世界のロシア専門家の分析:プーチンの真の狙いは何か

アゴラ 言論プラットフォーム

ウクライナ問題では22日、「NATO東方不拡大の密約」の存在を肯定する論を書いた筆者だが、24日の全面侵攻を目の当たりにし、プーチンは「『目的』を拡げ過ぎた」、「何と言い繕おうと、急拵えとも思える大義名分はお粗末だし、全面侵攻はやり過ぎだ」、「出口が見通せない」と批判した。

この「出口」に関して、米政治メディア「ポリティコ」が25日、「プーチンの真の狙いは何か?」と題し、「衝撃的な侵攻の後」にプーチンが「どこまで突き進むつもりなのか」を19人の「世界のロシア専門家」に語らせている。とても興味深いので、以下に各人の主張の要約を紹介する。

Tomas Ragina/iStock

  • E・ファーカス(元米国防総省ロシア・ウクライナ・ユーラシア担当副次官補)

最終目的は、旧ソ連圏全体を支配するための失地奪回主義者の帝国主義的な地球改造。

  • T・グラハム(ブッシュ政権で国家安全保障会議ロシア担当上級部長)

彼は真意を意図的に欺いてきたので、目標は部外者には判らない。最低でも軍事インフラを破壊し、傀儡政権に置き換えたいのだろう。

  • A・コレスニコフ(カーネギー・モスクワ・センター上級研究員、ロシア国内政治・政治制度プログラム委員長)

判断は困難。西側指導者の傾聴で十分とも、ドンバス両地域を領地とすることとも考えられるが、きっとキエフ当局を彼の「帝国」の管理下に置き、世界を彼のルールに従って行動させたいのだろう。

  • R・メノン(ニューヨーク市立大名誉教授、コロンビア大ソルツマン戦争・平和研究所上級研究員)

キエフの政府を崩壊させ、ロシアに従順な政府を樹立することを彼は決意した。目的のためには経済的、戦略的、政治的な代償を支払う用意があるようだ。

  • O・オリカー(国際危機管理グループの欧州・中央アジア担当ディレクター)

誰もが彼に降伏し、彼が正しいと証明され、友好的なウクライナと臆病で再教育された欧州を享受するという選択肢を彼は持っている。だがウクライナの抵抗、制裁が長期に与える苦痛、隣人へのいわれのない残忍な攻撃に対する世界の恐怖を過小評価している。

  • F・フクヤマ(スタンフォード大フリーマン・スポグリ国際問題研究所シニアフェロー)

狙いは民主主義体制を崩壊させ、モスクワに同調する傀儡政権に置き換えること。短期に全土占領の可能性は低いが、軍事力を破壊し経済的に破綻するまで圧迫する可能性が高い。農産物輸出に必須なオデッサなど港が重要。注目すべきはウクライナ軍がプーチン軍にどう打撃を与えるかで、制裁には賛成だが余り影響を与えまい。

  • L・シェブツォバ(フィンランドロシア研究センターとリトアニアのサハロフ民主開発センターの理事で「Putin’s Russia」の著者)

目標は、ウクライナを従属させて国家としての地位を引きずり降ろし、ウクライナを締め上げて、欧米に最後通牒を受け入れさせること。つまり、ロシアの地政学的裏庭に干渉しないという欧米の約束を取り付けたいのだ。

  • K・ストーナー(スタンフォード大の民主主義・開発・法の支配センター所長)

目標はウクライナのロシア吸収。多くのロシア人富豪が豪邸を持つ米英と欧州連合からの厳しい制裁を切り抜けられると彼は予想している。ウクライナの民主主義に対する戦争で、NATO加盟というロシアの不安とは関係ない。彼の最終目的は、独裁的なロシアと台頭する中国が、西側の自由主義覇権に挑戦する多極化した世界を作り出すことであり、その目的は力が正義で、国家主権、個人の権利と自由、人権は誤り、という新しい世界秩序を確立することだ。

  • R・シクリ(インド外務省の元外交官でソ連・東欧部部長やモスクワの元政治顧問)

彼はキエフに敵対しない親露政権を作り、ウクライナをフィンランド、スウェーデン、オーストリアのような中立国にしたい。

  • T・J・スター(キエフ在住。Black Diplomats Podcast創設者兼ホスト)

目標は地政学ともNATOとも関係がなく、ウクライナ人をロシア圏に服従させること。ロシア至上主義に基づき、彼はウクライナ人がロシア国家の臣民であるべきと考えている。

  • A・ステント(元国務省政策企画室国家情報会議ロシア・ユーラシア担当国家情報官。近著に『プーチンの世界』)。

目標は3つ、モスクワ従属の政府をキエフに樹立し、ポストソビエト空間で勢力圏を持つ権利を持つロシアへの関与を、NATOとEUがやめるべきと西側諸国が認めるようにし、そして現在のユーロ・アトランティック安全保障体制を見直して、旧ワルシャワ条約機構諸国における勢力圏を再構築すること。

  • J・ゴールトゲイエ(スタンフォード大国際安全保障・協力センター客員研究員、ブルッキングス研究所米欧センター客員研究員、アメリカン大国際サービス学部教授)

侵略目的は、現政権を倒して傀儡政権による支配にすること。米国は東欧により多くの軍を投入し、NATO・ロシア建国法(97年)に基づいた、99年以降の参加国に軍を駐留させないという約束を破棄しなければならなくなるだろう。

  • T・フライ(コロンビア大学ポストソビエト外交政策教授)

彼はキエフの政府を崩壊させ、非武装・中立の友好的な政権を設立し、モスクワに友好的な新しい安全保障体制についてNATOと交渉したいと考えている。だが、欧米諸国の反発の強さ、敵対的な住民を抱える傀儡国家の管理の難しさ、ロシア国内での支持の低さなどを考えると、リスクの高い賭けで失敗する可能性が高い。

  • K・リーク(欧州外交問題評議会のロシア、東欧、バルト地域シニア政策フェロー)

彼は政権交代を実現し、東部の自称共和国への領土追加やロシア編入でウクライナを切り刻む可能性がある。問題は、永続的抵抗が予想される上、この戦争がエリート層に与えたショックにロシア社会が耐えられるかどうか。今後のロシアの地政学的な位置づけをどう考えているのかも不明で、従来以上に中国依存になるのは必至であり、国内の安定と世界のパワーシステムにおけるロシアの将来の地位の両方を危険に晒す。

  • A・S・ポン(ラテンアメリカのシンクタンク「CRIES」ディレクター)

明確な最終目標は判らないが、キエフの政治・軍事能力を駄目にすることが第一目標だろう。このことは同国の政治インフラ崩壊を促進し、安全保障上の脅威が少ない、外部介入や操作を受け易い弱体化した国家に導く。

  • M・マキュー(「us」の主執筆者)

野望はウクライナに留まらない。彼は西側との戦争に勝つために侵攻した。政府を排除し、傀儡政権を作り、ウクライナの歴史とアイデンティティをバラバラにすることを望んでいる。失敗すれば彼の終わりの始まりとなる。

  • S・チャラップ(ランド・コーポレーション上級政治学者。元軍備管理・国際安全保障担当国務次官上級顧問)

政権交代を狙い、48時間以内にキエフを攻撃すると予想する。例えるなら03年の「バグダッドへのレース」。新政権発足後の彼の脚本が、イラクにおける米国のものより熟考されているようには見えないが、ウクライナにいるロシア人の利点から、成功する可能性はある。

  • N・ソコフ(ウィーン軍縮・不拡散センター上級研究員)

この戦争は合理的な意味をなさない。彼は戦争に勝つかもしれないが、イラクの米国と同じく長期的な巻き添えリスクがある。西側諸国との関係回復も不可能になり、双方にとって不利益になる。中国に対する封じ込めも、弱いか存在しなくなる。新政府を樹立して去るつもりなのだろうが、ウクライナが東西分裂する可能性もある。

  • S・タルボット(ブルッキングス研究所外交政策プログラムフェローで元国務副長官。旧ソ連の新独立国担当の特命大使)

最終目的はプーチンが皇帝となったロシア帝国を再現すること。20年以上も鉄の支配を続ける彼は自分が天才だと思っていて、西側指導者、特に米大統領を軽蔑している。だが攻撃前からロシア国民は流血懸念の高まりに無関心ではいられなくなった。それがプーチンを倒す可能性がある。

戦争にチャンスを与えよ』で知られる戦略家のE・ルトワックも、この問題で産経のインタビューに答えているので、併せて要旨を紹介する。

傀儡政権を早期に樹立できたとしても、その後はプーチンに厳しい展開になる。50万人規模が必要な全土の完全制圧は現実問題として不可能にみえる。また、ウクライナ人の抵抗でロシア将兵の死者が増えれば、侵攻を疑問視する意見がロシア国内でも広がるのは必至だ。

世界の同情も集まるだろう。その意味でウクライナ人がどれだけ抵抗できるかがカギだ。国際社会による対露制裁がSWIFT制裁にまで及べば露経済への影響は深刻化し、ロシア国民の反プーチン感情は高まる。侵攻は、プーチン軍国的権威主義体制の「終焉の始まり」を告げる可能性を孕んでいる。

このまま傀儡政権まで進むかも知れぬ。が、ウクライナ国民の血の抵抗とロシア国民を含む国際社会の非難や制裁がプーチンを誅しよう。国連安保理開催中の常任理事国による暴挙は、国連の無力さや9条の非現実を日本国民の身に沁みさせた。9条改正や核を含む防衛論議を今国会で進めてもらいたい。

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