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岸田内閣が発足して5か月ほどが経った。昨年10月に誕生した岸田内閣は「新しい資本主義」を掲げ、経済成長を実現して、その果実を国民に分配し、さらなる成長へつなげていくと表明している。今後の経済にとってカギの一つとされるのが、脱炭素社会への移行だ。この問題について、どう考えればよいのか。田原総一朗さんに聞いた。
日本経済にとっての大問題「2050年カーボンニュートラル」
「新しい資本主義」を看板にすえた岸田首相は「成長と分配」の両方を目指すと言うが、日本はこの30年間、経済成長していない。
欧米各国の平均賃金は軒並み上昇しているが、日本の平均賃金は30年間、ほとんど上がっていない。隣国との比較でも、30年前、日本の平均賃金は韓国の2倍近くあったが、今は韓国に抜かれている。
このような状況で、本当に経済成長ができるのか。
経済成長との関係で大きな課題となっているのが、地球温暖化対策の問題だ。
2015年、世界各国の代表がフランスのパリに集まって、地球温暖化対策を議論した。そのとき、地球の気温上昇を抑えないと、異常気象や生態系破壊など悪影響が進んでしまうとして、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて1.5度に抑える努力をすることが確認された。
いわゆる「パリ協定」だ。
世界各国が署名して、地球温暖化につながる温室効果ガスの排出量を減らすために動き出した。2019年にはトランプ政権下のアメリカがパリ協定から離脱し、混乱が起きたが、2年後にバイデン政権が誕生するとパリ協定に復帰し、脱炭素社会への動きが加速することになった。
脱炭素化が進んでいるヨーロッパに比べると、日本はやや遅れ気味だったが、2020年10月、菅首相が国会で「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言した。
カーボンニュートラルというのは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を減らすとともに、森林吸収や排出量取引なども絡めて、温室効果ガスの排出を実質的にゼロにすることだ。
日本も国際社会の一員である以上、首相が表明したカーボンニュートラルは最重要課題となるが、実現するためには難題がある。
日本の場合、電気を作るためのエネルギーは石炭、石油、天然ガスといった化石燃料による火力発電が7割以上を占めている。これらは二酸化炭素を排出するため、地球温暖化につながる。「2050年カーボンニュートラル」のためには、火力発電をいかに減らすかが大きな課題だ。
カーボンニュートラルのために「原発」は不可欠なのか?
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政府は2030年に火力発電を4割に引き下げる一方で、再生可能エネルギーを現在の2倍の4割近くまで引き上げる計画を立てている。
ただ、再生可能エネルギーを増やすのはなかなか難しい。特に、国土が狭く、山間部が多い日本の場合、太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電施設を広げるのが他国よりも困難という課題がある。
そこで、カーボンニュートラルを実現するためには、原発の活用が必要なのではないか、という意見が出てきている。
一方で、日本は2011年の東日本大震災の際に、東電の福島第一原発の大事故を経験し、東日本を中心に原発反対運動が巻き起こった。元首相の小泉純一郎氏も「原発はゼロにすべきだ」と主張している。
両方の主張が対立する中で、原発をどうすべきか。非常に難しい問題だ。
海外に目を向ければ、アメリカもヨーロッパも一時は原発ゼロに傾いていた。ところが、最近、地球温暖化対策の観点から、原発を再評価する動きが強まっている。アメリカやフランスでは、モジュール型の小型原子炉を導入しようという議論が進んでいる。
日本も、従来型の大型原子炉ではなく、小型原子炉であればいけるのではないか。そんな意見が台頭してきているのだ。
カーボンニュートラルの実現のために、原発をどれくらい受け入れるのか。原発の新設はあるのか。岸田内閣として、どのように臨んでいくのか、態度を明らかにすることが求められている。
首相官邸のホームページを見ると、成長戦略の3番目の項目として「カーボンニュートラル」が掲げられている。菅首相の後を継いだ岸田首相にとっても、カーボンニュートラルは大きな課題ということだ。
BLOGOS編集部
実は、自民党の国会議員の多くは、エネルギー問題にあまり触れたくないと考えている。特に原発問題に言及することはリスクが大きいとみられている。「原発が必要だ」と言っても、「原発はゼロにすべきだ」と言っても、選挙では有利に働かないからだ。
多くの自民党議員と同じように、岸田首相の原発への姿勢も不明瞭だ。しかし、カーボンニュートラルを本気で実現しようとするならば、エネルギー問題の本質から逃げるわけにはいかない。
岸田首相の姿勢が問われている。