米大統領がウクライナ重視する訳 – WEDGE Infinity

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「明日にも侵攻の可能性濃厚」――。過去1カ月余り、バイデン政権は、ロシアの対ウクライナ軍事挑発を重大視し、繰り返し声を大に事前警告してきた。警告だけでなく、「決然たる報復の意向」まで表明している。過去にはなかったきわめて異例の対応だ。その背景に何があるのか――。

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トランプ派は懸念するも方針は揺るがない

トランプ前大統領と個人的親交のある保守系テレビ「Fox News」の著名アンカーマン、タッカー・カールソン氏は最近、「米国の国益に直結したものではない」として、ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った場合でも、過剰反応すべきではないとの見解を吐露した。

また、トランプ氏自身、在任中、プーチン露大統領と親交があっただけに、全米の多くのトランプ支持層の間では、西側の報復による米露関係悪化を懸念する声も少なくない。

しかし、現民主党政権の毅然たる態度は一歩も揺るがず、日欧同盟諸国を巻き込んだ大規模な「懲罰的対露制裁措置」を準備中だ。

米政府が、切迫する国際危機について、最高度のインテリジェンス事前公表も含め、これほど徹底した世界世論喚起のキャンペーンに乗り出したのは、近年ではきわめて珍しい。 

その背景には、次のような抜き差しならぬ事情と周到な打算がある:
①旧ソ連の1979年アフガン占領、ロシアの2014年クリミア併合の苦い教訓
②台湾とのリンケージ
③大統領が就任後掲げた「専制主義との戦い」という大看板
④中間選挙への影響
――の4つだ。

以下、順を追って説明する。

インテリジェンスの欠陥を露呈

①1979年12月24日、ソ連は突如、8万人規模の部隊をアフガニスタンの首都カブールに投入、民主派の首相を追放するとともに、強制的に親ソ政権を樹立した。国内各地ではたちまち抗議の渦が広がったほか、ソ連を非難する国際世論の盛り上がりを受け、翌80年夏のモスクワ五輪に対する世界的なボイコットにもつながった。しかし、ソ連はその後も、総勢60万人にも及ぶ大部隊を続々と送り込み、89年初めまで10年近くにわたり同国を占領した。

当時のカーター民主党政権は、ソ連軍のカブール進攻の動きを事前に何ら察知できず、米国インテリジェンスの欠陥ぶりが国民の厳しい批判にさらされた。当時、筆者はホワイトハウス担当特派員だったが、大統領が連日のように記者会見で苦しい答弁に終始していたことを記憶している。

続いて2014年2月27日、「民兵」を装ったロシアの参謀本部情報総局(GRU)、スペツナズ(特殊任務部隊)所属の秘密部隊、空挺部隊などからなる1万人近くの兵員がウクライナ・クリミア自治区主要都市セバストポリを占拠、民主派首長を排除すると同時に、親露派リーダーを後継者として入れ替えた。この結果、クリミア自治区全体がロシア領に編入された。

しかし、この時もオバマ民主党政権は、政権転覆の暴挙を予知できず、米議会聴聞会で中央情報局(CIA)長官、統合参謀本部議長らが野党共和党議員たちに厳しく糾弾された。主要メディアからも「米側スパイ衛星の常時監視の目を欺き秘密作戦を陣頭指揮した国家保安委員会(KGB)出身のプーチン大統領とのインテリジェンス・ウォーで敗北した」としてオバマ大統領も批判の矢面に立たされた。

そして、今回、バイデン民主党政権がウクライナをめぐり、もし、露軍侵攻のサインを事前にキャッチできなかった場合、再三にわたる国民の信頼失墜は必至だった。

幸いにも、米側は、過去2回の国際危機での苦い経験から、その後とくに、CIA、国防情報局(DIA)、国家安全保障局(NSA)などを総動員した対露インテリジェンス能力強化に乗り出したことが知られている。

今回の「ウクライナ危機」は昨年12月3日、「ロシアが対ウクライナ作戦に17万5000人もの大規模戦力投入準備」とするワシントン・ポスト紙の警告記事が火をつけたものだが、この記事は、ロシア軍内部に踏み込んだ高度の米側インテリジェンスを下にしたものであり、米側情報当局による意図的リークであることは明らかだ。

バイデン政権はそれ以来、矢継ぎ早にロシア軍関連機密情報を積極的に公開し、国内、国際世論喚起にとくに力を注いでいる。

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