大手SI会社が挑戦する意識改革–伴走者と目指すビジコンからの新規事業創出

CNET Japan

 2月21日から3月4日かけて、オンラインイベント「CNET Japan Live 2022 社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション」が開催された。本稿ではイベント最終日のトリを飾ったセッション、ビジネスコンテスト(ビジコン)で新規事業創出に取り組むNECソリューションイノベータと、そのサポートをおこなうフィラメントによる「国内大手SIベンダーの挑戦 ~VUCAの時代に生き残るために~」の様子をお届けする。


(左上)NECソリューションイノベータ イノベーション推進本部・プロフェッショナル 松本元延氏、(左中)CNET Japan 編集長 藤井涼、(左下から)フィラメント 代表取締役 角勝氏、NECソリューションイノベータ イノベーション推進本部 今はる菜氏、同 イノベーション推進本部・シニアプロフェッショナル 田口大悟氏

 NECソリューションイノベータは、NECグループの社会価値創造における中核的役割を担う従業員 約1万2000人の大手SI(システムインテグレーション)企業である。現在同社では、2030年を見据えて「ソフトウェア&サービスカンパニー」を目指し、事業構造の変革に取り組んでいる。

変革が求められるSI業界のビジネスモデル

 その背景は、SI業界におけるビジネスの閉塞感であり、受託開発に依存してきた事業体質に変化が必要とされている。そこでNECソリューションイノベータでは、「BeNES(ビーネス)」という社内向け愛称を付けたビジコンを2015年7月に開始。BeNESの目的について、NECソリューションイノベータ イノベーション推進本部・プロフェッショナル 松本元延氏は、「事業を作るということでの価値提供サービスの創出がメインだが、仮説検証型プロセスの普及や人材育成という目的もある」と説明する。

 BeNESでは、アイデア選抜されたチームが、仮説の具体化を進め、顧客発見・顧客実証のステージで仮説・検証を繰り返しながら、事業化を目指す流れになっている。7年間で社内から集まったアイデア応募が410件あった中、検証の最終ステージが3件、事業化が2件という実績が生まれてきたという。この間、応募アイデアの検討は、BeNESの支援範囲に含めず応募者個々に任せていたが、2022年度からBeNESの支援範囲に含めようと考えている。


BeNESの社内での流れと7年間の実績

 ビジコンの成果としては、地理情報システム(GIS:Geographic Information System)とドローンを組み合わせた農地測量サービス「NEC GIS農地面積測量サービス」と、画像解析技術を使って静止画像で投球フォームの比較分析をする「NEC Pitching Form Analysis」の事業化に加えて、「社内に新たな文化を育てる考え方や行動がだいぶ広がってきている」(松本氏)ことが挙がる。

 SIベンダーに求められる仕事の質は、顧客の要望を満たすシステム構築を高効率、高品質で実現していく面が強く、自ら能動的に動くことが比較的少ない。そうした中、ビジコンによって自ら新規事業にチャレンジする社員が増えたことや、ピッチコンテストに役員が参加するようになったことで、「経営陣との距離も縮まり、失敗を責めずに学びと振り返りを重視するようになるなど、会社の雰囲気が変わってきている」(松本氏)という。

 活動の過程で現在は、“自社らしい”新事業をどう生み出していくかに取り組み始めている。ポイントは「最初のアイデアの出し方」と、「質の高い検証活動をどう実現していくか」の2点。前者では、(1)会社のビジョンや強み、ケイパビリティをもっと良く知ること、(2)情報感度を高めること、(3)有識者との壁打ちを繰り返していくこと――の3点を松本氏は挙げる。

 後者では、(1)新たな思考回路や行動変容を生むためにWhyやWhatで問いを立てること、(2)顧客と向き合って、顧客の立場になって深く知ろうとすること、(3)フレームワークにすべて頼らず、自分たちの考えも踏まえて適切に使うこと――の3点を意識しているとする。

 「ビジコンが目指すものとして、知の融合が生み出せるような探索活動を継続的におこなえる場所を作っていきたいと考えている。当社らしい新事業をどう生み出していくか、最適な方法を模索していきたいし、新事業を途切れることなく育み続ける環境をどう作っていくかに取り組んでいきたい」(松本氏)


BeNESが目指すゴール像

2022年1月からフィラメントがサポートを開始

 その活動のなかで、2022年1月から新規事業創出を支援する伴走者としてフィラメントが参加している。同社 代表取締役 角勝氏は、NECソリューションイノベータの取り組みをサポートする際に重視しているポイントとして、「事業アイデアの質」「マネタイズ理解度」という2項目を挙げる。

 「BeNESでうまくいかなかった新規事業のアイデアには、『自社技術の押し売り型』『ありふれた生活者目線型』という2つの傾向がある。その結果、両方ともマネタイズが困難になっている。そういうアイデアが多く出る理由は、情報の摂取、インプットが弱いから。多くの社員が会社と自宅の往復に終始しがちで、顧客課題につながる情報の入手ができていないことが原因だと思われる。これは多くの企業で共通の課題になっていること」(角氏)

 アイデアを出すという行為には、「情報を摂取する」と「情報を加工する」の2つの能力が必要になると角氏はいう。「アイデアを出すこととは情報の加工のことだと思われている節があるが、実際により重要なのは良質な情報をたくさん摂取しその意味を深く理解すること。この情報を摂取する、意味のあるインプットをする力を高める必要がある」と角氏は説く。

 マネタイズがうまくいかないことに関しては、ビジネス理解の解像度が少し低いことも影響していると角氏は推察する。抽象化して言うならばビジネスとは複数当事者間での価値交換であり、そこには3つのポイントがあるのだという。

 1つめは、「価値交換にあたっては、お金や時間、データ、ファン意識などの何らかの媒介物が発生すること」。2つめは、「価格は立場によって相対的に差があること」。3つめは、「媒介物の価値を様々な角度で計測できる能力、つまり“物差し”を持つことが必要ということ」である。

 「ビジネスセンスを身につけるためには、価値を知る物差しをたくさん持っている必要がある。そこで我々が設計しているワークショップ等を通じて、ビジネスの理解度を深めて物差しを増やすということに取り組んでいる」(角氏)


フィラメントが提案したビジコンによる事業創出を改善するポイントと解決策

 これらの角氏の指摘を、BeNESの企画責任者としてゼロから立ち上げてこれまで運営してきたNECソリューションイノベータ イノベーション推進本部・シニアプロフェッショナル 田口大悟氏は、「そういうことだったのかと凄く納得した。情報摂取のところから変えていく必要があると痛感している」と受け止めている。

「ビジネスアイデア強化支援」で“学びの習慣化”を図る

 そのため、「学びの習慣化を目的とした『ビジネスアイデア強化支援』をフィラメント様の協力のもと開始し、現在26チーム、70人の社員が参加している」という(NECソリューションイノベータ イノベーション推進本部 今はる菜氏)


2022年1月から3カ月間実施したビジネスアイデア強化支援策

 ここでは、インプット・情報摂取マインド強化のために、フィラメントの「『面白がり力』強化ワークショップ」や、スタートアップ企業との座談会企画などのメニューを揃えている。他にもビジネス理解度の向上を目的として、角氏の講演や、「自社の強み」「社会課題」「トレンド」の3つのカードを組み合わせた連想ゲーム方式でビジネスアイデアを生み出す「ストーリーカードメソッド」のワークショップ、ビジネスの基礎的理解を深めるためのQA形式動画の作成などを実施している。

 そのほかにも、フィラメントとの壁打ちでアイデアの具現化やブラッシュアップをSlackでおこなうほか、ビジネスを次のフェーズに進めるための個別メンタリングを実施。さらに全社に向けても、新規事業創出に適した社内文化醸成のために経営幹部と角氏の対談イベントをおこなうなど、さまざまな企画を実行している。


ビジネス理解度を向上させるため様々な企画を用意している

「410分の2」という数字は決して小さくない

 プレゼン終了後に、モデレーターであるCNET Japan 藤井涼編集長と視聴者からの質問に4者が回答した。

 まず、BeNESの変遷について。当初は、アイデアを具体化させるために必要最小の内容を求めていたため、「アイデアを出す社員の情熱や熱意を理解する部分が不足していた」(松本氏)という反省から、自らの熱量や解決したい社会課題を最初に発表してもらうように変更したという。また、顧客発見ステージの期間を変えたり、相互刺激があるように3チーム平行で進めたり、審査員を途中から役員に切り替えるなどの工夫をおこなったとのこと。

 また、2022年度からビジネスアイデアの検討ステージをBeNESの支援範囲に含めるようになるが、「それによってよりアイデアが生まれやすいBeNESに生まれ変わると感じている」(今氏)という。

 アイデアが410件のうち事業化が2件ということについては、社内では小さすぎると思われていると田口氏は明かす。「弱いアイデアで事業化を目指すと確率は減る。確率を上げるために最初のアイデア検討の部分をしっかりとやる必要がある」と同氏は語る。

 ただ専門家の目線からすると、410分の2という数字は小さくないと角氏はフォローする。「それより注目すべきは、顧客発見の36件から2件という数字。これはとても多い。顧客の目線をどれだけ早く獲得するかというところに、最初から振った方がいいと思う」とアドバイスを送る。

 最後にイベント共通の質問である「御社にとって共創の一番の価値とは?」に、両社が答えた。田口氏は、「共創は社会課題を解決する唯一の手段。個社で課題できない課題こそが社会課題として残っているので、それを解決するには共創するしかない」と回答。

 それを受けて角氏は、別の視点から見解を示す。「価値という切り口でいうと、ビジネスオポチュニティを発見できる可能性をどうやって高めるかということにある。物差しの話をしたが、NECソリューションイノベータの場合はSI会社から見たらそうだという価値基準になりがち。でも他の人が見たら別の価値が見える。そこを発見してもらう、あるいはお互いに発見しあう。それによって、実は差異があるという部分がビジネスになる。共創は、そのオポチュニティが見いだせるきっかけになる」(角氏)。

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