ロシアから優秀なIT技術者が我先にと脱出中

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2022年04月05日 07時00分
メモ



国連の統計によると、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻を受けてウクライナから国外に避難している人の数は、4月1日の時点で413万人にのぼるとのこと。一方ロシアからも、ウクライナ侵攻に対する経済制裁や国内での言論統制を避けるため、膨大な数のIT技術者が流出していると報じられています。

As Russia sees tech brain drain, other nations hope to gain | AP News
https://apnews.com/article/russia-ukraine-putin-immigration-kazakhstan-technology-c041eb0b7472668087bb94207de2f71d

AP通信は4月1日に、「ある推計によれば、ロシアがウクライナ侵攻して以来、コンピューター専門家が最大7万人ロシアから国外に流出しており、今後さらに多くの人がこれに続くとみられています」と報じました。

ロシアの技術者のうち、EUのビザを取得できるエリート層らはポーランドやバルト三国などに移住しているとのこと。またそれ以外の技術者らも、アルメニアやグルジア、中央アジアにある旧ソ連の国家など、ビザがなくてもロシア人が入国できる国々に移住を進めています。頭脳の流出を憂慮したロシア政府は3月に、IT企業に勤める個人に対する所得税を2024年まで撤廃する法案を承認しました。


仮名の掲載を条件にAP通信の取材を受けた、フリーランスのコンピューターシステムアナリストのアナスタシアさんは、「2月24日に戦争のことを聞いたとき、私たち夫婦は『国を出る時期が来たかもしれない』と思いましたが、その日は様子を見てみようと考えました。しかし、結局次の日にはチケットを買って出発していました。ほとんど悩みませんでした」と話しました。アナスタシアさんは、夫の実家があるキルギスを移住先に選んだとのこと。

アナスタシアさんは移住の理由について、「私が覚えている限り、ロシアでは常に自分の意見の表明には恐怖が伴いました。さらに、戦争のニュースやナショナリズムの高まりで一層異論を唱えがたい環境が作られつつあります。そこで、私たちは国境の通過が厳しくなる前に出ました」と話しています。

アナスタシアさんのようにロシアを出る技術者が多いことは、数字によって示されています。ロシア電子通信協会のセルゲイ・プラグタレンコ代表は3月に開かれた委員会で、「第一波である5万~7万人が既に去ってしまいました。4月にはさらに10万人の技術者がロシアを離れるかもしれません」と発言しました。


制裁などによる事業環境の悪化からロシアを後にする技術者もいます。ラトビアを拠点とする技術系ベンチャーキャピタルファンド・Untitled VenturesのマネージングパートナーであるKonstantin Siniushin氏は、「多くの外国企業がロシアから急激に距離を置くようになったので、海外に顧客を持つロシアのハイテク企業は移転を余儀なくされています」と話しました。

ロシアのハイテク企業の中には、事業を存続するためにロシア国外に出なければならないものもあるほか、ロシアにある本社から国外に転勤させられる研究開発者もいるとのこと。こうした人々の移住を支援するため、Untitled Venturesはロシアの技術者300人を乗せたアルメニア行きの飛行機を2便手配しました。

技術者の移住先となっている国々では、人材の争奪戦が始まっています。例えば、旧ソ連の構成国の1つだったウズベキスタンは、ウクライナ戦争が始まった直後にITの専門家の就労ビザと滞在許可の取得プロセスを抜本的に簡略化させました。

ウズベキスタンへの移住を決めたモバイルアプリプログラマーのアントン・フィリッポフ氏は、「2月24日を境に、私たちは今までとは違う恐ろしい現実に目が覚める思いでした。私たちのフリーランサーのチームは全員27歳以下と若いので、徴兵されるかもしれないと恐れました」と述べています。


一方、ロシアやベラルーシと国境を接しているEU加盟国のリトアニアなどは、ロシアから流入するIT技術者の中にロシア政府のスパイやサイバー犯罪者がまぎれている危険性から、経済難民の受け入れに慎重な姿勢を示しているとのこと。

このような懸念はあるものの、ロシアからの技術者の流出は周辺国や西側諸国にとっては優秀な人材獲得のチャンスだとされています。Untitled VenturesのSiniushin氏は、「ヨーロッパやアメリカがロシアから多くの人材を奪えば奪うほど、ロシアの若いイノベーターたちが諸外国にもたらす利益は大きいものとなるでしょう」と話しました。

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