これでもほんの一握り。
大阪の道頓堀や新世界には巨大な立体看板が多数並んでいる。この魅力的な看板たちをひたすら鑑賞する。
大阪の立体看板はすごい
大阪在住の人にとっては当たり前かもしれないが、そうでない私にとっては衝撃だった。見上げるとすごいのである。
立体看板というらしい。これを見て私は心を射抜かれたのであった。デカすぎておもしろい。笑えてくる。
日帰りの大阪出張だが、限られた空き時間の中で私はひたすら立体看板を探していたのであった。この記事では運よく出会えた立体看板たちを一つずつ丁寧に鑑賞していく。
道頓堀がすごい
ミナミの道頓堀商店街は立体看板で有名なようだ。不勉強なもので全然知らなかったのだが、たまたま行って否応なしに痛感させられた。
まずは先ほどの写真から観賞しよう。
元禄寿司といえば回転寿司の発祥としても有名だ。しかしこの立体看板は回転寿司をモチーフにしているわけではなく、誰のかわからない手と寿司が表現されている。この手はお客さんの手だろうか、寿司職人の手だろうか。後者だとすれば「俺の寿司を食え」という強い意志を感じる。
串カツだるまは大阪の有名な串カツチェーンである。看板のモチーフは串カツだるまの上山会長である。怒っているのがよい。普通、客商売の看板で怒ることはないだろう。「すしざんまい」の店先の木村社長の人形はもっとニコニコしてウェルカムな感じだ。
大阪の串カツといえばやはり「ソース二度づけ禁止」の文化であろう。大阪の串カツ屋さんはソース二度づけに常に目を光らせ、いつでも怒る準備をしている。そんな気概と力強さを感じる。筆者はこの「ソース二度づけ禁止」の文化が好きすぎるあまり、過去に「ソース二度づけ絶対許さないマシン」を作ったこともある。
ちなみに今回の大阪出張の夜、新世界近くの串カツ屋さんに入ったのだが、コロナ禍の影響か、ソースを自分専用の小皿に注いでつけるシステムが採用されていた。
いろんなタコを愛でる
大阪といえばたこ焼きでもある。必然的にタコの立体看板を多数見かけることになる。それぞれに個性があり愛おしい。
くくるはふわとろなタコ焼きで有名なお店だ。そんなお店の立体看板はかなり写実的なタコ。本物のタコもこういう一本線の目をしている。夢に出てきそうな看板だ。「あの時食べられたタコです。」と言って仕返しをしてきそう。
くくるの別店舗のタコ。夜に目が光りそう。一番上の腕が回りそう。ギミック満載感のあるタコだ。しかしこの日は臨時休業中で残念。
たこ焼きとタコ。いわゆる共食い看板だ。
これも実はくくる。くくるの立体看板が多い。しかしどのタコも違っていて趣深い。この店は縦に長い建物を生かし、やや立ち気味のタコになっている。空間に合わせてタコのデザインが柔軟に変化している。軟体動物の強みだ。
もちろんこれも立体的でとても良いのだが、先程までのリアルなタコとのギャップを感じ面白い。かなり記号化されたタコだ。かわいい。
我々を吸い込みそうな勢いのタコ。まつ毛もぱっちりでフェミニンなタコだ。しかしクイーンではなくキング。ダイバーシティなタコだ。そしてこのお店、よく見ると
ジャズとブルースとたこ焼きのバー。要素盛りだくさん。時間さえ許せば絶対に訪れたかった。
こちらは調理後の姿。こっちのほうがたこ焼きの食欲を促すという意味では理にかなっている。
カニも愛でる
タコも多いがカニも目立つ。カニといえばかに道楽だ。道頓堀だけで3店舗もあり、どの店にもカニの立体看板が飾られている。
かに道楽は全国に41店舗あるが、かに道楽としての最初の店舗は道頓堀本店だそうだ。書いてある通り、本店の看板は2022年2月に60周年を迎えた。道頓堀を見守り続けてきた看板だと思うと胸が熱くなる。
東店にも立派なカニ。甲羅のぶつぶつの感じとかリアルだなあ。
本店にお客さんを誘導する役割をはたすカニ。かわいい。
道頓堀のカニで思い出されるのは2021年4月に起きた「カニオブジェ破壊事件」であろう。
いまもオブジェは壊れたままとなっている。先日のニュースでは、加害者2名は反省し、そのお店でアルバイトをしているという。
その他もろもろどんどん愛でる
タコやカニ以外にも道頓堀では多くの看板が飛び出ている。
カールおじさんの100点満点の笑顔。守りたい…。
カールは2017年に全国販売が終了し今は関西のみで販売されている。そういった意味で西日本を代表する繁華街の一角にカールおじさんがたたずむのは象徴的だ。(もっとも、この看板は2008年から設置されているので昨今の販売事情とは無関係ですが…)
牛だ。牛が浮いている。そんなことがあっていいのか。これはもうキャトルミューティレーションやアブダクションの域だ。
そしてその奥では家族が笑顔でホルモンを嗜んでいる。飛び出るちゃぶ台。ああ〜たまらない。
牛魔。閻魔様のようにこちらを睨みつける牛。左はどうみてもメロンパンだが確信が持てない。こんなところにメロンパンがあるはずがないという気持ちが強い。(調べたところ本当にメロンパンでした。)
共食いタイプの立体看板だ。いったいどういう心情なのか…。
片方は上半身でもう片方は顔のみというアンバランスさが不気味さを醸し出しており個人的にかなり好きな看板だ。
道頓堀の龍は建物を突き破る。あえて龍全体を作らず、突き破らせることで迫力が増している。これはめちゃくちゃ完成度の高い看板なのでは?
ポップ工芸。ひょっとしてここが全部作っているのか…?
これはあとでじっくり取材したいと思っていたが、調べたら別の媒体で当サイトライターでもあるスズキナオさんがつい最近取材されていた。わ…。かぶった。
スズキナオさんの記事によれば、「道頓堀に存在する立体看板の7割ほどはポップ工芸が作ったもの」だそうだ。道頓堀の立体看板のクオリティが一貫して高いのは、そういうわけだったのか。ぜひ合わせてお読みいただきたい。立体看板の制作話がわかり大変面白いです。
一方筆者の記事では、立体看板を愛でることに着目し、引き続きひたすら愛でていきます。
龍も一個じゃない。
別の金龍。「金龍といいつつ緑龍だよな…」と思っていたが、おなかの部分が確かに金色だ。
写真からもわかるが、軒先立ち食いスタイルのお店である。40年の歴史を誇るあっさりとんこつのラーメン屋さんだ。
さらなるアナザー金龍。目が丸っこくて愛嬌がある。まんが日本昔ばなしにのオープニングに出てくるタイプの龍だ。
龍の体の一部が看板を突き破るスタイルがここでも踏襲されている。前述のスズキナオさんの記事によればこれもポップ工芸制作だ。
ホタテを襲うスパイダーマン。これに関してはどう解釈していいのか全くわからず思考が停止する。神戸牛!ホタテ!蜘蛛!情報量が爆発してクラクラしてくる。
地上でも飛び出ている
上ばかり見ていたら首を痛めそうだ。地上にも着目しよう。実は地上でも結構な飛び出し合戦が繰り広げられている。
このサンドバッグのような何かはおそらく、立体看板を作る手間をかけることなく簡単にZ軸で勝負するためのものだ。こうでもしないとここでは埋もれてしまう。
目立なければお客さんの目を引くことはできない。その競争の激化ゆえ、各店舗がいろんな工夫を凝らしているのが面白い。
新世界も飛び出ていた
その後、通天閣のある新世界にも行ったのだが、そこでもいくつかの立体看板を見ることができた。
商品ではなく名前由来のオブジェだ。笑っちゃうぐらいデカい。
夜に来られて本当によかった。美しい。
そう、かつてはここにふぐの超巨大立体看板が吊り下がっていたのだ。しかし2020年に撤去されている。屋外広告物の基準に反しており大阪市に撤去を求められていたのだという。ルールならば仕方がない…。そうはわかっているが、勝手ながらさみしく思う一観光客なのであった。
お好み焼きのまわりだけが光り輝いていて面白い。
ジャンボ釣船。こちらに落ちてきそうなほど見事な飛び出し具合。重厚感の感じられる看板だ。こんなお店昔はなかったと思ったら2017年オープンとのこと。釣った魚をその場で食べられる最高のお店だ。
東京でもよく見かけるお店も、ここでは飛び出ている
さて、ここからは「東京でもよく見かけるお店」に着目したい。
もちろん、東京の王将はこんなに飛び出ていません。
大阪王将の餃子は皿に乗っておらず今にも落ちてきそうだ。
道頓堀店ではわりと控えめだったくら寿司であるが、新世界通天閣店ではみごとな立体看板であった。しかも実際に回っていた。
ここはつるとんたんの本店であり一号店である。球体の立体看板は上品さを保ちながらしっかり目立つことにも成功している。
すた丼は東京発祥らしいが、ここまで大きな立体看板を東京で見たことはない。 かなり飛び出ていて迫力がある。
パセラ名物のハニトーが今にも落ちそう。めちゃくちゃおいしそう。
大阪には印象的なドンキが何軒かあるので、ドンキのルーツは大阪ににあると勘違いしそうになるが、一号店も本店も東京にある。つまり道頓堀のドンキは「郷に入っては郷に従え」の精神でここまで派手さを演じている。
筆者は中学生のころに家族で大阪を訪れた際、この観覧車に父と乗った記憶がある。「ドンキの観覧車」という意外性が当時から面白かった。
新宿歌舞伎町はそんなに飛び出ていない
さて、すっかり大阪の立体看板に魅了され、東京に戻ってきた。
「道頓堀や新世界の看板が飛び出ているのはわかったが、東京の繁華街も同じなんじゃないの?」と言われた時のために、新宿歌舞伎町の飛び出し具合も見てきた。
しかし、飛び出しの密度でいうと圧倒的に劣る。道頓堀や新世界のようなZ軸で勝負する文化が、歌舞伎町にはほとんどない。
しかし、新宿ではモニターから猫が飛び出ているのであった。
新宿ではないが、東京の巨大立体看板として真っ先に思いつくのは合羽橋道具街のニイミ洋食器店であろう。
道頓堀と違って立体看板の気配が何もないところで不意打ちで出てくるので度肝を抜かれる。
道頓堀の串カツだるまの会長のだるま大臣と戦わせたい。
調べたところ、ニイミのジャンボコック像は 高さ11m、重量10t のようだ。一方、だるま大臣は高さ12m、重さ2t。
高さ勝負ならだるまの勝ち。重さ勝負ならニイミの勝ち。でもだるま大臣は回るらしいからな…。あとなんか怒ってるし。喧嘩だとだるま大臣が勝ちそうだ。
デカいオブジェは面白い
人はどうしてデカいオブジェに惹かれるんだろう。浅草寺の提灯をはじめて見たとき「デカっ」と思ったし、奈良の大仏を見たときも「デカっ」と思った。デカいオブジェは良い。(逆に札幌の時計台は意外に小さくて少々がっかりした。)
大阪の道頓堀や新世界は「デカいオブジェは良い」のボーナスステージのような場所だ。周辺を歩くだけで10年分ぐらいの「デカいオブジェ」を摂取できる。デカさのハイパーインフレ状態。しまいにはご利益がありそうな気にさえなってくる。落ち込んだ時はぜひデカいオブジェを見ましょう。