【笠原一輝のユビキタス情報局】「6列目をタッチキーにして得たのは性能とデザイン美」。Dell XPS 13 Plus開発者インタビュー

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Dell XPS 13 Plusを紹介するDell Technologies コンシューマーデザイン担当 副社長 ジャスティン・ライルズ氏

 DellがCESで発表した「XPS 13 Plus」の記事を書きながら筆者が最初に思ったことは、「この6列目のタッチキーは賛否がわかれるだろうな」ということだ。6列目のファンクションキーを、タッチキーにするのはLenovoが「ThinkPad X1 Carbon Gen 2」(2014年)、そして2016年以降複数の「MacBook Pro」でAppleがトライし、前者は登場からわずか1年で廃止され、後者は昨年(2021年)登場した新モデル(14インチと16インチ)ではついに採用が見送られるなど、既に何度かトライされ、そして今のところ成功したメーカーはないからだ。

 しかし、そうしたタッチキーを採用したからこそ、新しいXPS 13 Plusはタッチパッドから物理キーボード(5列)、そしてタッチのファンクションキーまでスッキリとしてデザインになっており、ノートPCとしてはよりモダンなデザインになっている。

 そうしたXPS 13 Plusがなぜそうしたデザインを採用しているのかなどに関して、Dellで製品デザインを担当しているDell Technologies コンシューマーデザイン担当 副社長 ジャスティン・ライルズ氏、Dell Technologies XPS/Alienware/Gシリーズ 産業デザイン シニア・マネージャ ニコラス・ディロレット氏にお話を伺ってきた。

見えないタッチパッドと見えないファンクションキーですっきりデザインを極めたXPS 13 Plus

 現行のXPS 13(モデル9310)は、2020年のCESで発表されたXPS 13(モデル9300)のシャシーを継続して、CPUを第11世代Core(Tiger Lake UP3)に強化した製品となるので、実に2年ぶりのフルモデルチェンジとなる。

 今回のXPS 13 Plusではシャシーが完全に一新されており、13.4型でアスペクト比16:10のディスプレイを搭載しているのは従来モデルと同様だが、C面(キーボード面)のデザインが大きく強化されており、タッチパッドを含むパームレスト、キーボード、そしてキーボードの6列目になるタッチキーまで一体感のあるシンプルなデザインを採用している。

Dell XPS 13 Plus、カラーはグラファイト(黒系)とプラチナ(白系)の2色展開(写真提供:Dell)

 近年のXPS 13は、薄型ノートPCのデザインリーダーと言って良い存在になっていた。その代表例は、狭額縁をいち早く採用したことだ。また、四辺狭額縁を採用したのも早く、狭額縁に入れることができるWebカメラを開発して、カメラをディスプレイの上に置いたままはみ出したり、ノッチ構造にしたりしないで四辺狭額縁を実現したのもXPS 13だった。そのDellの新しいチャレンジが、ノートPCの中でもっともメカメカしいデザインになっているC面をスッキリしたデザインにするという新しい取り組みになるということだ。

 もう1つの強化点はCPUだ。従来シャシーでは2020年初頭にリリースされたモデル9300が第10世代Core(Ice Lake-U)を採用し、2020年10月に発売されたモデル9310では第11世代Core(Tiger Lake-UP3)へと強化されて今に至っている。今回のモデルでは、先日Intelが発表したばかりの第12世代Core Pシリーズ(TDP 28W)に強化されており、大きく性能が向上している。

 特に従来のXPS 13のシャシーはTDP 15Wをベースに設計されており、第11世代Coreに強化されたモデル9310でも、熱設計は据え置かれていたため、性能的には最初からTDP28Wを意識して設計されていた同じ第11世代Coreを搭載した製品と比較するとやや不利な状況にあった。今回は熱設計が一新され、ベースTDP 28Wに対応できるような熱設計に強化されている。

LenovoとAppleが挑戦し、いずれも成功を収めたとは言えない6列目のタッチ化

 冒頭でも述べたとおり、CESでXPS 13 Plusが発表したとき、正直なところ筆者は「これは評価がとても分かれる製品になりそうだ」と感じた。というのも、このXPS 13 Plusのキーボードの6列目、つまりファンクションキーのところがキーではなくタッチキーになっていたからだ。

XPS 13 Plusは6列目(ファンクションキー列)がタッチになっている

 6列目のキーをタッチにする試みは既にいくつかのメーカーが試している。最初にトライしたのは、2014年に発表した新しいThinkPad X1 Carbon(後にThinkPad X1 Carbon Gen 2と呼ばれるようになる)で、6列目がタッチディスプレイになっており、そこにデジタル的にキーを表示することでファンクションキーの代わりだけでなく、マルチファンクションに使えるようになっていた。

 結論から言えば、これはユーザーに受け入れられず、1年限りで終わり翌年のThinkPad X1 Carbon Gen 3では普通の物理キーに戻っていた。

 次にチャレンジしたのは、Appleで、2016年に発表したMacBook Pro(2016)で、Lenovoと同じく6列目をタッチパネルにして、キーをソフトウエア的にプログラマブルにした。

 そしてこの試みも最終的には成功に至らなかった。Touch Barは2020年に発売された13インチMacBook Pro(M1)までは採用されていたが、2021年に発売された14インチ/16インチMacBook Proではこれが廃止されていた。もちろん、13インチのモデルで再び継続される可能性はなきにしもあらずだが、最新の筐体である14インチ、16インチのMacBook Proで廃止されたということは、それが長期的な方向性なのだと筆者は考えている。

 では、なぜユーザーはそうした「新しいタッチの6列目」を受け入れないのだろうか? それはシンプルに言うならば、「慣れこそ最大のUX(ユーザー体験)」だというのがメーカーにとって超えられない山になっているのだ。

 「慣れこそ最大のUX」とは何を言っているのかと言えば、人間というのは慣れることもできる生き物だが、一度慣れてしまった物はなかなか手放さないという習性を持っているということだ。つまり、「既に物理キーボードに慣れているのに、なぜ新しいタッチキーボードに慣れないといけないの?」と疑問を持つのが人間だということだ。

 特に日本ではIMEという文字入力の仕組みを使っており、その多くはファンクションキーを利用して文字変換を行なっている。例えば、ATOKならF6はひらがなに、F7はカタカナに、F8は半角/全角変換に、F9はアルファベットにとファンクションキーを利用して変換している。

 これをアルファベット変換ならCtrl+P、半角/全角変換ならCtrl+O、カタカナにするならCtrl+I、ひらがなにはCtrl+Uといった形で代替できるのだが、多くの人はファンクションキーで体が覚えてしまっているので、なかなか移行できないというのが正直なところだろう。

 筆者自身は、WindowsだけでなくAndroidやiOSといったデバイスでも入力できるように、ファンクションキーはできるだけ使わないようにしているが、それでも慣れるまでにはそれこそ数日単位で時間がかかったのは正直なところだ。つまり、そうした「新しい“慣れ”に慣れる」ということをユーザーに強いるためには、それだけのメリットがあるとユーザーに思ってもらわないといけないと筆者は考えている。

 このように、Lenovoがチャレンジし諦めて、Appleもチャレンジして諦めつつあるという現状の中で、これは誰にも成功できないだろうなと思っていたところに、DellがXPS 13 Plusで再びこれにチャレンジするというのだから、それはなぜかということがとても気になったので、今回Dellに直接聞いてみることにしたのだ。

ハプティックの見えないタッチパッド、格子なしのキーボード、タッチの6列目が一体化したデザイン美

LEDが消灯した状態のファンクションキー、パームレスト、キーボード、ファンクションキーの一体感があるデザインになっている

 お話を伺ったのはDellでコンシューマ向け製品のデザイン責任者となるDell Technologies コンシューマーデザイン担当 副社長 ジャスティン・ライルズ氏、Dell Technologies XPS/Alienware/Gシリーズ 産業デザイン シニア・マネージャ ニコラス・ディロレット氏のお二人だ。ライルズ氏は本連載にも何度か登場していただいている、XPS製品のデザインを深く知る開発者の一人と言ってよい。

 ライルズ氏によれば「今回の新しいキーボードを実現するにあたりさまざまな検討を行なった。もちろんすべてのユーザーのニーズを満たせるなどというつもりはなく、これが気に入っていただけるお客さまもいらっしゃると思うし、そうでもないお客さまもいらっしゃるだろう。それを理解した上で、この機構を採用するにあたり2つのメリットがあると考えている」と述べ、メリットとデメリットの両方を勘案した結果、このデザインを採用したのだと説明した。

点灯しているところ、表示はファンクションキーとメディア再生などの機能キーで切り替えることができる

 ライルズ氏がいう2つは大きく言うと、デザインと性能の2つの理由があるという。「今回のXPS 13 Plusでは格子がないキーボードデザインを採用している。それとパームレスト、ファンクションキーとの一体感を出す意味でタッチキーボードにして、キーのランプを消灯すると一体感のある美しいデザインを維持できるようにした」(ディロレット氏)との通りで、電源をオフにしている時にはファンクションキーのLEDは消灯しており、そこには何もないかのような一体感のあるデザインが実現されている。

 また、今回Dellが採用したタッチのファンクションキーは、パームレストやタッチパッドと同じ素材になっており、質感などもタッチパッドに近い感じでタッチできる。その意味でもユーザーにとっての違和感は小さいとライルズ氏は説明した。確かにタッチパッドと同じような感触なら、ユーザーにとってもより違和感なくタッチのファンクションキーを使いこなすことができるだろう。思い出してほしいがLenovoやAppleのソリューションは、タッチパネルの構造になっており、ユーザーが触れる素材はガラスだった。その違いは小さくないだろう。

裏面もシンプルなデザインになっている

左右には1つずつUSB Type-Cがあるだけというこちらもすっきりしたデザイン

 なお、この新しい格子構造のないキーボードを採用することで、キートップ1つ1つは従来のアイソレーションキーボードよりもやや大きくなっている。ただし、ストロークは従来と同じ1mmが確保されており、キーの間隔が狭くなったことで「キーが押しやすくなりミスタイプが減る」(ディロレット氏)との通りで、従来モデルのキーボードよりも入力しやすくなっているという。なお、キーボードの構造は従来と同じラバードーム構造で、XPS 15などで採用されているマグレブ構造ではないという。

 タッチパッドの構造もユニークだ。パームレストとの段差がない構造になっており、ぱっと見はどこにもタッチパッドないか、キーボードの下部前面がタッチパッドのように見える。ただし、実際にはパームレストの一部分だけがタッチパッドとなる。このため、パッケージにはどこからどこまでがタッチパッドだということを知らせる保護シールのようなものが貼られているそうだ。

 このタッチパッドだが、ハプティックモーターにより、フィードバックがかかる形の高精度タッチパッドになっている。このハプティックモーター入りのタッチパッドは1つの流行のようになっており、昨年LenovoがThinkPad X1 Titaniumで初めて採用し、今年(2022年)発表されたThinkPad Zにも採用されているほか、MicrosoftのSurface Laptop Studioにも採用されている。どこでもボタン相当として押すことができ、押した場所に対してハプティックのモーターが振動することでユーザーに押したことがわかるようになる仕組みになっている。

 最初は慣れが必要だが、慣れてしまえばタッチパッド下部の物理的なボタンを押すよりも便利だ。ライルズ氏によれば、このXPS 13 Plusではタッチパッドのためにハプティックモーターを10個搭載しているそうで、この手のハプティックモーターとしては多めな方になっている。

 このタッチパッド、ゆくゆくはパームリジェクション機能と一緒にパームレスト全体がタッチパッドになっても不思議ではない。そうした布石への第一歩だと考えれば、今回のXPS 13 PlusのC面は本当にモダンなデザインだと感じた。

6列目をタッチ化することで、高さ方向に余裕を得て放熱機構の28W対応を実現

Dell Technologies XPS/Alienware/Gシリーズ 産業デザイン シニア・マネージャ ニコラス・ディロレット氏が手に持っている2台のXPS 13は上が新しいXPS 13 Plus、下が従来のXPS 13。上のXPS 13 Plusはより多くの放熱スリットがあることが確認できる

 そして、6列目のファンクションキーをタッチにしたもう1つの大きな理由が性能面だ。既に述べたとおり、今回のXPS 13 PlusではCPUのTDPを従来の15Wから28Wへと設計の基準を引き上げている(だからといってバッテリ駆動時間には影響はない、TDPを引き上げたことが影響するのはACアダプタをつないでCPUをフルに回した消費電力のみだ)

 ライルズ氏は「CPUのTDPを15Wから28Wに引き上げたため、熱設計は従来の製品よりもさらに厳しくなった。そのため、高さ方向にどうしてもスペースが必要になり、そのトレードオフとして6列目をタッチにした」とする。物理的なキーボードの場合、どうしてもストロークを確保したりする必要上、高さ方向のスペースが必要になる。それをタッチにすることで、物理的な構造があるキーに比べると高さ方向に余裕を持たすことができるのだ。

 ディロレット氏によれば、それで余裕ができた分を熱設計の強化に回しているほか、ヒンジの構造にも工夫を加えて、ヒンジにより隠れている廃熱用スリットの面積を大きくすることが可能になっているという。それにより、内部のファンの構造や回転数を上げるなどを可能にして、より排熱できる熱量を増やすことができ、TDP28Wの第12世代Coreに対応した熱設計が可能になったということだった。

左右に開けられているスピーカー用のホールも従来モデルよりも大きくなっており、スピーカーの音質も改善されている

 なお、コロナ禍で自宅勤務などが当たり前になってきたことで、カメラの画質などにも注目が集まっているところだが、ライルズ氏によればXPS 13 Plusではそれも強化されているという。

 ディスプレイの5mmという狭額縁に入れるために、2.5mm幅のカメラモジュールが採用されていることは従来モデルと同じなのだが、従来の2.5mmカメラモジュールは、Webカメラとして利用するRGBカメラと顔認証に利用するIRカメラが一体型になったカメラを採用していた。

 この一体型カメラは小型化や低コストには意味があるのだが、RGBカメラとして利用するときにはやや暗くなってしまうという弱点を抱えていた。しかし、今回のXPS 13 Plusに採用されている新しい幅狭カメラはRGBカメラとIRカメラが別のカメラとして搭載されており、RGBカメラがより明るく鮮明になっているということで、画質が改善されているとのことだった。

 ただし、解像度は720p(1,280×720ドット)のままで、1080p化はされていないということだ。なお、CMOSセンサーを提供しているOmniVisionは、開発した超小型の1080p対応CMOSセンサーが、Dellが今後発表する予定のLatitudeシリーズなどに採用することを既に明らかにしており、そちらを利用すれば狭額縁でも1080pのカメラにすることが可能になると考えられるだけに、来年のXPS 13ではぜひとも1080pに対応してほしいモノだ。

 XPS 13/XPS 13 Plusは四辺狭額縁になっていることもあり、13.4型のディスプレイを採用していながら、13.3型ディスプレイを搭載したノートPCよりも底面積が小さくなっている。そのコンパクトであることがこの製品の価値であることは言うまでもないと思うが、仮に6列目をタッチにしなかった場合には、熱設計のために本体を大きくせざるを得なかったと考えられる。

 その選択肢を採るよりも、新しいチャレンジとして6列目をタッチにして、現状の大きさのままTDP 28WのCPUを入れて性能を引き上げる方を選んだ、それがXPS 13 Plusということができるだろう。まさにこれはトレードオフであり、全員にとっていい答えとは言わないが筆者としては新しい選択肢が示されたということに、価値があると考えている。

 コロナ禍の影響でまだ筆者も実機を見ることは叶っていないが、早く実機を見てみたい、そう感じたインタビューだった。

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