ウクライナの首都の呼称「キエフ」(Kiev)がロシア語の発言に由来しているとして、ウクライナ語の「キーウ」(Kyiv)に改めるべきだとする動きが日本国内でも活発化してきた。
2022年3月15日に開かれた自民党の外交部会などの会合でも、「キエフ」が「侵略している側」の表記だとして、「キーウ」にすべきだとの声が出た。ただ、松野博一官房長官は同日午後の記者会見で、「現時点で『キーウ』等の表記は必ずしも国民の間で定着しているとは言えない」として否定的だ。
ウクライナ外務省は「キーウはキエフではない」運動を展開
ウクライナ政府は、1995年に「キーウ」を標準的な表記として定めたが、国際的には「キエフ」が定着していたこともあって、この時点ではあまり広まらなかった。2014年、ロシアがクリミア半島を併合したことがきっかけで反ロシア感情が高まり、呼称変更に向けた動きが活発化した。ウクライナ外務省は18年に「KyivNotKiev」(キーウはキエフではない)と題した運動を展開。ニューヨーク・タイムズやBBC、CNNが「キエフ」の名称を「誤って」使用したとする事例をSNSで指摘し、注意喚起した。この運動の後、これらのメディアは「キーウ」を使用するようになった。米国政府で使用する外国の地名表記を決める米地名委員会(BGN)は、06年に「キーウ」の使用を認め「キエフ」との併用が続いてきたが、19年に「キーウ」のみを公式の表記にすることを決めている。
日本では、19年にウクライナ外務省から在日大使館を通じて問題提起があり、「ウクライナ研究会」が「ウクライナの地名のカタカナ表記に関する有識者会議」 を設置して検討。「首都名について、キーウ、キイフ、キエフの3例の併用を可とする」という結論を得ている。22年2月のロシアによるウクライナ侵攻を機に、SNSでは「キーウ」使用を宣言する動きが相次いだ。ただ、政府が「キエフ」を「キーウ」に改めるまでにはハードルがある。在外公館がある国や都市を示した「在外公館名称位置給与法」に「キエフ」と書き込まれており、法改正が必要だからだ。
松野氏は記者会見で、現行の運用について
「在外公館名称位置給与法における在外公館の所在地の名称表記は、一義的にはできる限り現地の発音に近いものとするが、相手国との関係、他の国名等とまぎらわしくないかどうか、国民にとって分かりやすく国民の間で慣用として相当程度定着した表記か、等の要素を考慮しケースバイケースで検討してきている」
と説明した。