AIが生成した無意味な文章を高名な科学者の言葉として提示し、その信ぴょう性を評価してもらう実験により、人々は科学者の発言であれば意味不明でも信頼する可能性が高いことが分かりました。研究チームは、信頼できそうな情報源からの情報に一定の評価が与えられてしまう現象を、「アインシュタイン効果」と名付けています。
The Einstein effect provides global evidence for scientific source credibility effects and the influence of religiosity | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-021-01273-8
The Einstein Effect: People Trust Nonsense More if They Think a Scientist Said It
https://www.sciencealert.com/the-einstein-effect-people-trust-nonsense-from-scientists-more-than-spiritual-gurus
科学者や医療従事者が口をそろえて新型コロナウイルスワクチンやマスク着用の必要性を訴える一方で、SNSや動画共有サイトでは科学を否定し陰謀論を唱える自称専門家が勢力を伸ばすなど、2020年に発生したパンデミックは科学への信頼を大きく揺るがす議論に発展しました。
そこで、アムステルダム大学の心理学者であるSuzanne Hoogeveen氏らの研究チームは、24カ国で募集した1万195人のボランティアを対象に、発言の信頼性の評価が発言者の属性にどの程度影響されるのかを確かめる実験を行いました。実験には、流行語と知的な言葉を組み合わせて意味深長な感じがするフレーズを生成する「New Age Bullshit Generator」を使用。アルゴリズムが自動生成したデタラメな文面を、「科学者の発言」もしくはスピリチュアルな分野の第一人者である「教祖の発言」として参加者に示して、どのくらい信頼できるかを回答してもらいました。
この実験に使われた科学者の格言の例が以下。エドワード・K・リールという科学者の言葉として「そう、私たちの前に立ちはだかるものを駆逐することは可能ですが、私たちの方に希望がないわけではありません。乱流は、変容を排した隙間に生まれるものです。進化することで、私たちは再び活力を得られるのです」と書かれています。しかし、この文は前述のアルゴリズムで生成された無意味な言葉の羅列であり、エドワード・K・リールという科学者も架空の人物。男性の写真は、許可を得てWikipediaから転載された無関係な画像です。
この実験の結果、科学者の発言はスピリチュアルな教祖の発言より信頼性が高いと評価されることが分かりました。具体的には、同じ意味不明な文章でも「科学者」の発言だとすると76%の参加者が「信頼性が高い」と評価したのに対し、「教祖」の発言だと55%にとどまったとのことです。
事前のアンケートで信心深いと判定された人は、そうではない人より「教祖」の評価が高い傾向がありましたが、そのような場合でも「教祖」より「科学者」の発言が高く評価される可能性が高いことに変わりがありませんでした。
なお、実験に使われた「教祖」の語録はこんな感じです。これも、前述の科学者と同様に、無意味な文章に無関係な画像と架空の人物名を添えて作成されたものです。
このように、理解不能な文章でも科学者の発言だと思うともっともらしく見えてくる現象を、研究チームはアルベルト・アインシュタインにちなんで「アインシュタイン効果」と呼んでいます。
研究チームはこのアインシュタイン効果について、「進化の観点からすると、教師や医師、科学者など信頼できる権威を尊重することは、効果的な文化学習や知識の伝達に役立つ適応戦略です。例えば、『E=mc2』や『抗生物質で肺炎が治る』という情報がアインシュタインや主治医からもたらされれば、人々はその意味を理解しなくてもそのまま受け入れます」と述べました。
また、この研究を取り上げた科学系ニュースサイトのScienceAlertは、「科学者が発信する情報が信頼に足ることは周知の事実であり、世界中の多くの広告や政治キャンペーンや、自社製品や公約の裏付けに科学者の発言を利用しています。幸いなことに、科学者や科学に携わる人々は、『大それた主張がなされた時は十分に批判的な姿勢を持つこと』を推奨しています」とコメントしました。
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