「おしゃれ泥棒」はオードリー・ヘップバーンの映画の邦題だが、それ以降も「おしゃれ泥棒」という言葉が店名やドラマに使われている。
おしゃれなのに、泥棒。美と悪。
魅力的な組み合わせである。
しかし、実物を見たことがない。
おしゃれ要素と泥棒要素は両立するのだろうか。プロにコーディネートしてもらおう。
おしゃれ泥棒の定義
「おしゃれ」と「泥棒」を両立させる難しいコーディネートを引き受けてくれたのはスタイリスト水嶋依子さん。広告や舞台のスタイリングで活躍している。
デイリーポータルZの記事でスタイリストが登場するのはサイト20年の歴史で初である。それが泥棒コーディネートだ。
難しいのは本物のおしゃれ泥棒を誰も見たことがないことだ。なにが正解なのか分からないし、かと言って防犯カメラに映った姿のようなリアルなものは笑えない。
そこで泥棒要素を以下と定義した。
・唐草模様の風呂敷(マスト)
・動きやすい服装
・ほっかむり、マスクなどの顔を隠すアイテム(任意で)
これらアクの強いアイテムをおしゃれになじませることができるのだろうか。
泥棒小道具はAmazonで買い揃えた。たぶんAmazonは僕のことを泥棒だと思っているだろう。縄梯子がリコメンドされる日も近い。
着替える前にもうわからなくなっている。それを迎え撃つのはモデル4名である。
いずれもデイリーポータルZのライター、関係者である。素人だ。立ち振舞でおしゃれにすることは無理。それどころか「泥棒にさせられる…」という不安がにじみ出ている。
文章が認められてライターになったのに泥棒になる仕事である。労基署に言ってもいいぐらいの理不尽さだ。
おしゃれ泥棒1ターン目
おしゃれ泥棒は4人で2パターンずつ挑戦することにしている。合計8人のおしゃれ泥棒が登場するので覚悟して欲しい。まずは一人目。
1人目・原宿系おしゃれ泥棒
このコーディネートのポイントは、2022~23年の秋冬に来ると言われているメタリックな素材、ベースは泥棒らしく黒、背が高さを活かしてロング丈にした、とのこと。
何を言っているのかと思うだろう。でもこれを見て欲しい。
泥棒要素を抜くと、ただのおしゃれになってしまうし、ちょっとおしゃれの度が過ぎていて近寄りがたい。そこで泥棒要素をライドオン!
早くも「おしゃれ泥棒」が分かってきた。メタリックという泥棒としてはハンデとなる服装もSASUKEに登場する消防士なみの身のこなしで苦にしないだろう。そんな泥棒としての能力も想像させるおしゃれ泥棒である。
泥棒としては怪盗である。笑い方は「フハハハ」。メタリックが今年の秋冬に来る、ということだけ覚えておいてください。
2人目・フワフワおしゃれ泥棒
上半身にボリュームをもたせたコーディネートだが、唐草模様の風呂敷がシルエットの一部分になっている。泥棒要素を入れて完成するコーディネートだ。泥棒としての完成度が高い。
この工夫!泥棒協会から支給された風呂敷(想像)を使うときに、おしゃれ泥棒だったらたぶんこういう工夫をするだろう。高校出たら服飾系の学校に行く先輩みたいな工夫である。
こういう写真と短いテキストのフォトブックを作りたい。おしゃれ泥棒フォトブックだ。
さっきのメタリックおしゃれ泥棒とも馴染む。
美術品や金品などではなく、自分なりの価値観で盗んでいく泥棒タイプ。家の耳かきやリモコンなくなるのはこのおしゃれ泥棒のせいかもしれない。ウフフ。
3人め・泥棒出発のおしゃれ
これまでと違ったタイプのおしゃれ泥棒がやってきた。おしゃれ…なのだろうか。
コーディネートのポイントは中森明菜のデザイアを意識した女性ものの着物。ジェンダーレスだ。そしてゴールドのアクセサリーとリボンのように結いたほっかむり。
ディテールを聞くとおしゃれ泥棒である。そう、これは泥棒がおしゃれになったパターンだ。前のふたりはおしゃれな人が泥棒を始めたが、こちらは逆。
それに3人目のキャラとしてしっくり来る。シュッとした1人目、かわいい2人目、そして力持ちの3人目だ。「親分に裏切られて主題歌の前に捕まるタイプみたいだね」と言って悪かった。
泥棒タイプしては義賊。盗まれた個人情報を消し、ランサムウェアに取られたビットコインを返してくれる。
4人目・おしゃれ泥棒親分
そして次のモデルは僕である。
4人目はやっぱりボスキャラである。オースティン・パワーズではない。コーディネートのポイントは唐草のカラーに合わせてのスーツ。タクシーの運転手さんではない。江戸川乱歩の時代からいる紳士の泥棒だ。予告をするタイプの泥棒である。
「トルーは入り口を見張れ、ナミノリはそのすきに侵入、ヤスははなまるうどんでうどん弁当を買ってきてくれ!」と指示をする役割だ。
悪の組織として高笑いをしたいと思っていたので夢がかなった。悪の組織のように失敗しても失敗しても根拠のない自信で高笑いするチームを作りたい。
5人目 怪人系おしゃれ泥棒
ここからコーディネートも2巡目。ふたたびトルー。
すごく早く走りそう、美容院の客、空飛びそう。など特殊能力がありそうという感想が飛び交った。
黒マントの下は「時計じかけのオレンジ」をリスペクトした白一色のコーディネートである。この映画オマージュという行為自体がおしゃれですよね!!
見上げた視線の先には侵入経路になりそうな通気孔がある。
唐草模様がおしゃれを打ち消すのではなく、おしゃれ方向に働いている。泥棒はおしゃれと相反するのではなく、おしゃれを加速させるのだ。
薬指と小指だけが覆われている手袋が泥棒としてのプロっぽい。
(聞いたところ「絵を描くときにタブレットが反応しないための手袋」と超実用的なものでした)
6人目・おしゃれ泥棒猫
ファッションショーのステージをキャットウォークと呼ぶ理由が分かった。
ファーのレッグウォーマーはこれから来ると言われているアイテム。渋谷のファッションのアイコンであるルーズソックスも意識している。渋谷のおしゃれ泥棒だ。
片手がふさがっていることでおしゃれ泥棒の自信のほどが伺える。片手ででも大きなダイヤモンド(「なんとかの涙」みたいな名前がついているやつ)を取っていくだろう。持っていくのは決して土地の権利書ではない。
7人目・正統派おしゃれ泥棒
「LEONみたいだ」と言ってたがちょいワルどころかただの悪である(泥棒だから)。ただワルおやじのおしゃれのポイントは唐草模様にあわせたインナーの絞り染めシャツ。
またも泥棒出発おしゃれ行のコーディネートだが、「(3代前より)知能が出た」と西垣さんも満足そうである。なにかの「実写版」だ。なにの実写版かは分からないが、オリジナルなきコピーだ。
コンテスト(たぶんヤマハのポプコン)に落ちて呆然としているところ。
8人目・フレンチおしゃれ泥棒
はしゃいだ写真でまことに恐縮だが、フレンチカジュアルのおしゃれ泥棒である。最後にみんなが思うおしゃれ泥棒が現れたと思う。宇宙人で言えばグレイタイプぐらいの王道だ。
世を忍ぶ仮の姿は絵描きで、夜な夜な泥棒稼業をしているタイプのおしゃれ泥棒である。盗むのはやっぱり絵だろう。NFTではない。
おしゃれ泥棒は街に馴染む
1巡目はコンセプト先行のおしゃれ泥棒だったが、2巡目は普段使い出来そうなおしゃれ泥棒になった。外に出てもまったくおかしくない。
おかしくないが、いちいち泥棒としての物語性が出てしまう。
渋谷川のほとりには桜が咲いていて、おしゃれ泥棒の背後ではハトが飛び立った。
おしゃれ泥棒の登場を祝っているかのようだ。
結論・おしゃれと泥棒は両立する
8パターンのおしゃれ泥棒を見ていただいた。どれも泥棒要素とおしゃれを両立させている。もう「おしゃれ泥棒」は想像上の生き物ではない。おしゃれ泥棒がどういうものか分かった。
おれたちがおしゃれ泥棒だ。