Microsoftの「Surface Duo 2」は、2画面を備えたAndroidスマートフォンだ。折りたたむと文庫本サイズ、広げるとiPad miniと同等サイズになり、さまざまなシーンで利用できる。
本製品は左右2つの画面を連結した、紙の本にも近い構造が特徴で、半開きで保持することも可能であるため、電子書籍を文庫本のようなスタイルで読むには適している。とはいえ画面の連結部には非表示エリアも生じることから、アプリがどれだけ最適化されているかによって、使い勝手が大きく変わってくることは、容易に想像できる。
今回はメーカーから借用した機材を用いて、国内での発売から約1カ月が経過した現時点での電子書籍アプリの対応状況や、電子書籍を楽しむ上での本製品ならではの使い方のコツをチェックしていく。
サイズと重量は「折りたたみが可能なiPad mini」
まずはざっと仕様をおさらいしておこう。
本製品は、いわゆるフォルダブルスマホのように1枚の画面を中央で折り曲げるのではなく、左右2画面がヒンジで連結された構造ゆえ、中央に継ぎ目ができるのが特徴だ。両方の画面をひとつのスクリーンとみなしての全画面表示も可能だが、どちらかというと左右の画面で別々のアプリを表示する使い方を想定した製品と言える。
画面サイズは、広げた状態では8.3型(2,688×1,892ドット)ということで、iPad miniと同等。折りたたんだ状態では5.8型(1,344×1,892ドット)と、スマホ並のサイズとなる。
ただしアスペクト比は13:9と、現行のスマホと違って横幅が広く、そのぶん全長が短い。そのため片手で持つにしても、ポケットに入れるにしても、感覚的には別物だ。どちらかというと文庫本に近いサイズだ。
重量は284gということで、iPad mini(293g)とほぼ等しい。本製品を実際に見たことがなく、近所で実機展示がないようであれば、近くの量販店などでiPad miniを手に取って「なるほどこれが2つに折りたたまれるのだな」と考えれば、広げた状態のサイズおよび重量についてはおおむね正しく把握できるはずだ。
プロセッサはSnapdragon 888、メモリは8GBと、ハイエンドスマホに相当するスペックだ。ストレージは128GB、256GB、512GBの3種類がラインナップされている。解像度は401ppiということで、電子書籍での利用に不足はない。OSはAndroid 11だ。
指紋認証センサーは電源ボタンと一体化したタイプで、広げた状態での右側面に配置されている。その直上には音量ボタンも備えている。
折りたたんだ状態では本体外側にサブウインドウは存在しないが、ヒンジの部分にインジケーターが搭載されており、そこを見れば着信などのステータスはわかるようになっている。といってもその内容は、電話とメッセージ、時計、バッテリ残量など基本的な項目に限られており、任意のアプリの通知を表示する機能はない。
操作方法は直感的。非表示部分が気になる
セットアップは、Androidの基本的なフローに、Microsoftアカウントへのサインイン、さらには画面が左右に分割された本製品ならではの手順が加わった複雑な内容だ。とはいえ指示された手順に従っていけば、そう迷うことはない。
アプリは、Microsoftのオフィス関連やEdgeなどのアプリに加えて、GmailやGoogleカレンダーといったGoogle製アプリを中心に構成されている。電子書籍周りのアプリは特にプリインストールされておらず、自分で選んで導入することになる。
ホーム画面は左右2画面の見開き状態になっており、横方向にスワイプすると1画面ずつスライドする。後述する電子書籍が見開き単位でめくられるのと違い、1画面単位でスライドするのが面白い。画面の下から上へスワイプするとアプリのドロワーが、上から下にスワイプすると通知領域が表示される挙動は、Android標準の操作方法そのままだ。
アプリを全画面表示に切り替えるには、画面を下から上にドラッグしてアプリ一覧を表示し、そのまま中央寄りにドラッグする。拡大範囲が示されるので、そのまま指を離せば全画面に拡大される。なおアプリ単位で自動スパンを設定して、起動時から全画面表示にすることも可能だ。
このように操作そのものは簡単ですぐに慣れるのだが、気になるのは左右画面の連結部だ。本製品の画面の連結部には実測3.5mmほどの幅(黒帯)があるのだが、表示上はこの領域にもデータが表示されているものとして扱われる。つまり左右画面をまたいで全画面表示をすると、必ずこの3.5mmほどの幅が、見えなくなってしまうのだ。
試しにExcelを起動し、セル幅を等間隔にしたワークシートを表示すると、黒帯の3.5mm幅だけ右にずれるのではなく、その3.5mm幅に重なったところは非表示になっていることがわかる。この仕様は電子書籍ユースでは多くの問題を引き起こすので、このあと詳しく見ていく。
コミック表示はアプリ問わずおおむね問題なし
では電子書籍ユースでの特徴を、コミック、テキストと分けて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」「大東京トイボックス 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を用いている。各社のアプリは、いずれも2月24日時点での最新版を用いている。
本製品のような特殊な設計のデバイスに対しては、電子書籍アプリもそれに合わせたチューニングが必要になるが、本稿執筆時点では、本製品の国内発売開始からすでに約1カ月が経過している。すでに各社とも、対応を行なうか否かの方針を決め、必要であればアップデートは実施済みとみてよいだろう。
まず押さえておきたいのが、本製品は画面を広げた状態では「横長」になることだ。多くのフォルダブルスマホでは、画面を広げてもアスペクト比は「縦長」だったため、コミックを見開き表示にする場合、本体を90度回転させて横向きにする必要があった。というのもAndroidは、画面が横長の状態でないと、見開きにならないからだ。
そのため多くのフォルダブルスマホで見開き表示をしようとすると、左右の画面に1ページずつ表示されるのではなく、各ページの上半分が片方の画面に、下半分がもう一方の画面へと、半回転した状態になってしまっていた。紙の本では起こり得ない曲げ方で、それゆえ違和感は大きかった。
しかし本製品は、閉じた状態では「縦長」、開いた状態では「横長」であるため、開いた状態でコミックを表示すると、きちんと左右の画面に1ページずつが表示される。それゆえ本物の本のように、ページを半開きの状態で手に持っても、違和感なく読書が行なえる。
これはアプリ側ではなくAndroid側で制御されているので、アプリから見ると、一般的なタブレットで縦横を切り替えた時の挙動と変わらない。それゆえ、原則としてどのアプリも問題なく見開き表示が行なえる。
今回試した限りでは、国内の主要電子書籍ストアアプリ7社(Kindle、楽天Kobo、DMMブックス、ebookjapan、BookLive!、BOOK WALKER、紀伊國屋書店Kinoppy)では、いずれも問題なく、単ページと見開きの切り替えが行なえた。また電子コミックサイトについても、ヤンマガWEB、ジャンププラス、となりのヤングジャンプなどをブラウザベースで試したが、問題なく見開き表示が行なえた。
ただしビューアが縦スクロールメインで見開き表示に非対応である場合は、1ページを横幅いっぱいに表示しての縦スクロールというおかしな状態になる。またブラウザで表示する場合、ビューアに全画面表示の機能がないと画面上のアドレスバーなどが表示されたままになることがある。とはいえ、これはあくまでも例外で、もとのビューアがきちんと見開き表示に対応していれば、原則として問題はない。
ネックとなるのは見開きの継ぎ目部分の処理だ。本製品は中央の継ぎ目もデータが表示されているものと扱われるので、作画の段階で見開きになっているページは継ぎ目の部分が見えなくなる。紙の本ではノドの部分が見えづらいのが一般的とはいえ、そこが黒帯で塗りつぶされているとなると違和感は大きい。
同様に、1ページ目(表紙)が見開きの中央に表示されるビューアも、やはりページの中央をこの黒帯がブチ抜く形になる。電子コミックアプリによくみられる単話版は、表紙がなく1ページ目からいきなりコンテンツということも多く、こうした状態になりがちだ。これについては画面が1枚のスクリーンになっている製品にはかなわない。
テキスト表示は継ぎ目以外にも問題あり?
トータルではほぼ問題がないコミックに対して、かなり癖があるのがテキストだ。というのも、もともとがページ単位で区切られているコミックと異なり、可変レイアウトのテキストは、行間隔の設定などによって、本製品の継ぎ目の部分に行が重なり、行ごと見えなくなってしまうケースがあるからだ。
Kindleストアが最たる例で、継ぎ目の部分で行がまるごと見えないケースがたびたび発生する。画面をスワイプして横方向にずらしてやればきちんと読み取れるが、毎回それをするのは苦痛だろう。ユーザーにできることといえば、表示設定で行間をなるべく広くして、文字が継ぎ目にかかりにくくすることくらいだ。
もっともこうしたアプリはすでに少数派となっており、今回試した中では、KindleとBookLive!を除いたすべてのアプリは、中央の継ぎ目にあたる部分にあらかじめ余白が設けられており、継ぎ目にテキストが重ならない仕組みになっている。筆者が記憶する限り、本製品のリリースとは無関係に以前からこうした仕様だった場合がほとんどだが、事実上ほぼ「対処済み」といっていい。
いずれにしてもテキスト表示は、上下左右の余白なども含めてアプリごとの見た目がまったく異なるので、以下の写真で確認してほしい。今回は比較のために、Androidタブレットの中で本製品と表示サイズが近い、ドコモの8型タブレット「d-42A」と並べている。同じAndroidアプリでもデバイスが違えば見え方がどう変わるか把握しやすいはずだ(ほとんどのアプリは本製品でなくても中央に余白ができるのもお分かりいただけるだろう)。
ただしこうしたコンテンツの表示では問題がなくとも、フォントサイズや余白、ページ送り効果などを設定するアイコンがこの区切り部分に重なって表示されないアプリがある。BookLive!や紀伊國屋書店Kinoppyがそれで、これらアイコンを開くには、いったん単ページ表示に戻さなくてはならない。筆者は最初これに気づかず、見開きのまま設定画面のありかを探して回ったほどだ。
またこれ以外に、見開きから単ページ表示に戻すと、フォントサイズが極端に小さくなってしまうアプリもある。楽天KoboとDMMブックスがこのパターンで、見開き表示に切り替える前後で一時的に単ページ表示にするだけならば問題ないが、見開きと単ページを切り替えながら読もうとすると、毎回フォントサイズを調整しなくてはならず面倒だ。
このように、どのアプリも5段階評価で言うと2~4点相当で、文句なし5点というアプリが今回評価したアプリの中では見当たらなかった。ここまで唯一、問題ありとして名前が挙がっていないebookjapanにしても、フォントサイズが5段階でしか変更できず、そのうち本製品で実用的に使えるのは実質2段階とあって、積極的におすすめするには躊躇する。
いずれにせよこうした点においては、完全な1枚の画面として表示できるフォルダブルタイプのスマホや、そもそもが1枚モノのタブレットであるiPad miniやドコモd-42Aのほうが優秀だ。OS自体が折りたたみを考慮しているAndroid 12Lが登場すれば、このあたりの評価はガラリと変わる可能性はあるが、現段階ではリファレンスも存在せず、実装がバラバラであるように見える。
取り扱いに気を使うのが最大のデメリット?
以上のように、細かいところを見ていけば粗はあるのだが、満点ではないというだけで、本製品がトータルで電子書籍ユースに向いた製品であることに変わりはない。リアルな文庫本のように片手で挟むようにして持てるのは、本を半開きにしたまま固定できる、本製品ならではの使い方だ。
またヒンジに強度があり、しっかりと伸ばしたままにできるのは、本製品の隠れた利点といえる。これが持ち上げただけでグニャッと折れ曲がってしまうようであれば、片手で持った状態での快適な読書は絶望的だが、ピンと伸びた状態を維持できる本製品であれば、宙に浮かせた状態でも問題なく読書が行なえる。普通に使っていると当たり前すぎて見落としがちだが、こうした点こそ評価されるべきだ。
そんな本製品について、最大のデメリットと言えるのは、取り扱いにどうしても気を使ってしまうことだろう。これは他のフォルダブルスマホもそうなのだが、一般的なスマホやタブレットに比べて高価であり、かつ可動部があること、また外観よりもずっしりと重いことが、無意識におそるおそる使うという行動に反映されがちだ。
これらは保護ケースをつければある程度は解消されるが、本製品の場合、保護ケースを装着すると背中合わせに折り曲げにくくなる難しくなる問題もあり、なかなか一筋縄では行かない。将来的に価格が引き下げられてもこの問題はつきまとうはずで、折りたたみ機構を備えたこの種のデバイスにつきものの、実に難しい問題と言えそうだ。
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