1. 年金・保険という「金融資産」
前回は、家計の金融資産のうち「株式等」についてフォーカスしてみました。
日本の家計は「現金・預金」は主要国で圧倒的な高水準ではありますが、「株式等」ではむしろ低い水準であることがわかりました。現金・預金の大部分は高齢層が保有していますが、それが消費に回っているわけでも、金融投資に回っているわけでもない実態がありそうです。
経済としては「止まったお金」という事になりますね。
今回は、家計の金融資産のうち、「現金・預金」、「株式等」以外の項目についてフォーカスしてみます。
それが、「年金・保険」です。
これらは、まだ手元にないけれども将来貰えることが決まっているお金といえますね。
英語表記では、Insurance pension and standardised guaranteesとなります。
さっそく、家計全体の総額から見ていきましょう。
図1が家計の金融資産のうち、年金・保険の推移です
やはりアメリカが圧倒的な水準ですが、日本の約半分の人口のイギリスが近年では日本を上回って第2位となっている点が特徴的です。
日本は増加傾向ではありますが、停滞気味です。
2. 比較的高い日本の「年金・保険」
それでは、人口1人あたりの水準についても比較してみましょう。
図2が人口1人あたりの推移です。
日本は1990年代にアメリカやイギリスと同じくらいの高水準でしたが、その後横ばい傾向が続いています。直近ではカナダに抜かされ、フランスやドイツと同じくらいの水準のようです。
イギリスがアメリカと同じくらいの高水準であるのが特徴的ですね。
3. 具体的な数値で比較
それでは、特徴的な年の具体的な数値で比較してみましょう。
図3は日本の経済絶頂期である1997年のグラフです。
水準の高い国順に並べています。
家計 金融資産 年金・保険 1人あたり
1997年 単位:$ 26か国中
1位 40,320 イギリス
2位 36,302 アメリカ
4位 26,388 日本
6位 21,069 カナダ
8位 10,838 ドイツ
10位 9,451 フランス
14位 4,399 イタリア
OECD平均 9,840
この頃は為替の影響もあると思いますが、イギリスがアメリカを抜いて1位となっていますね。
日本も4位と非常に高い水準で、ドイツの2.5倍です。
図4が2019年のグラフです。
家計 金融資産 年金・保険 1人あたり
2019年 単位:$ 36か国中
5位 94,398 アメリカ
6位 74,424 イギリス
8位 57,942 カナダ
11位 38,253 日本
13位 36,026 フランス
14位 32,278 ドイツ
17位 21,845 韓国
18位 20,767 イタリア
OECD平均 34,647
日本は1997年の時点よりも増えてはいますが、アメリカやイギリスの増え方からすると大きく見劣りするようです。
ただし、1人あたりGDPや平均所得が20位程度であることと比較すれば、比較的上位にとどまっている印象ですね。
4. 成長率で比較
続いて、各国の成長率についても比較してみましょう。
図5が1995年を起点とした成長率のグラフです。
日本はやはり停滞が続いています。
アメリrか、イギリス、カナダ、ドイツがほぼ一致して成長しているのが興味深いですね。
イギリスとフランスは非常に高い成長率のようです。
やはり日本は1990年代の水準がもともと高く、その後の成長は鈍化していることがよくわかるのではないでしょうか。
4. 年金・保険という特殊な金融資産
今回は、家計の金融資産のうち、年金・保険についてフォーカスしてみました。
やはり日本は過去の水準が高かったようですが、その後の成長率は非常に低く、他国にキャッチアップされている状況です。
直近では先進国でもまだ高い順位ではありますが、今後はさらに順位が低下していくことが予想されます。
年金・保険は、今後条件を満たせば支給される予定のまだ手元にないお金ですね。
図6は、日銀 資金循環のデータで、家計の金融資産と負債の詳細項目をグラフ化したものです。
今回の年金・保険は、このグラフ中の「保険・年金・定型保障」に相当すると考えられます。
日本の場合、「現金・預金」が圧倒的に多い水準ですが、次いでこの「保険・年金・定型保障」が多いようです。
ただし、2004年ころから「現金・預金」の増加傾向が強まるのに対して、「保険・年金・定型保障」は停滞傾向となります。
一見右肩上がりに豊かになっているように見える家計ですが、他国と相対的に比較してみると、そう楽観的にはいられない状況であることがわかるのではないでしょうか。
すでに平均所得などのフロー面では先進国下位にまで転落している日本ですが、このままだと様々なストックの項目でも停滞が続き、相対的に転落していく事が極めて高い将来として考えられそうです。
皆さんはどのように考えますか?
編集部より:この記事は株式会社小川製作所 小川製作所ブログ 2022年5月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「小川製作所ブログ:日本の経済統計と転換点」をご覧ください。