NEC、性能2.5倍/電力効率2倍を達成したスパコン「SX-Aurora TSUBASA C401-8」

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SX-Aurora TSUBASA C401-8

 NECは、ベクトル型スーパーコンピュータのデータセンター向け新モデルとして「SX-Aurora TSUBASA C401-8」の販売を、2022年10月7日から開始した。

 従来機と比べて、2.5倍の処理性能と2倍の電力効率を実現。最小構成台数は12台で、価格は2億500万円(税別)から。NECでは、2024年度までに100億円の売上げを目指す。

 SX-Aurora TSUBASAは、NECが長年のスーパーコンピュータ開発で培ったLSI技術と、NEC独自の高密度実装技術、高効率冷却技術などを活用したカード型ベクトルエンジン(VE)を搭載しているのが特徴で、VEの搭載数により、オンサイト用からデータセンター用まで、幅広いラインアップを揃えている。ベクトル演算に加えて、x86サーバーへの搭載を可能とした新アーキテクチャの採用により、x86演算のニーズにも対応している。2019年12月と、2020年6月にアップデートを行ない、進化させてきた。

 新たに投入するSX-Aurora TSUBASA C401-8は、コア数を従来の10コアから16コアに増やしたほか、Last Level Cacheに加えて、同社が2018年まで販売していたスパコン「SX-ACE」において評価が高かったL3キャッシュを、技術進化によって、SX-Aurora TSUBASAに初めて採用。従来製品に比べて処理性能を2.5倍に高めた。また、TSMCと共同開発した3次元積層メモリのHBM2Eメモリを採用することで、メモリバンド幅を1.6倍、メモリ容量を2倍に強化している。

 最先端のプロセスを採用することで、電力効率も2倍に高めており、CO2排出量の削減にも貢献。現行のSX-Aurora TSUBASAで利用していたソースプログラムをそのまま使用できるほか、特殊なプログラミングをすることなく、FortranやC/C++のプログラムをコンパイルするだけで、プログラムをデータセンターモデルに自動的に最適化し、高速化できる。Pythonの利用も可能であり、開発時間の短縮や、独自アプリケーション開発の継承も安心して行なえるという。

 SX-Aurora TSUBASA C401-8は、東北大学サイバーサイエンスセンターに導入されることが決定しており、新たな大規模科学計算システムとして、2023年8月から運用を開始する予定だ。東北大学で導入するのは、合計4,032枚のVEを搭載し、総理論演算性能は約21PFLOPSとなり、世界最大のベクトル型スーパーコンピュータシステムとなる。

 東北大学は、1986年にSX-1を導入して以来、NECのスーパーコンピュータを継続的に導入。航空機や発電タービンなどのモノづくり分野で求められる大規模数値流体シミュレーションのほか、津波浸水や河川氾濫の被害予測などの防災減災、熱中症リスクの評価、気候変動の適応策に役立つシミュレーションなどに活用してきた。2020年10月から運用を行なっているスーパーコンピュータ「AOBA」は、SX-Aurora TSUBASAを中核としている。

 さらに、ドイツ気象庁でも、天気予報システムの増強を目的として、2023年9月にSX-Aurora TSUBASA C401-8の導入を予定している。電力効率が評価されたという。

組み込みからデータセンターまで幅広く対応

 NECのスーパーコンピュータ事業は、システムプラットフォームビジネスユニットが担当しており、HPC/量子コンピューティングという領域で展開。エッジコンピュータやAIデータ、ハイブリッドIT、保守サービスDXとともに、同ユニットが注力する5領域の1つに位置づけられている。

 NECでは、1980年代からスーパーコンピュータを開発。1983年に発表したSX-2は、世界で初めて1GFLOPSを超える1.3GFLOPSの処理性能を達成(同時発表したSX-1の性能は570MFLOPS)。歴代の地球シミュレータにも採用され、スパコンランキングでは5期連続で1位を獲得するなど、かつては、NECのベクトル型スーパーコンピュータがこの分野をリードしてきた経緯がある。

 2018年2月から出荷を開始したSX-Aurora TSUBASAも、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球シミュレータに採用されたほか、東北大学や大阪大学、核融合科学研究所をはじめとして100以上の団体/企業で採用され、VEの累計出荷枚数は2万枚以上に達している。また、自治体向けには高速/高精度な河川氾濫予測をクラウドサービスとして提供したり、IntelやAMDなどの汎用CPUを搭載したサーバーに、ベクトルエンジンやGPUなどのアクセラレータを適材適所に組み合わせたヘテロジニアス計算環境を提供したりといった使い方が広がっているという。

 NEC システムプラットフォームビジネスユニット Aurora・量子コンピューティング販売推進グループ ディレクターの浅田洋祐氏は、「従来のスーパーコンピュータは巨大なシステムであり、特定の研究機関や教育機関に利用が限定されていたが、SX-Aurora TSUBASAでは、PCIeカード型プロセッサユニットにコアをまとめ、サーバーに搭載できることから、サイズ面とコスト面においてダウンサイジングが可能になり、部門単位でもスーパーコンピュータが導入できるようになった。Xeonに比べて10倍以上の性能を実現するとともに、専門知識不要で、コンパイルして実行するだけで高い性能を享受できる使いやすさ、豊富なラインアップにより、ニーズに従って、サーバーやエンジンの構成を選択することが可能になっている」と述べた。

 SX-Aurora TSUBASAでは、システム組み込み用途の「組み込みソリューション」、AIやビッグデータでの利用を想定した「エッジモデル」、大規模需要予測や製造シミュレーションなどに適した「オンサイトモデル」、データセンターや計算センターでの大規模AI、巨大な処理を前提とするビッグデータやシミュレーションなどに対応した「データセンターモデル」を用意している。今回発表したSX-Aurora TSUBASA C401-8は、最上位のデータセンターモデルとなり、最小構成台数の12台では、96枚のVEが搭載されることになる。

NEC システムプラットフォームビジネスユニット Aurora・量子コンピューティング販売推進グループ ディレクターの浅田洋祐氏

 また、これまでに提供してきたVEは、VE10EおよびVE20と呼ばれるもので、今回のSX-Aurora TSUBASA C401-8では、新たなVE30を採用している。VE20と比較して、プロセッサ性能が1.6倍、メモリバンド幅は1.6倍、メモリ容量は2倍になっている。

 NECでは、今後も継続的にVEを進化させる開発ロードマップを公表しており、2025年以降にはVE40、2026年以降にはVE50を投入することになるという。

 なお、NECでは、2023年度末までに、VEの累計出荷枚数で3万枚を目指すという。

ベクトル型スパコンは今後も開発。量子コンピューティングへの活用も

 SX-Aurora TSUBASAで採用しているベクトル型は、メモリバンド幅やメモリ容量を重視したアーキテクチャであり、一度に膨大な処理を実行できるため、大規模データの高速処理が求められる用途に適している。電磁場解析、計算科学、構造解析、流体解析などの領域を得意としている。また、Red HatのLinux OSを採用したことで、従来のソフトウェア資産をそのまま利用できるなど、使いやすさを高めるとともに、Linux OS環境上で、ベクトルエンジンが持つ高い性能を発揮できる点も特徴になっている。さまざまなOSSやISVアプリケーションが動作確認済みとなっている。

 「さまざまな計算が求められる中で、1つのアーキテクチャでは対応できないと考えている。メモリ性能が重視される流体解析や気象予測などで、ベクトル型は効果が発揮できる。それをカバーするための一翼として、NECは今後も継続して、ベクトル型の開発、販売を継続していく」と述べた。

 一方、NECでは、量子コンピューティングへの取り組みにおいて、NECのベクトルプロセッサと、独自のアニーリングアルゴリズムを組み合わせて、組み合わせ最適化問題などに求められる計算を高速処理するNEC Vector Annealingサービスをオンプレミスおよびクラウドサービスで提供しており、ここに、SX-Aurora TSUBASAを活用している。

 今後、量子コンピューティング以外にも、SX-Aurora TSUBASAを活用したクラウドサービスの提供について検討していく考えも示した。

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