【悲劇】パリの『ミシュラン星つきレストラン』へ行ったら … “パリで一番みじめな日本人” になってしまった

ロケットニュース24

レストランやホテルを星の数で格付けする『ミシュランガイドブック』は現在、世界20カ国以上で出版されている。もちろん日本版もあるが、ミシュランといえば本場はフランスだ。「人生で一度はパリの3つ星レストランでディナーを」と夢見ている日本人も多いだろう。

先日パリを訪れた私は、いちおう書店でミシュランガイドブックを確認。すると……おっ!? 1万円前後でディナーを食べられる店もあるっちゃあるな!!? いくら貧乏旅行といえど、1万円なら出せないこともないぞ。よぉ〜し……やっちゃうか。人生初の3つ星ディナー!!!

・さっそくの誤算

ちなみにパリの書店で「ミシュランガイドブックはどこか」と英語で尋ねたところ、どう巻き舌で発音しようが決して通じなかった、という事実をご報告しておきたい。あらかじめスマホにガイドブックの画像を保存し、店員さんに見せるというやり方がオススメだ。

分厚〜い『ミシュランガイドブック・フランス版(2021年)』の価格は、24.9ユーロ(約3186円)。た、高い……! この出費は予想してなかった。しかも……


パリのページ、たったこれだけ! コスパ悪すぎる!!!


なお後日、別の本屋で安価かつ軽量な『ミシュランガイドブック・パリ版』を発見したことも併せてお伝えしておく。パリのみに滞在予定の方は、こちらを購入するのが得策かもしれない。もっとよく調べてから買えばよかった……。


・誤算その②

パリのページのトップに掲載されているのは、日本人シェフ・小林圭さんの店として知られる『Restaurant KEI』だ。 “パリ1区の3つ星” ……なんて素敵な響き。少し予算がオーバーするが、せっかくならここへ行ってみたいよな〜。ダメ元で会社に相談してみるか。


──あっ、もしもし? お疲れ様です。こちらパリです。

会社の人「亀沢さんですか。どうも、お疲れ様です」

──ミシュラン掲載店の取材をしたいのですが、経費が多少オーバーしても大丈夫でしょうか?

会社の人「なるほど……亀沢さんはいつも頑張っていますからね。やぶさかではありませんよ。もちろんドレスはお持ちなんですよね?

──え?

会社の人「ミシュランの星付きレストランなら、 “ドレスコード” があるかと思うのですが……」


……そうなのだ。考えてみれば分かりそうなことだが、いいレストランにはそれなりの格好でなければ入店できない。調べたところ基本的に男性はスーツに革靴。女性はドレスないしフォーマルな服装に、ヒールつきのパンプスなどが望ましい、とのこと。

リュック1つで旅する私に、当然ながらフォーマル服の持ち合わせはない。新たに持ち歩く余裕もないため、購入するのはあまりに不経済…………ヤバイ。これ、なんとかならんか?? 下宿先の家主・マリオさん(親切なフランス人)に相談してみよう。


マリオ「なんだって? 君は星つきレストランへ行くほど金持ちだったのかい?」

── “旅の記念” ってやつです。

マリオ「僕はパリの生まれだが、星つきレストランなんて行ったこともないよ。あのような格付けに何の価値があるものか……けど、まぁいい。ドレスコードの件だけど、最近じゃあまり気にする必要はなくなってきているよ」

──でも、さすがに私が今はいているジーンズではダメでしょう?

マリオ「フム。保証はできないけど、もし僕がレストランのオーナーならこう言うだろうね。『ノープロブレム、カモン!』ってサ」

──う〜〜〜ん…………

マリオ「心配なら『ビストロ』へ行きなさい。『ビストロ』ってのはカジュアルな店のことだ。よほどダーティーな格好でなければ、とやかく言われないはずだよ」


・誤算その③

ミシュランガイドブックをよく見ると、各店の紹介文に「LUXE(贅沢)」「ÉLÉGANT(優雅)」など、店の雰囲気や種類を表す言葉が記載されている。

マリオさんいわく、ここに「ビストロ」と書かれた店であれば、それほど服装を気にせず入店できるはず……ということのようだ。なるほど。

また、ここへきて私はようやく “掲載された店の全てに星がついているわけではない” という事実にも気づいた。ミシュランマンの顔のマークが記された店は「低価格でおいしい」という評価の『ビブグルマン』。

皿とフォークのマークは『ミシュランプレート』と呼ばれ、「星はつかないが、一定基準を満たしている」という意味らしい。ただでさえページ数が少ないパリの、さらに “星つき” の “ビストロ” となると……なかなか見当たらないのだ、これが。

何度もページをめくり、私はようやく1軒の “予算に合った” “星つきの” “ビストロ” を探し出した。それはパリ9区にある『ASPIC』なるフランス料理店。本によれば75ユーロ(約9600円)でディナーが食べられるのだそうだ。さっそく行くしかねぇ!


・哀愁と追憶のパリ

調べたところ『ASPIC』へはパリ中心部から車で30分ほど。観光地として名高いサクレ・クール寺院にほど近い。開店時間が19時30分と遅い(パリではこれが一般的)が、陽のあるうちに寺院を見たかった私は17時ごろ現地に到着した。

ワーッ! あれが有名なサクレ・クールかぁ〜! メリーゴーランドとのコントラストが「これぞパリ」って感じするなぁ!

近くには有名なチョコレート・ショップもある。

チョコでできた凱旋門美し〜!

念のため優雅なベレー帽を12ユーロで購入。これでドレスコードもバッチリや!


…………


…………


すぐにやることがなくなったため、先ほど購入したチョコレート棒をなめつつメリーゴーランドを眺める。楽しそうにはしゃぐパリ・キッズたちが無邪気でかわいい。

それにしても、なぜパリのメリーゴーランドはこれほど切ない音楽を奏でるのだろう? 幼い日の記憶、田舎の両親、今は亡き祖父母、果たされなかったアイツとの約束……人生における全ての哀愁が一気に押し寄せてくるようなメロディーと音色だ。

これが誰かと一緒なら「切ない曲だね」と笑い合うこともできただろうが……今の私は遠い異国でひとりぼっち。この旅で初めて「日本へ帰りたい」と感じた瞬間だった。みんなも夕暮れのパリでメリーゴーランドを眺める際は、くれぐれも心の状態に注意してくれ。

そんなこんなで日も暮れはじめ、時刻は19時手前。開店までは間があるが、なんか辛くなってきたし、もう店へ向かっちゃうことにしよう。私は今夜 “パリの星付きレストランでディナーした女” になるッ!!!


・そして最後の誤算

メリーゴーランド周辺からGoogleマップをたよりに進むと……


あった!!!



憧れの星つき(1つ星)レストラン『ASPIC』である!!!!


入り口には『ミシュラン2021』の印が誇らしげに輝いている。店内ではスタッフの皆さんが開店準備に勤しんで……あっ!? 目が合っちゃった! そして微笑んでいるぞ! 「ちょっと早いけど、いいですよ」ってことかな? すみませ〜ん日本人1人、いけますゥ!?


お店の人「Oh……すみません。2週間以上先まで予約で一杯です」


「そんなもん考えてみりゃ分かるだろ」と今では思うのだが……あの時の私は “あらかじめ予約をする” という発想に1ミリも至らなかった。「平日の開店直後なら平気っしょ」と、新宿のスシローへ行くくらいの甘い気持ちでいたのだ。ミシュラン星つき……侮ってはいけなかった。

私のパリ滞在は残り5日。高級ディナーの夢は儚くも次回へ持ち越しとなった。 “パリの星つきレストランでディナーした女” にはなれなかったけれど、 “パリの星つきレストランの前まで来た女” にはなれたよね……などと言っている場合ではない。

お店の方に聞いたところ、予約はインターネットからでも可能だったようだ。パリの星つきを狙うなら ”航空券の前にレストランを予約” が鉄則……うっかりドレスを購入していなかったことは、不幸中の幸いと言うほかあるまい。

ちなみに今回の顛末を下宿先の家主・マリオさんに伝えたところ、「俺がいい店を紹介してやる!」と再びパリの街へ送り出されたのだが……その話はまた次の機会に。あ〜ぁ、パリのミシュラン星つきディナー、食べてみたかったなァ……。

執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.

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