高いEV普及へのハードル

アゴラ 言論プラットフォーム

私はバンクーバーでの駐車場事業の一環でEV対応施設への投資を決めて現在、その準備段階にあります。近隣のコンドミニアムの管理組合ともいろいろ話をしており、デベロッパーとしてコンドミニアムの価値を維持するためのEV対応という観点でいろいろ協議しています。

Model S tesla HPより

当地のある管理組合から単刀直入に聞かれました。「それで、一体、EV対応にするにはいくらかかるんだね?」。私の答えはこうです。駐車場一台当たり諸条件を無視してざっくりした金額で述べれば「EV対応」にするコストが1台当たり30万円、あと充電機器は補助金込みで1台10万円ぐらいと答えました。

パッと聞くと悪くない数字です。ところがこれには裏があります。自分専用の駐車場を「EV対応」にするには原則、駐車場全部にEV対応の電気設備を敷設しなくてはいけません。つまりEV推進派、反対派問わず、全部の駐車場均等で1台当たり30万円という話です。充電機器は3-4台に1つでも間に合うのでこちらはどうにでもなります。

とすれば管理組合としては部屋数=駐車場台数にもよりますが、3千万から5千万円程度の出費になります。これがねん出可能かといえば私はNOだとみています。理由は住民総会にかかる案件になりますが、水漏れ修理で5千万円かかるならしょうがないな、という気になりますが、乗らないEVのために金は出せない、という声が必ず出るからです。

くだんの管理組合理事長、「なら、投資家を持ってくる」と。この人は知らないな、と思いました。EV機器への投資リターンなどないに等しいからです。この投資のメリットはコンドミニアムの価値の維持や転売価格の上昇といった目に見えにくいメリットでそれを享受するのは住民であって投資家ではないのです。

以前、このブログで充電方式もいろいろあるからまだディファクトスタンダードがどうなるかわからないと書かせていただきました。テスラがEV市場を席巻していますが、これはアーリーアダプターと称される流行に敏感な層の強い支持が背景です。ここから先の普及にはEVの車自体ではなく、その売り方とインフラが整わないとマジョリティ層への普及が進みにくいのです。

日本でEVをサブスクにするという動きが活発化しています。理由はEV車の再販価格が悪すぎるからです。新車のEVの5年後の価格は15-30%程度まで値落ちしているのが現状。内燃機関の車だと35-55%ぐらいで留まるとされる中でEVは車体価格は高いわ、値落ちは早いわ、となればいくら掛け声が大きくても売りようがないのです。

また、EVに興味がある人は年齢的に比較的アクティブ層、そしてそれらの人はマンション住まいで車はマンション付属の駐車場か、青空駐車場というケースが多いでしょう。これを考えるとサブスクでとりあえず、逃げるしかないというのが現状なのではないかと思います。

サブスク、ないしカーシェアリングを広く展開する際に顧客が指定の駐車場に止める、その間に充電ができるという仕組みが必要です。となれば現在の充電方式ではなく、Inductive Charging(誘導充電方式、ないし非接触型充電方式)の方がはるかに理にかなっています。今の充電方式は将来の汎用性を考えると使いにくくてしょうがないのです。

また、EVの電池コストが高いことがしばしば話題になります。とすれば個人的にはやはりバッテリースワップ方式が理にかなっていると思います。これなら電池交換は数分で済むし、車体本体の価値が下がりにくい仕組みとなります。つまり劣化しやすい電池と劣化しにくい車両本体を分離させる工夫が有利であるというのが私の結論です。電池も今後、改良されてきます。とすれば電池によって車両本体の価値が左右されること自体がビジネスとして理不尽ではないでしょうか?なら、電池、別売りか電池交換時に一定割増額を払う方法が良いのではないかと思います。

EVに乗りたい、だけどよく考えるといろいろな意味でハードルが高いとも言えます。日本の自動車会社勢としては今からでも遅くはないので発想の転換を図ってみるのも手ではないでしょうか?電池別売りと非接触型充電方式の発想です。

どんなビジネスでも既存の改良が有効な場合と全く違った発想を取り入れなくてはいけない場合の二通りがあります。EVの普及は日本人が得手な改良型ではなく、発想そのものを抜本から見直し、試行錯誤を繰り返さないとEVは普及しないと思います。これでは今後、3-5年の間に大量の新型EVが市場に出回るとされますが、宝の持ち腐れになりかねない気もします。(ただ、実情は半導体がなくてEVが生産できないという別次元の問題もあるようですが。)

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年4月7日の記事より転載させていただきました。

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