トリまみれになる(デジタルリマスター)

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静岡県掛川市に、「掛川花鳥園」という施設があるのをご存知だろうか。

私は最近までその存在をまったく知らなかったのだが、そこはトリ好きにとって、トリへの餌やりができるわ、なつかれるわで、まさに「トリまみれ」になれるという「約束の地」であったのだ。

トリだらけのページになる。

2005年2月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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こんな郊外に、あんな興奮の地があるとは

花鳥園の存在を知ったのは、今年用の年賀状のデザインを探しているときだった。

私は鳥なら「オオハシ」が好きだ。あの、くちばしだけで自分の体くらいある、見た目バカげな鳥(失礼)だ。 その写真を探すうち行き当たったのがこの花鳥園のホームページだったのだが、非常に興奮した。あの熱帯産のオオハシに、動物園では金網越しのはるか向こうにしか見ることのできないオオハシに、直接餌をやれるのだ。

このトンネルの向こうに花鳥園が。
遊歩道からが近いとあったが、これ遊歩道か。
全景が見えてきた。和風だ……。
全面的にオオハシをフィーチャーしています。

掛川か。なるほど。と思い立ったはいいが結構遠いのだった。東京から、高速路線バスなら往復7千円台だが8時間以上かかる。だからといって新幹線では、往復1万5千円だ。んんんでもせっかくトリ年だ、今年なら思い切って行く口実になる。

2月に入ってまで「今年はトリ年ですね!」などと言ってる人はあまりいないものだが、それにかこつけるだけではない。自分の夢を、欲望を果たしに行くのだ。

そして、園内へ一歩入ったとき、本当に来て良かったと思った。

いきなり、「こっち側」に、カモが。

「——–!」と、声にならない声、超音波が出ましたよ。カカカカカカモ。あたあたと足がもつれそうになりながらも、餌売り場へ。

無人売り場です。ここはカワキモノの餌なので1カップ50円。
試しに食べてみた。緑茶味のキナコ玉、甘みまったく無しという感じ。
神の気分。みんなが、私を(餌コップを)見ているよ。

普通に話ができない。今回、掛川まで同行してくれた知人のSさんと話すにも頭が空っぽになりがちだ。「キーーーーーーー!かわいいぜこんちくしょう」というようなことをずっと言ってるわけだが、それでは記事にならない。

それは、それはよおくわかっている、でももう駄目です。私は今日は、駄目なライターだ。何故って、これらの写真をごらんなさいよ。

「くれ。 それをくれ。」
うひょー!
「食べさせてくれ。」
うっはー!
腹。
しり。 犬神家のスケキヨだ。
人間とカモが同じ側に。
なごむ。

ふだん、池でカモをこんなに近くで見る機会はないので、ありふれたトリではあるがこれだけでも大興奮だ。

ここのトリらは人間に非常に馴れているが、歩み寄っていくとじりじり逃げる。口ばしの構造から、どうしても「ほほえんで」いるように見えてしまうトリだが、哺乳類ほどは、親しみの情を示してはくれないところが、やはり「トリ」なのだった。

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フクロウは、やっぱりハカセだった

カモの池から屋根のある室内へ入ると、いきなりフクロウがいる。フクロウっていいよね。その「長老」っぽいたたずまい。フカフカ感。きょとんとしたマナコ。以前、動物園で首を縦に180度かしげている様を見たことがあるが、そのときからノックアウトされてしまった。こうして今写真を眺めていても、「あーうーー」「おーーーおうー」と奇声を発せずにはおれない私だ。

トルクメニアンワシミミズクのムサシ。あーうううー。

置物じゃない。本物である。じっとこっちを見ている。が、首の動かし方が唐突なので、思わずこっちはコケそうになる。

唐突に目をそらす。
そして唐突に目が合う。

ちょっとした「トトロ」という趣だ。大きさは、ちょっとした電気ポットだ。

でも、本当に何を考えてるんだか。じっと食い入るように1点を見つめる様は、こいつが猛禽類であることを思い起こさせるが、すいっと首を動かして、あらぬ方向、例えば天井の窓越しに何かを見つめていたりするのだ。訳わかんねえ。

なんだなんだ。
すすきで作ってあるわけじゃない。しかしこの爪。

そして、閑散としていた周囲がやけに騒がしくなってきた。「フクロウとのふれあい」開演時間が迫り、団体さんが続々やってきた。

なんだなんだ。フクロウ人気あるぞ。「フクロウって、180度まわんのよねぇ~」と、フクロウトリビアをかしましく話すおばさんもいて、メジャーなトリだったんだなあと再認識する。

いっせいにケータイで撮り始め、ムサシもどうしていいかわからんと見た。

「フクロウとのふれあい」では、調教風景を再現。また、一般客もフクロウにさわることができる。

呼んだら飛んでくる!
腕に止まる。かっこいい。
また止まり木へ。
空気を多く含んだつばさ。
ぽけー。
「呼んだ?」で首を180度後ろへ!

止まっている間、やはりたまにあらぬ方向を見つめるムサシなのだが、そのたびに「どこ見てんだ?」とおじさんやおばさんが同じ方向を目で追う。写真でお見せできないのが残念だが、その視線の誘導されっぷりがおかしい。

さて、子供らの列に行儀よく並んで、ムサシをさわる。そして、200円かかるが、腕に止まらすこともできるので、これはやるしかない。

さて、さわるぞ。やわやわだ、気持ちえ~。<

写真を撮る都合もあったが、待つ子供らを尻目に、長いことさわさわしてしまった。大人なのに申し訳ない。さて、こわごわ手袋をはめ、腕に止まってもらう。

「どこ見てんの!ムーさん!」と調教師の声が飛ぶ。ムーさん。
じっと見つめあう。
カメラ目線は知っているようだ。

調教のときにお姉さんが説明していたが、フクロウ類は目玉だけをぐるっと動かすことはできないそうだ。あの首の唐突な動きの理由がわかった。ムチウチのような動きには、深い事情があったのだ。

ぜひ飼いたいと思えども、「ムサシくんは、1日に死んだヒヨコ3~4羽食べまーす」ということだったので、あまりの敷居の高さに、涙した。

本当はもっと見せたい写真があるのだが、長くなるので割愛だ。というわけで、もう自分の基準でトリ萌え~な奴だけ載せることにする!がー!

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まぶたのトリに会える

このトリに会うためだけにここ来たっていい、そんなトリ、オオハシ。私がチョコボールのあのトリを好きなのも、ここから来ている。あのでかい口ばしのせいで、人の良さそうな顔に仕上がっている。

アームカバーをいちおう借りて。なんせ「まみれる」んだから。
「ふれあい」なんて穏やかな言葉では表現できない世界が待っている。レッツラゴー。
トリが出て行かず、人が通りやすいように考えられた入り口。昔のバツゲームの大道具っぽい。
ところかわればの注意書き。踏んづけかねないらしい。
2頭身。

餌箱に近寄っただけで、シュタッと飛んできた。明らかに、何かを期待している表情。まあ待ちなさい。

「くれ。とにかくくれ」
「ちょうだぁ~いん」
餌は100円、メロンとりんご。いいもん食ってんな。
人間が手を餌箱に触れると、陰から様子をうかがう。

餌を箱から取り出したらもう、「いらっしゃーい!」とばかりに飛んできた。「トリキャバクラ」かここは。来たお客にはかならず2~3匹はついておもてなししてくる。いや、おもてなしではない。彼らの目当ては「餌」のみだ。あ、それもトリキャバのゆえんか。けっこうしたたかである。

餌しか見えてない。でもつついたりとかはしない。馴れたもんだ。
あの口ばしを上手に使って、いったんクイッと放り投げて飲み込む。
憧れの、オニオオハシ。
夢みたいな状況だが、とりあえずひるみまくり。もったいない。
絵的にも幸せな人。
口ばしが大きいため小さいコップに苦労していた。
こいつもしかして口ばし取り外せるんじゃないの?という感じの裏側。穴が開いてて驚きの構造。

餌目当ての彼らであるが、でもいいのだ。こちらはそのおかげで思いっきり心が弛緩している。この感覚を味わうべく、どんどん餌にお金をつぎ込んでしまう。ゲーセンのようにどんどん1000円を両替する。「トリゲーセン」でもあるわけです。

インコが離れない。オオハシ、じっと見てんなよな。
このエリアではお客さんは皆、2~3羽はひっついたまま歩いている。
餌もないのに、こいつだけ振っても振っても離れない。
ファスナーの端っこをずっとちくちく噛んでいた。トリ的にもニッチな嗜好のようだ。
掃除のおじさんも多少のまつわりつきには動じない。

何百円もつぎ込み、トリ大尽を繰り返し味わったせいで・・・

慣れた。「馴れた」のではなく「慣れた」。トリに慣れてしまった。こんなに珍しい状況なのに、なんだか「トリでおなかいっぱい」になった。クジャクとかがそこらを歩いてても、何も感じない。「ああ、フラミンゴね」ってな具合である。贅沢である。

「・・・。」 ひとりで何を思う。

エミューにまみれることもある

27羽のエミューが餌をねだりにやってくる、とパンフレットにあったので、エミュー牧場にもこわごわ行ってみることにした。

大きめの餌。噛んだらカモのよりもっと草っぽかった。
大きめの餌。噛んだらカモのよりもっと草っぽかった。
エミュー。じいさんっぽい。

エミューは、近くでみると怖かった。でも非常におとなしい。が、ひとたび餌を持って入ると……。

「わしにくれ」「わしにもくれ」「わしもわしも」
「えさがきた」「えさがきたね」「えさだね」
「まだあればくれ」「あればでいいからくれ」「ないのか」
「ないのか」「ないな」「あるかもしれん」「ないな」

藁葺き屋根みたいな奴がたくさん寄ってくる。人を襲うようなことはまったくないが、集団はとにかく怖い。焦る。日本でのヨン様も、あのときは心底怖かったと思う。

恐竜みたいな足だし。

最後の最後にペンギン爆弾で撃沈

エミューを統率し終わり戻ってくると、室内のあらぬところにペンギンを見かけた。本来は外の池にいるはずなのだが。職員のお姉さんが来て、抱えて外に出す。あ、やっぱりここにいちゃ駄目なんすね。

ひとり紛れ込んだ。何かお探しのご様子。
あえなく捕獲。戻されます。

聞けば、どうも暖かい室内が好きなようで、ちょっと目を離すととっとと入っていってしまうそうだ。

「だめでしょ!」と言ってる間にも入っていこうとする。
で、戻される。以下繰り返し。

受付のところまで戻り、そろそろ帰るかと準備をしていると、なにやら異形の影が廊下をうろうろしている。

ペンギンだ。

受付ブース内に侵入。
訓告を受け退去命令を出されるも、見上げているだけ。
再度訓告中。強制退去。
再度の入国を申請中。
「どうするマリオ」「どうするルイージ」
「どうするかね」「入りたいね」
「開いた」「入るか」 「入ろう」
「入れた」「やった」

この2羽は本当に兄弟だそうで、5番目と6番目にかえった卵だったそうだ。この親和性は、そういうところから来ているんだろうか。

そして、もっとよく見ると、受付の事務スペースの下にも何かいる。

ペンギンだ。

「……。」 ふつうに仕事しているお姉さんの足元で……
ぬくぬくあったまっている。

これが、1番目にかえった長男(長女?)のペンギンだそうだ。生まれたときから園内でこうして放し飼いなので、人間社会にとてもなじんでいるらしい。自分を人間だと思っているに違いない。「今日は団体が多いねー」と受付にはっぱをかけに来たのだろう。

ペンギン オンザ受付カウンター。

 


帰り道、ほぼ無言だった。何かを放出しきった感覚。ただの叫びすぎかもしれないが、欲望をすべてかなえた後の脱力感が残った。欲だのなんだのと、お恥ずかしい限りだが仕方がない。

罪だ。この園は罪だ。こんな場所があるものか。

一見のどかな田園地帯のど真ん中に、このような興奮のルツボ、阿鼻叫喚の施設があるとは。またストレスでもたまったら絶対来ようと思う。

掛川花鳥園

取り上げられませんでしたが、他にもこんなところが。本当にまた行こう。

人まねをする前に必ずすごい顔をするヨウム。
ブーツの足を噛むクロトキ。
うまいそば。
うまいフクロウ地ビール(掛川のではない)・おつまみ付き。
馴れるハクチョウ。
見上げるカモ。

 

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