発展途上国のジャガイモ栽培に壊滅的な打撃を与えている「ジャガイモシストセンチュウ」を「バナナ繊維が原料の紙袋」で抑制することができるという研究結果が発表されました。特に広範な被害が確認されているケニアで行われた小規模実験では、収穫量が最大5倍になったと報告されています。
Wrap-and-plant technology to manage sustainably potato cyst nematodes in East Africa | Nature Sustainability
https://www.nature.com/articles/s41893-022-00852-5
Potato farmers conquer a devastating worm—with paper made from bananas | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/potato-farmers-conquer-devastating-worm-paper-made-bananas
ジャガイモシストセンチュウはトウガラシ・ジャガイモ・トマトなどのナス科植物とキヌアなどのアカザ属に寄生する線虫の一種で、「根に侵入して栄養を奪う」という生態が特徴。妊娠したメスが死後に変化する「シスト」という形態は薬剤耐性や乾燥耐性、寒冷耐性などを有し、シスト内で保護される卵は寄生植物が現れるまで10年以上も休眠状態を維持できるとされています。
北海道におけるジャガイモシストセンチュウの発生状況と対応|農畜産業振興機構
https://www.alic.go.jp/joho-d/joho08_000587.html
日本でもジャガイモ生産量の多い北海道においてジャガイモシストセンチュウの被害が例年確認されている状況ですが、ジャガイモシストセンチュウが特に猛威を振るっているのが熱帯の発展途上国。豊かな国では農薬という対抗手段が存在しますが、貧しい発展途上国では農薬に頼ることが出来ない上に、温帯より涼しい国では栽培できる「ジャガイモシストセンチュウに耐性を持つジャガイモ品種」が、熱帯では栽培不可。輪作も有効な手段の1つですが、ジャガイモで生計を立てている小規模農家はジャガイモよりも利益率の低い作物を輪作で育てたくないという事情も存在します。
このようにジャガイモシストセンチュウに悩まされているアフリカの農業従事者のため、「種芋をバナナ繊維の袋に入れてから植える」という手法を考案したのが国際熱帯農業研究所・国際昆虫生理生態研究センター・ノースカロライナ州立大学の合同研究チーム。長年にわたって「害虫に対して有効な化学物質を含んだ多孔質繊維の袋に入れてから植物の種を植えた場合、多孔質繊維から数週間かけてゆっくりと有効成分が放出される上に、種が発芽して害虫に対して十分抵抗力を持った頃合いで自然分解されて成長を阻害しない状態になる」という手法に取り組んできた研究チームは、さまざま試してきた多孔質繊維の中でもバナナの枝から採れる「バナナ繊維」が最適であることを発見しました。
実験の様子はこんな感じ。種芋をバナナの木の繊維でできた袋に入れて、そのまま植えます。
この袋は発芽直後などの脆弱な時期にはしっかりと種芋を保護してくれますが、害虫に対してある程度の抵抗力を持つようになる数週間後には自然分解されて成長を阻害しない状態になるので、一度植えれば後は手間が掛からないというわけです。
ジャガイモシストセンチュウがはびこっているというケニアの畑で行われた実験では、バナナ繊維の袋なしの場合に比べ、袋ありの場合は収穫量が3倍になったとのこと。また、ジャガイモシストセンチュウに有効な農薬であるアバメクチンを土壌に噴霧する分量のわずか5000分の1だけ袋に染みこませたところ、さらに収穫量が50%上昇しました。また、ジャガイモだけでなく、ヤムイモやサツマイモなどの他の塊茎作物を用いた実験でも、有望な結果が得られたそうです。
ケニアとその近隣ではバナナが栽培されており、今回の袋の原材料となったバナナ繊維については廃棄物として捨てられている状況。そのため大量バナナ繊維の袋は安価に大量生産が可能で、農法自体も「袋に入れるだけ」というお手軽さから、機械化農業を導入していないような小規模の農地において有望視されていますが、「バナナ繊維の袋に入れるという農法を試してみるように農家を説得することが最大の難関」とのことです。
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