ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、アメリカがロシアに対して広範な経済制裁を実施しました。しかし、従来の金融システムの規制を受けない仮想通貨の存在やランサムウェア攻撃による外貨の獲得などにより、ロシア経済への打撃は限定的になると専門家が警鐘を鳴らしています。
Russia Could Use Cryptocurrency to Mitigate U.S. Sanctions – The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/02/23/business/russia-sanctions-cryptocurrency.html
How Russia, Billionaires Could Use Crypto to Go Around ‘Severe’ US Sanctions – Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-02-24/russia-billionaires-could-use-crypto-to-go-around-severe-us-sanctions
ホワイトハウスは2022年2月24日に、ウクライナ侵略を行っているロシアに対し同国最大手の銀行であるロシア貯蓄銀行をはじめとした主要銀行5行に対する完全な封鎖措置や、ロシア上層部の資産凍結を含む、広範な経済封鎖を発表しました。アメリカ政府はこの対応の効果について、「今回の追加制裁が行われる前から、ロシアの株式市場は4年半ぶりの安値を記録し、ロシアルーブルも過去最安値を更新するなど、同国の経済は強い圧力にさらされていました。今回の新しく厳しい措置によりこうした圧力がさらに蓄積され、ロシアの経済成長を抑制し、インフレの深刻化、資本流出の激化、産業基盤の沈下をもたらすでしょう」と評価しています。
経済制裁は、西側諸国が非同盟国に対して行使する外交カードとしては最も強力なツールの1つです。特に、世界の基軸通貨であるアメリカドルが供給されなくなると国家の運営は大きな制限を受けることになるため、2014年のクリミア半島侵攻に対する西側諸国の経済封鎖は、ロシアに年間500億ドル(約5兆7000億円)規模の打撃を与えたと見積もられています。
しかし、2014年当時はほとんど使われていなかった仮想通貨が主流のものとなりつつあることで、経済制裁の影響が小さくなっていると専門家は指摘しています。投資会社・Quantum Economicsの創設者兼最高経営責任者であるMati Greenspan氏はBloombergの取材に対し、「現代では、銀行が使えなくなってもビットコインが使えます。ロシアの富裕層は、経済制裁で銀行口座が凍結されそうになったら財産をビットコインにすればいいわけです」とコメントしています。
ロシアは、以前から西側諸国による経済制裁に対抗すべく、中央銀行デジタル通貨の導入を急いできました。ロシア中央銀行の総裁は2020年10月に、「デジタルルーブルの導入により国のアメリカ経済への依存度を下げ、制裁に耐えられるようになる」と語ったことがあり、2022年2月15日には実際にデジタルルーブルの試験運用が開始されています。
また、ロシアはランサムウェアを駆使することで仮想通貨を獲得することもできます。ブロックチェーン追跡会社・Chainalysisの調べによると、2021年にランサムウェアで集められた資金の約74%、金額にして4億ドル(約462億円)の仮想通貨が、何らかの形でロシアへの関与が疑われる組織に送られているとのこと。
ブロックチェーン技術は取引の追跡が可能なためマネーロンダリングは必ずしも簡単ではないとの指摘もありますが、投資会社・VanEckでデジタル資産を担当しているMatthew Sigel氏は「独裁者であれ人権活動家であれ、ビットコインネットワークでは検閲に遭遇することはありません」と述べて、仮想通貨は制裁を逃れる手段として有効との見方を示しました。ロシアではすでに、数百万人ものロシア人が合計2兆ルーブル(約2兆7150億円)相当の仮想通貨を保有していることが政府の統計により判明しています。
こうした点から、ワシントンD.C.の法律事務所・Ferrari & Associatesでマネーロンダリングおよび制裁対策を担当しているマイケル・パーカー氏は、ニューヨーク・タイムズの取材に対し「ロシアが今回の経済制裁のようなシナリオを想定していなかっただろうというのはナイーブな考えでしょう」と話しました。
不安定な国際情勢を受けて、仮想通貨市場も荒れ模様を見せています。ロシアがウクライナ侵攻を本格化させた24日にビットコイン相場は10%近く下落し、一時3500ドルを割り込みました。
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