけるのか、知っておく必要があるだろう。
まずは0.5ミリの電線から。
ホームセンターの担当者いわく、電話線だとか、そういう電圧的な負荷の小さい部分に使う線だとか。そんな雑魚、今の僕には敵じゃない。
と思い自信満々に噛み付いたら、瞬殺でビニールの被覆だけがむけた。しかし内部の銅線が異常に硬い。このタイプの線は、細い銅線がこより状に束ねられているわけではなく、太い1本の銅線が中心に入っているのだ。残念ながら全く歯が立たなかった。まさに歯が立たない、という表現がふさわしいくらいに、完敗だった。
無理を承知で次の太さ0.75ミリの電線に噛み付いてみると、なんと2分弱という短時間で食いちぎることが出来てしまった。一体どういうことなのか。実はこのクラスの直径の電線は、内部の銅線が細い線を束ねて作られているのだ。
1ミリ、1.5ミリの電線は、被覆すら食い破ることが出来なかった。被覆さえむければあとは地道に噛み切る作戦が使えるのだが、もうまったく歯が食い込んでくれなかった。
ということでまとめたい。歯を道具として使う場合の限界はこうだ。
- 食品ならばほぼ何でも歯でいける
- コード類は食いちぎるだけならば可能だが、切断面が汚いので実用には向かない
- ロープ類は荷造り用のビニール紐が実用できる限界と判断
- 電線は内部の銅線の構造にもよるが、被覆をむくだけならば0.75ミリの電線までいける
実験を終えて改めて身の回りを見てみると、実はほとんどがこの条件の中に納まっていることに気付く。家の中では工事用の紐など使わないし、家電製品の電源ケーブルくらいならば全て食いちぎることが出来る気がするのだ。要するに歯が丈夫なうちは日常生活に特別な道具は必要ないということだ。
皆さんはどうだったでしょうか。毎日の歯磨きで大切な歯を丈夫に保ち、便利な食いちぎり生活を送りましょう。
追記:編集部安藤です。この記事を書いたのが2006年。ものをむかずに食べる「むかない安藤」は2012年からはじまります。この記事を書いた頃は、まさか自分がのちにむかない安藤になるなんて考えてもいなかったわけです。この記事は今読んでも特に感慨深いわけでもなく、ばかだなあ、という感想です。