中学受験の算数に通過算というものがある。電車と電車が通過するときにかかる時間を求めるものである。新幹線に乗って通過算を使えば、新幹線の速さや駅の長さを求めることができる。
通過算とは
突然ですが問題です。
これが通過算である。
数字で言われてもよくわからないという人のためにGIFも用意した。
これは中学受験の算数あるあるなのだが、「いったい何が悲しくてそんなことをするのか」という気持ちになる。たかし君は池の周りを一定の速度で回り続け(旅人算)、鶴と亀の頭の数と足の本数をひたすらカウントし(つるかめ算)、時計の短針と長針が重なる瞬間を血眼になって待ち構える(時計算)。
もう不毛とは言わせない。中学受験の算数をもっと活かしたい。今回は実際に新幹線に乗車し、通過算を使って新幹線の速さや駅の長さを求める。
新幹線で使える通過算
通過算をもう少し実践的にするため、練習問題の2問目を考える。
実はこの問題はちょっと引っ掛け問題である。
調べたところ、東海道新幹線N700系の16両編成の長さは約400mらしい。あとは自分の乗っている新幹線の速さと、 通過の秒数さえわかれば、通過相手の新幹線の速さがわかる。これを実際にやりたい。
本当の通過算を見せてやります
では新幹線に乗り通過算を実践する。
幸いにも結局最後まで私の隣は空席であった。もし人が居たら「この人は何をしているんだ」とモヤモヤさせてしまうところだった。
準備万端。いよいよ発車。
新幹線はどんどん加速し5分後には最高速度近くに達した。
調べると東海道新幹線は最高時速285キロで走っているらしい。実際に速さを可視化するのは筆者にとって初めての体験で、改めて「新幹線って速いなぁ」と実感させられたのであった。
そうこうしているうちに最初の通過が。
先ほどまでは秒速で計算していたが、今回は時速に変換する必要がある。1時間は3600秒だ。
また、新幹線の長さをこれまでは400mとしていたが、より正確に計算するため405mとしている。(1両当たりの長さは25.00mだが先頭車両は27.35mなので、16編成の全長は25.00m×14 + 27.35m ×2 ≒405mとなる)
さっきの新幹線は時速256kmだったのだなぁという知見を得た。いままでそんなこと考えもしなかったが、通過算を使えばわかるのだ。
それがどうした
ここで多くの読者が感じているであろう想いを代弁する。「それがどうした。」これに尽きる。通過相手の新幹線の速さがわかっても何もうれしくない。
もっと嬉しい何かを求めたい。例えば駅の長さはどうだろうか。通過算のロジックを使うことで通過した駅の長さを求めることもできる。
のぞみさん、駅の通過も容赦なくビュンビュン飛ばすんですね…。では新富士駅の長さを求めよう。時速265kmは秒速73.6mなので、新富士駅の長さは
秒速73.6m×5.47秒=403m。
思ったより短い。16両編成の全長は405mなので収まりきらない。
不安になったが、Google Mapの航空写真で駅の長さを測定したところ、407mと出た。 かなり近い。よくよく考えてみれば、新幹線の両端に扉があるわけではないので、乗降可能という意味では十分収まるのだ。
誤差が気になる
先ほどの計算はだいたい合っていたが、やっぱり誤差が気になる。測定には誤差というものがつきものである。先ほどの例でいうと、筆者がストップウォッチを押すタイミングが0.1秒ずれるだけで、駅の長さが7mもずれてしまう。何なら平気で0.3秒ぐらいずれていてもおかしくないので、駅の長さは21mもずれる可能性がある。やだな…。
もっと言うと、GPSによる速度計測アプリの精度も気になる。結局GPSの精度によると思うが、それってどれくらい正確なのだろう。
しかしここで、とっておきの方法を思いつく。通過の都度ストップウォッチを押すのではなく、動画を撮りっぱなしにして、あとから通過時間を求めるのはどうだろう。より正確に通過時間を求められる。
通過にかかった時間は6.22秒。一方、Google Mapから駅の長さを求めると416mだった。ここではどちらも正確な値(=有効数字3桁)として話を進める。
筆者が乗っている新幹線の速さを求めると、
416m ÷ 6.22秒 = 秒速66.9m = 時速241km である。
さて、GPSによる速度計測アプリが示す速さは…
実際の速さよりも時速5kmだけ遅く表示されていた。原因を考えてみよう。
①駅通過時の速さが一定ではなかった説
時速241kmよりも速く進入し、時速241kmよりも遅く退出したと考えると、平均では時速241kmだったのかもしれない。
しかし、これは現実的ではない。実は先ほどの写真の4秒後に撮影した写真では
4秒で時速1km遅くなっただけである。この写真にも駅が映りこんでいる。つまり、図にするとこうなる。
となると、他の説を考える必要がある。考えられるもう一つの説は、やはりGPSによる速度計測アプリの精度の問題だ。
②GPSによる速度計測アプリが遅めに速度を出す説
GPS速度計測アプリでは、一定時間の間にどれだけ移動したかをGPSの位置情報をもとに計算し、そこから速さを計算している。そのため、位置情報の更新が遅くなると、速さも遅めに算出されてしまう。(もちろんそれを補正するアルゴリズムはあるだろうが、通常は自動車での速度計測を想定したアプリなので、新幹線だと話が変わってくる。)
特に、新幹線のように高速で移動する場合、位置情報がすごい勢いで更新されるので、更新が遅くなり、速度が遅めに算出されるというのはありそうだ。
じゃあなぜ新富士駅の長さはうまく計算できたのかというと、手で操作したストップウォッチの誤差がいい感じに打ち消してくれたのだと思われる。
なお、浜松駅でも同様に計測したところ、GPSの速度計測アプリは実際よりも時速7km遅めに算出していた。 やはり遅く算出されがち。
ちなみに、自動車のスピードメーターでは、実際の速度よりも速い速度で表示されることが多いようだ。確かにその方が安全だ。
難しい話が続いたので、静岡駅プチ情報を載せておきます。
~~ 静岡駅プチ情報 ~~
片道の営業キロが101km以上となる乗車区間の乗車券は、途中下車が認められている。これを利用すれば、東京から名古屋へ新幹線で行くときに、ひかりやこだまに乗り、静岡駅で途中下車が可能だ。(ただし特急券は東京~静岡と静岡~名古屋に分ける必要があるのでトータルで900円ぐらい高くなります。)
そして、静岡駅から徒歩10分のところに、さわやか新静岡セノバ店がある。途中下車してさわやかのハンバーグが食べられるのだ。
出張や帰省のついでに途中下車してさわやか。実は過去に2回これをやったことがある。(出張の場合、途中下車しても怒られないか事前に確認しておきましょう。)
算数を無理やり実践するとおもしろい
中学受験の算数は「こんなのいつ使うんだよ」と言われがちだが、だからこそ無理やり実践してみるとおもしろい。実際にやってみると机の上ではわからない、いろんな発見があるものだ。まず、現実世界では機材の準備が必要だ。面倒。測定結果には誤差がある。周囲の迷惑にならないよう配慮する必要もある。やってみると結構大変。でもだからこそ面白い。途中でいいやり方が見つかり、工夫のしがいもある。
次回は「先に出かけた人の忘れ物を届けるために一定の速さで追いかける回」でお会いしましょう。