ホック服の提案(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

ポケットのたくさんついたバッグやジーンズが好きだ。なんだかすごく得した気分になる。どこに行っても手ぶらでOK、もう安心だ!という気がなぜかする。

いっぽうで、最近いろいろ工具を買い足しているが、作業をする際、それら工具を取り出しやすい収納が欲しいと思っている。職人さんや美容師さんが腰につけている道具入れ、あれなんかいいんじゃないか?

しかし道具のサイズが合わなかったり、何かと自分の使い勝手に合わない部分が出てくるものである。いっそ、自由度の高い道具入れを自分で作ってはどうだろう。というわけで、今回は提案型工作記事です。本当にこういうプロダクトがあればいいなと思っています。暑い日の続くなか浮かんだ妄想ではない。

2005年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

理解されない

2ヶ月ほど前のニフティでの会議。
「ホック服を作ろうと思うんですけど」とネタ出しをする。
それだけではまさか伝わらないので丁寧に説明。が、一呼吸置いたあと、Webマスターの林さんに言われる。「わかんないけど、いいですよそれで」

そして先々週。「乙幡さん、今度やる企画って何でしたっけ」「ああ、そろそろホック服を作ろうと思うんですけど。たくさんホックをつけて、自由度の高い・・・」
林さんは一呼吸置いた後、「全然イメージわかないけど、いいですよそれで」

いや、大丈夫だ。たとえ説明が足りなくても、それが理解されなくても、自分の中ではもう決まっている。まっすぐ前を見据えた瞳には、いつしかまぶしい工作者の光。

最近買ったリュックも、いたるところにポケットが。ポケット三昧。ポケットまみれ。
BBフェスタの設営風景でも、お腰につけた道具入れがあちこちで見られた。

上の写真のような、道具に合わせたポケットがたくさん欲しい。が、意外と市販のものでは足りなかったり、尺が合わなかったりして残念な思いをする。それなら 「一面にホックのついた服」 を作り、持ち物が何であれ微調整可能な作りにしたらいいのではないか、とずっと考えていた。

ホック、ホックと言っているが、正しくは 「バネホック」 だ。中のバネでパチンと閉められる、おなじみのやつ。その材料一式をいそいそと買ってきた。

バネホック、一袋20組入って158円だった。
4個で対になっている。メス(左)とオス(右)。

いつも思うんだが、でっぱっているほうをオス、へこんでるほうをメスという言い方、わかりやすくていいとは思うが、いつも変な気分にさせられる。だってアレがでっぱってるからアレなのでコレのようだ、って公式の場でも言えているということじゃないか。パソコンの接続のマニュアルとか。

でも、初めにそう命名した人を私は尊敬する。

打ち台。これにホックを乗せて布地(または皮革など)を挟んで、右の 「ハトメ抜き」 を乗せてトンカチでたたく
ハトメ抜き (右) を、それぞれオスメス対応するホックに乗せるわけです。

さて、何を入れて持ち歩くか。設計フェーズに入ろう。

カバンの中身見せましょう

臨機応変を表現するため、2コース用意した。「ちょっと取材にお出かけ・IT機器盛り合わせコース」 と 「あなたも憧れの職人に・工具満載コース」 だ。それぞれの道具に合わせて布を切り、アタッチメントを作成していく。

「取材コース」 は、ノートPC、メモ、名刺、ICレコーダー、携帯電話、ハンカチ・ちり紙、あとこれを撮ってるカメラ。
「工具コース」 は、トンカチ・スチロールカッター、グルーガン、手動ドリル、半田ごてなど。

実際には、「ノートPCをポケットに入れて歩き回れるのか」「使った半田ごてを熱いままポケットに入れるのか」 といった深刻な問題はあるのだが、とりあえずは提案することが重要なので、これで行こう。というか、これらがガチャガチャ入っている様を見てみたい、というのが本音だ。

さて、これらのお道具を、買ってきた厚手の布地 (キャンバス地) に並べてみる。業界用語でいうところの、「場見って」 いくわけですね。

なんてグラフィカル。
私の設計はいつでも 「目見当」「体当たり」「たぶんこれでうまくいく」 がポリシー。

やってみて初めてわかることもある。ポケットの大きさを決めるさじ加減がいまいちわからない。道具全体を覆わなくてもいいときもある。

例えばこんな形だと、首の根元だけ止めればいい。で、「ドリルの首」 ってどこだ?
手書きの住宅地図のようなものが完成。

各パーツに 「トンカチ」 など名前を入れないと、何がなんだかわからなくなる。あと、天地を矢印であらわした。

今日はちゃんと提案できるレベルでプレゼンする意気込みであるからして、このように心配りもいきわたっているのである。普段が適当すぎるという意見もないではない。

ポップ!

はー終わった。寝るとするか。いや、これからが面白いのだ。数は多いが、単純だが、一気に作ってしまいましょう。

建築は穴をうがつ仕事だ

と言った建築家がいたそうだが、私の仕事は今はただひたすら、布に穴をうがつことである。

ホックを布につけていく。ちなみに今回は 「腰に巻くギャルソンエプロン」 タイプの服にしてみた。やはり腰まわりにぶら下げるほうが安定するだろうし。本当は肩にかける 「予備の弾丸収納」 みたいにしたかったのだが。

穴あけ具でまず小さく穴を開ける。
・・・なんていちいちやってられないのでドリル登場。らくらく。
打ち台にホックの片方、そのまた片方をセット。布の穴を合わせて・・・。
もう片方を乗せ・・・。
ハトメ抜きを置いて打ち付ける
このように、下に置いたホックの先っちょがつぶれ、固定されるのだ!

考えているデザインだが、ベースとなる布にはホックを無数に開け、ポケット装着場所の自由度を高くしたいと思っている。無数に、とはいっても限りはあるので、モジュール単位を 「3cm」 に設定し、ベースは3cm方眼になるよう穴を開けていく。

はいやっとお見せできます。こういうイメージだったんですよ。

ポケット部のほうは端っこだけにホックをつけていけばいいわけだが、厚みがある分、下の写真のように切込みを入れていかなくてはいけない。その調節が今回一番面倒でした。

なんだかいい感じになっていってる。

脳内CADフル回転で、途中で頭から煙が出そうでした。こういうときは、やっぱりあれか、3DのCADとか使えばいいのか?

できあがったのがこれ。まだ何のことやらわからないかもしれない。

やっぱり職人憧れだった

布地を最初から紺色を選んでいたのも、ポケットに 「○乙」 と酒屋の前掛け風に描いたのも、念頭には 「職人」 ビジュアルがあったからだと思う。

とにかく、出来上がりを見ていただくため、ニフティに立ち寄った。身に着けた様子も写真に収めてもらおう。

セッティング。どこにポケットをつけようが自由度が高い分、頭を使う。知育系だ。
ICレコーダー、携帯、カメラが収まった。

実は、ホックが途中で足りなくなり、手芸用品のユザワヤにまた買いに行ったのだが、自分が前回買い占めたせいでまだ店頭に並んでいなかった。ホックの数、オスメス総数300個。この2倍は必要だったのだ。

なので、かなりの部分ができずに残ってしまったのが心残りだ。

ドリル部分はICレコーダーのと兼用。
工具コースの全容。
セッティングを終えたらいよいよ装着だ。

おそるおそる腰に巻きつけてみる。ホックが多いとはいえ、力を入れればブチブチッ!と分解してしまいかねない。

「ならPC入れて持ち歩くの無理じゃねぇ?」 などと言わずに、今後の可能性にかけてください。

腰に装着。これ、有りか無しかで言えば、「有り」 だな・・・という外観。自画自賛。
「毎度有難う御座います」・・・小僧寿司のキャラクターのように。
PCも入るぞ。すべての機器をモバイルに変えるぞ!
鎧っぽい。雷落ちやすいだろうか。

うん、腰にいろいろな道具が備わっているというのはじつに気分がいいね。あまりにいいので、ガンマンの真似でもしてみよう、訪問先の会議室で。

レディー・・・
シュート! ・・・トンカチとグルーガン。ある意味無敵。
コードの収納までは考えていませんでした。

成功のような失敗のような、よくわからない雰囲気。でも楽しかったのでよしとしたい。特に 「○乙」 のところ。

ベルトの強度、ホックの強度と装着しやすさの両立、アタッチメント増やすときの設計のマニュアル化、立体裁断など、多くの課題は残るが、また形を変えてやってみたいプロダクトだ。「○乙」 ブランド立ち上げだ。

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