デルが31.5型4Kビデオカンファレンスモニター「U3223QZ」の日本発売に向けて準備を進めているそうだ。2022年初のCESで発表した製品で、まだ正式に発売日等は発表されてはいないが、発売前の評価機を体験させてもらうことができた。ここでは、そのインプレッションをお届けしよう。
発表時から気になっていた製品だ。とにかくコロナ禍でのハイブリッドワークや在宅勤務など、オンラインコミュニケーションを駆使した今時のビジネス向けモニターディスプレイに必要な要素がオールインワンで凝縮されている。
気になる販売価格は17万8,980円になるそうで、購入を決めるには勇気のいりそうな価格だ。ただ、デルのサイトではクーポン適用で頻繁に価格が下方に変動しているので、この金額よりはかなり安く入手できる可能性もありそうだ(デルの4Kモニター)。
でも、価格のことを考えないでいいなら、今、市場にあるモニター製品の中で、もっとも魅力的なスペックを凝縮した製品だと思う。これ以上の機能的な足し算をするとすれば、リモコンの追加くらいだろうか。ちなみにコミュニケーション機能が省かれたシンプルな製品としては、すでにU3223QEが発売されている。それに対する高付加価値製品という位置づけだ。
モニターとしてのスペックは、アスペクト比16:9の4K解像度(3,840×2,160、60Hz)に対応する31.5型のIPS Black Technology液晶だ。IPS Blackテクノロジーは2,000:1のコントラスト比で暗いシーンの視認性を飛躍的に向上する技術だ。IPSパネルの弱点だった黒い部分がバックライトでうっすらと白く浮いてしまう現象がうまく回避されている。
表面処理は非光沢で、3Hのハードコーティングが施されている。色域は100% sRGB、98% DCI-P3となっている。HDR400に対応する同社のデジタルハイエンドシリーズ(Uシリーズ)モニターであり、梱包箱にはFactory calibration reportが同梱されている。
映像入力はHDMI 2.0、DisplayPort 1.4、USB Type-C(DisplayPort Alternate Mode)の3系統だ。2系統の入力画面を同時に映すPicture-by-Picture、Picturein-Pictureにも対応している。
本体上部には14W出力の内蔵スピーカーを装備している。デルのビジネス向けモニター製品では、スピーカー内蔵のものは珍しい。
さらに、スピーカーユニットの中央部には4K 30fps(フルHDでは60fps)の円筒型ビルトインカメラがある。もちろん、マイクも内蔵されこの製品ではこの装備が重要な訴求ポイントになる。
また、デルのモニター製品の多くがそうであるように、電源ユニットは内蔵で、ACアダプタを使わずにパワーケーブル1本だけで給電するようになっている。
電源ユニット内蔵は、ユニットの故障で製品そのものが使えなくなるリスクはあるが、専用のものはできるだけ少なくし、汎用の周辺機器として使えるようになっていた方がいい。
映像入力の1つであるUSB Type-CポートはDisplayPort Alternate Modeでの映像入力と同時に、当然、USB PDによる給電にも対応し、接続されたPCに対して90Wまでの電力を供給する。その接続に使える100Wケーブルも付属する。ビデオカンファレンスモニターという名前の通り、まさに、オンライン会議のための装備がオールインワンになっている。
アスペクト比16:9で31.5型4Kというサイズと解像度は、1インチあたりのピクセル数で言えば140ppiになる。Windowsの想定する解像度は96ppiなので、143%拡大で想定解像度相当、つまり23型のフルHDモニターに100%表示したWindowsデスクトップの表示と同じスケーリングになる。23型フルHDが96ppiでの表示だからだ。
もっともWindowsの拡大縮小は25%刻みなので、150%で使うことになりWindowsもそのスケーリング値を推奨する。つまり7%ほど大きめの表示だ。これはフルHDをポピュラーな93ppi の23.8型モニターに100%表示して3%ほど大きく表示されているときのイメージと似ている。
一般的なTVの場合、4K解像度なら画面の縦方向の長さの1.5倍の距離で見ることが推奨されている。31.5型の場合、表示領域の高さは約40cmなので、60cmの距離が確保できればいいことになる。
ただ、全画面を視野に入れるなら60cmより、もっと距離を置きたいところだ。もっとも、これはTV映像のように常に全画面を視野に入れる必要があるコンテンツを見る場合であって、Windowsのデスクトップでアプリを使うことを想定すればその限りではない。
このサイズになると、Adobeのアプリのようなケースはともかく、一般的なビジネス用アプリのウィンドウを最大化して使うことはまれだ。
一般的なデスク、つまり机の奥行きは60~80cmといったところだろうか。この奥行きでは机の最奥にモニターを据え置いたとしても、全画面表示の映画などを見るには近すぎる。でも、PCの操作には問題ない。なぜなら、常に全画面を視野に入れて注視しているわけではなく、注目している映像の横幅はアプリのウィンドウ幅に依存するからだ。
視野に収めたい物理的な幅は画面全体の幅よりもずっと狭い。寸法にして数十cmといったところではないだろうか。24型数画面を並べてのマルチモニター環境なら、31.5型どころではない視野が必要だ。それでも不便がないのは、注目するアプリのウィンドウが限定されるからだ。
モニターはスタンドで自立させるが、その支柱は中央部にあり、スタンドベース部の横幅は手前側が約24cm、奥側が約28cmの逆台形状となっている。モニターの外形的には横幅が約70cmあるが、デスクの幅がそんなになくて、画面が机の両側にはみ出したとしてもスタンドを置けるだけのスペースを確保できれば問題なさそうだ。まあ、外付けのキーボードやノートPCを置けるだけの幅があれば十分だとも言える。
一方、高さはもっとも低くした状態で最上部が机上から約48cm。カメラ部はそこからさらに2cmほど上方に飛び出している。
机上から画面表示領域の最下部までは5cmほどの高さとなる。ここまで低くできるモニターはあまり見たことがない。ここから画面を持ち上げると画面表示最下部は19cmまで持ち上がる。15cm分の高さ調整幅で、多くのモバイルノートPCをモニターの下に液晶を開いた状態で置いても画面の邪魔にならない高さだ。これだけ高くできるモニターもあまりない。
逆にこれ以上高くできても、カメラがそれだけ持ち上がることになり、Web会議での視線に違和感が出てきそうだ。いずれにしても対応できる環境はとても広いと言える。
さて、このモニター、本体上部に14Wのアンプで駆動されるスピーカーを装備していると書いた。物理的には左右一組のステレオスピーカーのように見えるが、PCはこれを2つのスピーカーデバイスがあるかのように認識する。
つまり、オーディオ用デバイスと通信用デバイスとして2種類のスピーカーが存在するかのように認識しているわけだ。これによって、日常的にサウンドを鳴らしているメインのオーディオ用スピーカーの音量に影響を与えずにエコーキャンセルスピーカーの音量を決めることができる。
Zoomウェビナーの音量をミュートしながら、映像だけを無音で見つつ、別のアプリで音楽を楽しむような使い方もできる。マイク付きのスピーカーフォンを外付けして会議をしている方にとっては当たり前のことだが、通信とオーディオで別のスピーカーが既定値になっていると何かと便利ではある。
なお、画面左下の額部分にはLEDタッチセンサーが実装され、Web会議関連のコントロールとインジケートができるようになっている。Microsoft Teamsの認定デバイスだ。ボリュームの調整はここでできるほか、マイクやカメラのミュート状態などのコントロールと状態の確認ができる。
本体上部に装備されているカメラはWindows Helloの顔認証にも使えるもので、使わないときにはオートシャッターが物理的にレンズにフタをする。
AI自動フレームを有効にすれば自動的にセンターに自分の姿がくるようにフレーミング、ズーミングされるほか、視野角を65度、78度、90度に、ズーム位置を固定することもできる。ただし、AI自動フレームを有効にした場合、フルHDにもfpsは30に制限される。またHDRにも対応している。
この2つのアプリをインストールすることで、本体右側裏にあるジョイスティックを使ってコントロールすることなく、ほとんどの設定ができる。特に、カメラ関連については、本体のジョイスティックだけではほとんど何も設定ができないので注意が必要だ。
このモニターの映像入力はHDMI、DisplayPort、USB Type-Cの3系統だ。このほかの端子として背面に以下を装備。
- USB Type-C(USB 3.2 Gen 2/USB 3.1のダウンストリーム用ポート)×1
- USB Type-C(USB 3.2 Gen 2/USB 3.1のアップストリーム用ポート)×1
- DisplayPort(MST: Multi Stream Transport OUT用ポート)×1
- USB Type-AAポート(USB 3.2 Gen2/USB 3.1)×4
- Gigabit Ethernet×1
前方からアクセスしやすい位置には次の端子が装備されている。
- USB Type-Aポート(USB 3.2 BC1.2チャージ対応)×1
- ヘッドフォンマイクコンボジャック×1
- USB Type-C(USB 3.2 Gen 2/USB 3.1のダウンストリーム用)×1
このモニターは、複数のPCを接続したときに、まるでドッキングステーションのように機能する。画面に表示中のPCの入力が変わると同時に、モニター本体に接続された複数のデバイスの接続先を一気に切り替えることができるのだ。デルではこの機能をオートKVMと呼んでいる。キーボード、ビデオ、マウスの接続先が切り替わることを意味する。
具体的にどのように振る舞うのかを見ていこう。まず、1台目のPCとしてHDMIかDisplayPortケーブルでデスクトップPCをつなぐ。
モニターのUSBポートには、USB有線キーボードとマウスのUSBレシーバを装着した状態にしておこう。LANケーブルもモニターに接続する。さらに、PCのUSBポートとこのPCのアップストリームポートを同梱のUSB Type-A to Type-Cケーブルで接続しておくこと。
これで、このデスクトップPCは、モニターに接続されたマウスとキーボードを認識し、有線LANもそのまま使える状態で稼働する。サウンドはモニターのスピーカーで再生されるし、カメラやマイクの入力もデスクトップPCが受け取る。これだけつないでも10Gbpsの帯域があるのでビクともしない。
このままの状態で、モニターのType-Cポートに2台目としてノートPCを接続すると、オートKVM機能によって、各ダウンストリームポートに接続されたUSBデバイスはノート側に切り替わる。また、有線LANも切り替わるが、これについては賛否が分かれるかもしれない。
このオートKVMはもう超絶に便利だ。
ノートPCのThunderbolt 4ポートなどDisplayPort Alternate Mode対応のUSB Type-Cポートにモニターからのケーブルを接続した瞬間、画面が切り替わり、Windows Helloは、外付けモニターのカメラを優先して認証するようになり、さっきまでデスクトップPCで使っていたマウスとキーボードがそのままノートPC用に切り替わる。サウンドもモニター側に切り替わり、ノートPCはノートPCでモニターからの給電を受けて充電を始めるのだ。
Dell Display Managerアプリでは、入力の切り替えに使うショートカットキーを定義しておけるので、ノートとデスクトップ双方に、このアプリを入れておけば、ショートカットキー操作だけで、画面が切り替わり、同時に各デバイスも接続先が切り替わる。2台のPCを行ったり来たりするには最高の環境だ。
つまり、このモニターは、あらゆるデバイスを統合するためのハブであり、ドッキングステーションとなり、2台のPC間を自在に往来するのだ。USBケーブルの抜き差しで複数のデバイスが準備できるドッキングステーションはお馴染みだが、モニターの切り替えがトリガーとなって各種の接続が切り替わるというのは新鮮な感覚だ。
このオートKVM機能を活かすためにも、マウスやキーボードなどHIDデバイスのBluetooth接続は使わない方がいい。BluetoothはPCとデバイスを1対1でペアリングしてしまうので、複数のデバイス間を行ったり来たりという使い方には向いていない。ここは無線でも有線でもオーソドックスなUSB接続がいい。
モニターそのものとしては、そのサイズ感の好みもあるだろう。1台の大きなモニターがいいと思うユーザーもいれば、小さくてもいいから複数台のモニターを並べて使うのがいいというユーザーもいる。
大きなモニターなら、画面を複数の領域に区切ってレイアウトできるユーティリティ、デルのDisplay ManagerならEasy Arrange機能を使うなり、WindowsのPowerToysで提供されているFancyZonesを使えば、1枚のパネルを仮想的に複数のモニターのように区切って使うこともできる。
もちろん、大きなモニター、たくさんのモニターを使いたくても物理的に設置スペースが確保できないという場合もある。
今、机上で据置利用するモニターの主流は、アスペクト比が16:9のものなら23.8型、27型、31.5型、42.5型の4種類といったところだろうか。16:9は横長過ぎるという議論はあるのだが、31.5型ともなればそんなことはどうでもよくなるというのが正直なところだ。どれもノートPCの15型以下のスクリーンサイズに比べれば、圧倒的に広くて作業効率を高めるはずだ。
そして、このうち31.5型というサイズ感は、1枚のパネルに対して60cmなどという比較的近距離正面から対峙しても、極端に大きな圧迫感を感じさせずに効率を高める方向に作用してくれる限界のサイズではないかと思う。
これが42.5型になると対峙したときの存在感は半端なものではなくなるし、27型では24型とそんなに変わった感じがしなかったりする。
4K解像度はフルHDの4倍の解像度だが、実際に4倍分の100%表示をするために96ppiを確保するには46型のスクリーンサイズが必要で、そのサイズより小さいモニターを使う場合は表示を拡大しなければならない。
そのことを考慮すれば、31.5型で150%表示が必要だ。ユーザーの視力によっては125%表示でも大丈夫ということならもっと効率は上がる。
フルHD解像度では100%より下の縮小率を設定することができないので、23型を超えるサイズのモニターでは表示が大きくなるだけだ。だから、27型以上のフルHDモニターは一般的な使い方には向いていない。
そういう意味でも31.5型は大画面と4K解像度の両面を活かせるちょうどいいサイズだと言えそうだ。複数のモニターは置けない、または、置きたくないというなら、絶対のおすすめだ。横幅だけで言えば、13.3型液晶のモバイルノートPCの横に同じサイズのモバイルモニターを並べたときとたいして変わらないのだ。
そして、その環境にコミュニケーション関連機能が統合されているこの製品は、間違いなく今年最高の製品の1つだ。本当に欲しくなった。
画面サイズ | 31.5インチ |
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表示領域 | 697.31×392.23mm |
パネルタイプ | IPS Black Technology |
解像度 | 3,840×2,160@60Hz |
アスペクト比 | 16:9 |
視野角 | 水平/垂直178度 |
映像入力インターフェイス | DisplayPort 1.4 (HDCP 2.2) HDMI 2.0 (HDCP 2.2) USB Type-C(DisplayPort 1.4、USB PD 90W) |
その他インターフェイス | USB 3.2 Gen 2/USB 3.1 Type-C(アップストリーム) USB 3.2 Gen 2/USB 3.1 Type-C(ダウンストリーム) USB 3.2 Gen 2/USB 3.1×5(1基はBC 1.2対応) 3.5mmヘッドフォンジャック Gigabit Ethernet デュアルアレイマイク 14Wステレオスピーカー |
調節機能 | 高さ(150 mm)、傾き(手前方向に-5度~仰向け方向に21度)、回転 (-30度~30度 ※ピボットは不可) |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 712.61×230×497.84~647.27mm |
重量 | 11.90Kg |
消費電力 | 最大240W(オンモード時29.90W) |
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