綾瀬だ!綾瀬あたりにゲリラ発生!
このところ、関東地方は大気の状態が不安定な日々が続き、毎日のように局地的な雷雨が発生している。ゲリラ豪雨だ。現場ではいったいどれほどの雨が降っているんだろう。
予測の困難なゲリラ豪雨だが、最近はネットを使ってリアルタイムで降雨情報を知ることができる。特に、東京都下水道局が運営している「東京アメッシュ」(下水道局のトップページ左側のバナーをクリック)は5分間隔で更新される詳細な降雨データを見ることができて、非常に便利だ。
これなら、ゲリラ豪雨を追うことができるかも知れない。アメッシュを見ながら、豪雨地点に行ってみることにした。
※2007年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
ゲリラ発生!ゲリラ豪雨発生しました!
その日、僕は新宿にいた。薄日は射していたが、暗いグレーの雲の塊があちこちに浮かんでいて、いかにも不安定そうな空模様。
そこでアメッシュを見てみると、東京の北東部、足立区と葛飾区の境界あたりが局地的に真っ赤だった。
あの場所はいま、どんな雨が降っているんだろう。
グーグルマップと照らし合わせて最寄り駅を調べてみると、どうやら東京メトロ千代田線の綾瀬駅から北に向かった、北綾瀬駅が近そうだ。
とりあえず北綾瀬に行ってみよう!
北綾瀬駅の東側あたりが特に強そうだ
新宿から北綾瀬までの路線検索をすると、JR山手線で西日暮里まで行き、東京メトロ千代田線に乗り換え、綾瀬から北綾瀬行きに乗るとおよそ50分で着くらしい。
急いで山手線ホームへ行くと、ちょうど電車が出てしまったところ。仕方ないのでもう一度アメッシュを確認してみると、さっきまで真っ赤だった降雨データの表示が、急速に雨が弱まっていることを示していた。
北綾瀬に行こうと思ってから15分も経っていない。しかし、東京の北東端で猛威を振るったゲリラ豪雨は、僕が電車に乗ろうとした一瞬のうちに消え去った。
あまりの早業に呆然と画面を見ていると、今度は別の場所に雨雲が発生していることに気がついた。
しかも近い!
ちょうど光が丘公園の真上あたりが濃い水色
敵は手強い
このとき、僕ははじめて、僕が今日相手にしようとしている敵の恐ろしさを知った。
なぜなら、綾瀬方面に気を取られてまったく気づいていなかったが、この雨、数分前には影も形もなかったのだ。山手線に乗るために新宿駅構内を歩いていた、たった3分の間にその姿を現したのだ。
これが本物のゲリラなら、知らぬ間に味方陣地深くに侵入され「なぜ誰も気づかなかった!」と上官が激怒するシーンだ。
練馬なら新宿から都営大江戸線で1本である。いまちょうど濃い水色に表示されている光が丘が終点だ。
すぐに地下道を走り、階段を駆け下りて大江戸線のホームに向かった。ほどなく電車がやってきたが、いざ乗り込もうとしたそのとき、僕は思わず声を上げそうになった。
急いで向かおうとしていた練馬付近の雨は弱まり、その代わり同時に池袋付近に発生していた雨雲が急速に発達していた。
やっぱり山手線だ!
来た道を戻り、息を切らしてふたたび山手線のホームに立った。新宿駅付近はまだ日が射していたが、北の方の空を見ると確かに黒い雲に覆われている。
これまでの動きで、2~3分もすれば情勢はガラッと変化してしまうことを知っている。池袋付近の雨雲もすぐに消えてしまう可能性もあるが、新宿からは山手線に乗れば10分かからない。とりあえず来た電車に乗って池袋に向かった。
そしてアメッシュに目をやると、雨雲はほとんど動かず、そしてさらに発達していた。
実際、池袋ひとつ手前の目白駅を出るまで、雨は1滴も降っていなかった。ところが、目白駅と池袋駅の間にある西武池袋線の橋をくぐった瞬間からポツポツ雨が振り出し、池袋駅のホーム付近はかなり激しく雨が降っていた。
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池袋駅はかなりの雨
いちおう動画を撮ってみたけど、カメラの性能も悪く、おそらく雨の量は伝わっていないと思う。大粒の雨がサーッと降っていたが、そんなに豪雨、というほどでもない。そして、すぐに小降りになってきた。
アメッシュを見てみると、雨雲の中心が移動をはじめていた。やや北東に向かっているように見えるけど、西側にも雨の雲は伸びているようだ。これが急速に発達しないとも限らない。
池袋駅からは西に行きたければ西武線、北西に向かうなら有楽町線か東武線、北なら埼京線、そして東向きなら山手線と、各方面に電車が伸びている。どれだ、どれに乗れば本体を追いかけられるのだ。有楽町線か、東武線か。
しばらくの間ホームで雨雲の動きを注視していると、北に向かった雲が急速に発達しはじめた。
埼京線だ!
赤羽の…ちょい北西あたり!北赤羽駅に行ってみよう
すぐに埼京線に乗って赤羽を目指す。電車が進むに連れてどんどん空が暗くなってきたが、大雨には至らない。赤羽駅もほとんど降っていなかったので、そのまま乗り続けて次の北赤羽に行くことにした。
ところが乗っていた埼京線がどうやら快速だったらしく、北赤羽駅と次の浮間舟渡駅を通過。浮間舟渡駅はちょうど強い雨に見舞われているところだったが、指をくわえて見ていることしかできなかった。
電車はここで荒川を越えて埼玉県へ突入。赤羽を出た快速の最初の停車駅、戸田公園駅に到着。
どうやら雨雲を追い抜いてしまったらしく、ここはまだ雨が降っていなかった。よし、それならここで待ち伏せしてやる!雨雲は大きな塊となって北上しているから、いずれこの上を通るに違いない。
駅前にある屋根つきのベンチに座って、きたる雨雲を待ち構えること5分、10分。たまにパラッと雨粒が降ってくることはあっても、本格的な雨は結局降らなかった。5分おきにアメッシュを見ていたら、とつぜん降雨データが消えた…。
ようやく捕まえられると思ったゲリラ豪雨の雲も、待ち伏せしている間に文字通り雲散、豪雨を体験することはできなかった。いつの間にか空には青空が広がり、アメッシュも近隣での豪雨が表示されなくなった。
どうしよう。
そのとき、向こうから1羽のハトが駆け寄ってきた。
確かに。ここにいても仕方ないので、一旦新宿に戻って新たな雨雲の出現を待つことにした。埼京線に乗って新宿に戻り、少し休んでからアメッシュを見てみたら、たまげた。
最後の戦い
見事にはぐらかされた戸田から新宿に戻り、しばらく休んでからアメッシュを見てみたら、東京の西側から埼玉県南部にかけて、ものすごく広範囲に渡って猛烈に発達した雨雲がかかっていた。
時間的にもこれを逃したら今日はもうないかも知れない。どこへ行けばいいのか。
とりあえず西に向かわなくては。中央線?西武新宿線?と迷った挙げ句、やや北寄りを走る西武新宿線に乗って、こちらに向かってくるであろう雨雲を迎え撃つことにした。
西武新宿駅から急行に乗り、アメッシュを注意深く見守りながら、赤い雨雲と電車が交錯する直前の駅で降りることにした。
やがて電車が発車、西に向かうにつれて赤い雲の塊との差がどんどん詰まってくる。しかし、雨雲側も発達したり衰退したりを繰り返しているので、なかなか場所が掴みづらい。
しかし、ちょうど大きな赤い雲の進行方向上にあると思われる、上石神井の駅で待ち伏せすることにした。この読みを外すと挽回は難しい。
既に空からはかなり強い雨が落ちてきているが、まだ豪雨というほどではなかった。降雨レーダーの色にしてみれば濃い水色の範囲だろう。
アメッシュで見てみると、練馬区のはずれにある上石神井の駅に向かって、西の方向から雲が流れてきているように見える。その中に強い雨を示す真っ赤な雲もあって、これが駅の真上を通過しないかなと思っている。
いま現在でもかなりの強さの雨のため、傘を持っていても駅で雨宿りする人が大勢いた。
やがて、アメッシュで水色より強力な雨を示す緑色の雲がかかってくると、ザーッという音がドーッという音に変わり、歩道や車道に数センチの水幕ができるようになった。傘をさしていても足元からずぶ濡れになるような量。
そしてとうとう、赤い雲が駅の上に覆いかぶさってきた。これはアメッシュを確認しなくとも、目の前の雨の降り方を見ているだけでハッキリ認識できた。音がまったく違うのだ。
それまでのドーッという音がさらに大きくなり、空全体から鳴っているように聞こえる。あまりの雨の量に視界が悪くなり、道路はあっという間に川と化した。
これはすごい。そして恐ろしい。
一定時間ごとに動画を撮っていたので、ぜひ雨が強くなっていく様子を見ていただきたい。
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だんだん強くなっていく雨
とうとう僕はゲリラ豪雨の尻尾を捕まえることに成功した。それは、ちょっと体験できないくらいの激しい雨。打たれることが少し怖いくらいの雨。
そして、そうして得たものは、服と靴がずぶ濡れになる、という悲しい現実だけ。でも、降雨データを見ながら追いかけて、逃げられて、追いつめていく体験はなかなかエキサイティングだった。
奴ら本当にゲリラだ
はじめ、アメッシュのデータを見ながら移動すれば簡単にゲリラ豪雨地点に行けると思っていた。
でも、気象素人の僕にとって奴らの発生場所を予測することはほとんど不可能で、しかも成長スピードが異常に早い。そして短時間に猛烈な雨を降らせたと思ったら、着いた頃には水たまりを残して文字通り雲散。
本物のゲリラと戦った経験はもちろんないが、ゲリラ豪雨はゲリラと呼ぶにふさわしいゲリラっぷりだった。はっきり言ってピンポイントの予測は不可能だと思う。
突発的な豪雨によって各地で被害が出ることもあるので、東京アメッシュをはじめ、さまざまなデータを駆使して、大雨の被害を受けないようにひとりひとりが心がける必要があると思った。