中銀カプセルタワービル。建築家・黒川紀章が設計したメタボリズム思想の建築であり、国内に留まらず海外でも人気が高い。だが竣工50周年を迎える今年、惜しくも解体されてしまう。私は昨年7ヶ月間、縁があってここに住んでいた。
さまざまなカプセルと人々に出会ったが、中でも印象的だったのが伝説の元ピンクカプセル。140個あるカプセルのうち2、3室のみ風俗産業に使われていたという、以前取材した記者・奥山さんのカプセルだ。退去前に是非復元をと熱望していたが、遂にその願いが果たされる時が来た!
復元大作戦が決行されたのは1月末。退去にともない、荷物をほぼ運び出した後のカプセルは実にシンプル。白い壁に木目調の床。私は残念ながら作業に立ち会えなかったが、親しくしていたカプセルコミュニティメンバー協力のもと、その一部始終をお伝えしたい。
ちなみにピンクカプセルと言えども、すべてがピンク一色だったわけではないらしい。壁紙がピンクと大理石風の模様で覆われていたと、あるブログに記録があったので写真を拝借した(「中銀カプセルタワー応援団」より)。想像よりもおとなしい。
そして驚くべきは便座までピンクだったこと。何故ここもピンク色にしたのか。しかもけっこうなショッキングピンク。それこそショッキングである(写真は「中銀カプセルタワー応援団」より)。
今回の復元大作戦の隊長である いまりちゃんが、ピンクカプセル時代の名残から、事前に色をカラーチャートで特定。J99-50X。暗号みたいでかっこいい。
大理石風の壁は見送り、丸窓・ユニットバスのドア・トイレのフタ・便座をピンクに復元する。ペンキ・ハケ・ローラー・養生シートなどを用意し準備は万端。いざ! 伝説復活へ!
・ピンクカプセル養生編
まずは床全体をビニールで覆い、端を養生テープで壁に貼る。メンバーのちびっこも参加してくれた!
塗る場所の境界線にマスキングテープを貼る。こういう細かい作業こそ根気がいるところ。
ユニットバスのドア部分にも抜かりなく。みんな頑張れ!
一方でユニットバス内で塗りたくない場所をビニールで覆う。それにしてもステンレスのトイレというのもレトロチックで魅力的だ。
養生完成! 丸窓に青いマステが映える仕上がりになり、これはこれで良い。
・ピンクカプセル塗り塗り編
いざペンキ缶開封! ……のはずが開かない。フタが開かない。なんで? 試行錯誤した末、底を缶切りで開けることで事なきを得る。
お待ちかねの塗り塗りタイム。ローラーやハケを手に各自塗る。思ったより発色が良く、二度塗り不要だった。
丸窓は目につくところだから、と隙間まで丁寧に塗り込む隊長いまりちゃん。
中銀一カオスなカプセルを持つコスプレDJの声さんもオリジナル特攻服を着てローラーでコロコロ。ペンキがついちゃわないよう気をつけてね。
ドアには思い出にメッセージを書いた。「もじしょー」とは奥山さんの愛称である。記者である奥山さんへの畏敬の念を込めて「文字」と名前を組み合わせたもの。
ペンキの水分が少なく、たっぷりつけないと伸びが良くないので、時間が経つごとに苦戦しつつも、着実に塗り上げていく。
トイレももちろん塗り塗り。
せっかくなのでコンセント周りもピンクへと変身。マリオのブロックみたいでかわいい。
1時間ほどかけて無事に塗り終わり、エアコンをガンガンにきかせて乾くのを待つ。
・ピンクカプセル仕上げ編
1時間ほどで戻ってくると、乾いてはいたがペンキが揮発し「目に染みる」「痛い」「カプセルに入れない!」という声が殺到。急遽、別のカプセルよりサーキュレーターを借りてきて換気する。
落ち着いたところで、気になる箇所を塗り込み仕上げ。職人いまりちゃんの丁寧な仕事が冴え渡る。
・ピンクカプセル養生剥がし編
ペンキがすべて乾いたのを確認して、養生とマスキングテープを剥がす。「ベロベロ剥がすのが気持ちいい!」との感想あり。そしていよいよ完成の時……!
・ピンクカプセル復活完成編
じゃじゃん! これがピンクカプセルだ。
か、かわいい……!
風俗産業のピンクカプセルということで、勝手にエロいイメージをしていたが、思いの外ポップである。おそらくピンク一色じゃないのがポイント。ピンク枠の丸窓かわいい。
ユニットバスのドアは、どこでもドアのような仕上がりに。これもかわいい!
トイレのフタもユニットバスの白さとあいまって、ポップなアクセントになっている。
フタ裏はステンレスのせいか、もしくはデコボコ部分のせいか、発色の仕方が想像とは違いちょっと微妙な仕上がりに。でもこれはこれで味がある。
途中、仕事で抜けていた家主・奥山さんも戻り、ピンクカプセルの仕上がりにかなりご満悦。「この部屋でもう少し過ごしたかった……」とポツリ。
・ピンクカプセルイメージ編
せっかくなので風俗産業に使われていた当時を少しでも感じられたらと、それっぽい写真を撮ってみた。
どんなプレイ、いや、どんなひとときが繰り広げられていたのだろうか。
狭いとはいえ、ユニットバスがあり水回りの設備は完璧。しかも昔はきちんとお湯がでていたので、シャワーも問題なく浴びることもできた。
ピンクカプセルイメージムービー(撮影:わたちちゃん/制作協力:声さん)。成人向けビデオの冒頭にあるイメージシーンを意識したのだが、おわかりいただけるだろうか。
・ピンクカプセル感想編
今回の復元大作戦を決行してくれたカプセルコミュニティメンバーへ感想を聞いてみた。
「丸窓の枠をローラーで塗り塗りした時の気持ちよさ、一生忘れません……!」
「ピンクカプセルめっちゃいい、もっと早くやりたかった」
「子供部屋みたいでかわいい~!」
「壁を塗る楽しさを初めて知り、これが分譲のメリットか…と家が欲しくなりました」
「日活ロマンポルノの仕上がりをイメージしていたら、想定外にポップでファンシーな仕上がりで驚いた!」
みなさま本当にお疲れ様! ご協力どうも有難うございました!!
肝心の家主である奥山さんにも感想を求めたところ、原稿用紙2枚分の真面目な文章が戻ってきた。とりあえず一言引用すると「思っていたよりも落ち着いたパステル調の色合いで、なんだかおしゃれだった」とのこと。喜んでもらえてなによりだ。
中銀カプセルタワービル50年の歴史の中で、伝説として語り継がれるピンクカプセル。その実態は闇の中だが、少しでもその片鱗に触れたことができたのならと思うと、感無量である。もうすぐ建物自体がなくなってしまうが、少しでも中銀カプセルタワービルの記録をお届けできたらと、今後も記事にしていく予定である。
参考リンク:中銀カプセルタワー応援団
執筆:千絵ノムラ
Photo:RocketNews24.
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