バイデン大統領は様々な不評を買っていますが、ウクライナ問題が発生してから各世論調査とも支持率が数ポイント上昇、不支持率も下落しています。2001年の911の際、ブッシュ大統領の支持率が90%になったことがあります。アメリカでは大統領の支持率が低迷すると戦争絡みで仕掛ければ回復できるとされています。なぜでしょうか?
メディアには世論が一致したとか、国家の危機だからといった言葉が並びますが、もっと論理的に見ると私は大統領制だからなのだろうと考えています。
大統領と首相の違いは何でしょうか?案外、答えられない人が多いかもしれません。
首相は議院内閣制の体制で選ばれます。首相になっても議員の身分を維持します。よって首相は三権分立の中で議会が司る立法と内閣が行う行政を兼任する形になります。三権分立と言いながらも実は議院内閣制の場合、これがややあいまいになるのはこれが理由です。また首相は国民による直接選挙ではなく、政党を通して選ばれます。よって党利党略がより色濃く出るとも言えます。
大統領は方式はともかく、国民が直接選びます。そしてその人は議員ではありません。例えばアメリカ大統領が議会に行くことはめったにありません。一般教書演説とか施政方針演説といった時などに限定され、一方的にしゃべりに行きます。国会議員と質疑応答があるわけでもありません。そこで与野党の議員がスタンディングオベーションをしたり、ブーイングをしたりして無言の意思表示をするわけです。
大統領制の場合、三権分立が明白になります。大統領が行政権をしっかり持ちますが、例えば首相のような議会解散権はありません。議会が持つ立法に対しての拒否権はありますが、明白にそれぞれの権利が分かれているため、時として国家運営が紛糾するのはそれが背景です。
ではなぜ、戦争になると大統領の支持率が高まるのか、といえば対外的行為には立法を要する議会マターより行政的判断、外交的判断が主流になるため、強気の発言をし、世論を味方につければ大統領の支持率は高くなりやすいのです。
さて、私がこの話題を振った理由は今回のウクライナ問題を取り巻く国々の大統領と首相の関係を見たのです。ロシアもウクライナも大統領制です。つまり外交に関してはかなり過激な方向にブレることが可能なのです。これが日本でできないのは議員内閣制故の問題も当然あるわけです。
以前、このブログで現代はかつての資本主義対共産主義から民主主義対権威主義に代わっていると申し上げました。権威主義の代表はロシア、中国、北朝鮮、更にはトルコあたりでしょうか?ブラジルもその傾向が強いのですが、今年秋の大統領選でルナ元大統領が現時点で優勢なので交代する可能性はあります。アメリカは権威主義ではないのですが、大統領制が持つ行政への権力が銃ならば首相が持つのは刀ぐらいの違いがあるとも言えます。つまりあくまでも傾向ですが、大統領制と権威主義は結びつきやすいのかもしれません。首相と権威主義とは想像しにくいですね。
最近、もう一つ厄介な国の選挙がありました。韓国です。直接選挙で僅差の勝利を収めた野党の尹錫悦次期大統領は「大統領にはなったものの…」という今から頭が痛い状況が目に浮かびます。議会は300議席中、敵となる民主党が172議席を押さえています。国家が二分しているだけに尹氏は何をやっても議会を通過しない状況に陥る可能性があります。国民の不満も鬱積するでしょう。そうなると外交に走る、これが結局大統領としてのポイントゲッターアイテムなのです。
韓国は幸いにして外交だけは難問山積ながらも一つでも解決できれば評価が取れるとも言えます。日本、中国、北朝鮮、アメリカが直接的な相手です。ただ、残念なことにどちらかを立てればどちらかが立たず、という関係です。予想できるのは薄氷の中の外交政策で、最難関が北朝鮮だとみています。現時点で既に全く相手にされていない状況です。
国家運営に於いて大統領が良いのか、三権分立的にやや曖昧模糊となる首相制度が良いのか、重要な判断です。韓国は1945年のあとアメリカの軍政下でその国家運営について議論がありましたが、李承晩が自分の権力を追求し、大統領制にしてしまったとされます。
首相制度をとる日本、英国、カナダ、ドイツなどは極論に振れにくくなっています。世論の声を選挙戦という一時的な大金を投じる選挙戦略的一大イベントとしてとらえるのか、政党政治でクッションを置きながら物事を決めていくのが良いのか、今回のウクライナ問題で改めてこの制度について深いものを感じるのです。
そういう意味では日本は政策的に大きく舵を切るのは難しいけれどずいぶん民主的だと思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月15日の記事より転載させていただきました。