エレコムから、窓やドアのすき間を通して配線できるCAT6A準拠のLANケーブル「LD-VAPF6A/SV04」(実売価格2,980円)が発売された。フラットケーブルをアルミテープで補強することで、窓などに挟み込むことができるLANケーブルだ。実際に1階と2階を接続し、10Gbpsで通信できるかどうかを検証してみた。
実用性を考慮したCAT6A準拠ケーブル
エレコムから発売された「LD-VAPF6A/SV04」は、1.5mm厚のフラットケーブルをアルミテープで補強したり、樹脂製の固定具を装着したりした特殊なLANケーブルだ。
同様の製品として1Gbpsに対応したCAT5e準拠の製品(LD-VAPF/SV05)も発売されているが、今回の製品は「CAT6A準拠」で500MHzまでの伝送帯域に対応しており、10Gbpsの伝送速度に対応しているのが特徴となっている(ケーブル厚も1.4mmから1.5mmに増大)。
そもそもLANケーブルの規格は、一般的な円筒形のスタンダードケーブルが対象となっており、本製品のようなフラットケーブルはCAT6A「準拠」として、同等の性能を保持していることをメーカーが確認した製品となっている。
このため、本製品には、スタンダードなCAT6Aケーブルとは構造が異なる。
一般的なCAT6Aケーブルでは、2本ずつ4対の内部信号線を4つの部屋に分ける十字介在が入れ込むことで内部のケーブル間のクロストークを抑えたり、外皮の内側に特殊な形状(ところどころ隙間がある)テープを巻き付けたりすることで、LANケーブルを複数本束ねた時に発生するケーブル間のエイリアンクロストークを抑えるなどの工夫がなされている。また、信号を伝えやすくするために内部の心線の径も太くなっているのが普通だ。
このため、通常のCAT6Aケーブルは、太く、曲げにくく、扱いが難しい。窓の隙間などに配線することはまず不可能となっている。
とは言え、こうした厳しい基準が要求されるのは、複数本のLANケーブルを狭い配管に入れなければならないビルの配線やオフィスの配線などであって、一般的な家庭では、そこまでシビアに考える必要はない。
本製品も、どちらかと言うと、こうした使い方を想定した製品となっており、厳密なノイズ対策よりも、利便性を重視したLANケーブルとなっている。
中身は1.5mm厚のフラットケーブル
それでは、実際の製品をチェックしていこう。
ケーブル長はコネクタの先端から先端までが40cmほどで、ケーブルそのものは前述した通り1.5mm厚のフラットケーブルとなっている。
コネクタ直下は、曲げやすいように蛇腹構造となっており、強めに曲げておくことで形状を保てるようになっている。これにより、配線時にコネクタ近辺を壁に沿わせて90度に曲げたとしても、曲がった状態を維持できるようになっている。
コネクタから5cmほど離れた部分は樹脂製の固定具となっており、両サイドに開けられたネジ穴を使って、壁に固定することが可能だ。
ただし、残念ながら固定用のネジは付属していないため、固定したい場合は、M3対応のネジを別途用意する必要がある。
固定具から先は、アルミテープによって補強された部分となる。スペック上は23cmとなっているが、実測では26.5cmほどあった。
この部分が、窓枠と窓に挟み込まれ、強い圧力がかかったり、複雑に折り曲げられたりしたとしてもケーブルを保護できるようになっている。
また、製品情報ページには「隣り合うケーブルの間のノイズを防ぎ、通信速度の低下を最小限にとどめます」という記載もあり、エイリアンクロストークや外部ノイズを防ぐためのシールドとしての役割も担っていると考えられる。アルミテープ部分以外のコネクタ近辺にはシールドが存在しないため、部分的にシールドされたケーブルと言えるだろう。
試しに、1本を切断して、内部を確認してみたが、ケーブルとしては一般的なフラットケーブルで、2本ずつより合わせられた4対の信号線が適度な隙間を開けて並んでいる構造となっていた。
構造的には、一般的な1.5mm厚のフラットケーブルと同じなので、市販のアルミテープで自作することもできそうだが、前述した固定具やコネクタ下の蛇腹部分などが本製品ならではの特徴となりそうだ。
1階~2階の2カ所を使って通信速度を検証
実際のテストは、筆者宅の1階と2階で実施した。本製品を2つ利用し、1階の窓から屋外へとケーブルを引き出し、同社製のCAT6準拠RJ-45中継コネクタ「LD-VAPFR6A/SET」を使って、CAT6AのUTPケーブルを使って2階へと配線。2階の窓でも本製品と中継コネクタを利用し、2階の屋内へと配線した。
この状態で両端に10Gbps対応のNICを装着したPCを直結し、iPerf3による速度を計測したのが以下のグラフだ。1秒おきに速度をプロットし、合計3分間計測した結果を表示している。
結果を見ると、iPerf3の速度は基本的にどちらも9.4Gbps近く出ているので、問題なく10Gbpsで利用できている印象だ。
また、7Gbps~8Gbpsほどまで速度が低下するタイミングが度々見られるが、この現象も本製品を利用した場合と、そうでない場合のどちらでも発生している。この速度低下は、おそらくノイズではなくPCの処理性能の影響である可能性が高いため、本製品を使ったからと言って、それが直ちに速度低下に繋がるとは言えない印象だ。
個人的には、本製品だけでなく、4カ所もある中継コネクタが速度に影響しそうな予想をしていたが、今回の環境では特に問題はなかった。
ただし、今回のテストでは、近くにノイズ源となるような機器などがなかったため、速度への影響もなかったが、本製品もアルミテープ以外のノイズ対策はほぼ存在しないため、場合によっては外来ノイズの影響を受ける可能性はゼロとは言えない。
実際に屋外に配線して、継続的に利用する場合、本製品、中継コネクタだけでなく、配線用のLANケーブルも、屋外で使うことを想定した製品を選択する必要がありそうだ。
実用シーンで苦労するかもしれない
以上、エレコムのCAT6A準拠すき間LANケーブル「LD-VAPF6A/SV04」、およびLAN中継コネクタ「LD-VAPFR6A/SET」を試してみた。
屋外への配線やフロア間の配線に困っている場合、窓を使って配線できるので、環境によっては選択肢の1つとしては興味深い製品と言えそうだ。
ただし、いくつか課題がある。
1つは意外にコストがかかることだ。1階と2階を配線するケースを想定すると、Amazonの2022年2月24日時点の実売価格では、本製品(2,709円)×2と中継コネクタ+保護テープのLD-VAPFR6A/SET(3,680円)×2で、合計1万2,778円もかかってしまう。
Wi-Fi 6のメッシュ構成などに比べれば安いうえ、10Gbpsの通信ができるのは魅力だが、さすがにケーブルに1万円以上かかるのは負担が大きい。
また、設置する窓にも注意が必要だ。筆者宅がそうだが、1~2階の場合、窓にシャッターが備え付けられている場合がある。こうしたケースでは、窓の隙間を通してしまうと、シャッターが下せなくなってしまう。シャッターがない環境でないと利用できない。
このほか、地味に困るのが中継用のLANケーブルの長さだ。例えば、1階から2階を繋ぐ場合、1階の本製品の端に取り付けた中継用コネクタから、2階の中継用コネクタまでを市販のLANケーブルで中継することになるが、この部分に「ちょうどいい」長さのケーブルを選ばなくてはならない。
短すぎると当然届かないし、長すぎるとあまった部分の処理をどうするかが悩ましい。それでいて、前述したように屋外で長期間利用するとなると、屋外用の防水性、耐候性、難燃性を備えたケーブルを用意しなければならない。この準備が地味に難しい。
それなら、いっそのことエアコンのダクトを使って屋外用ケーブルを引っ張りこんでしまった方が効率的なのではないかとも思える。
さらに、ケーブルが想像より硬く、折り曲げが難しい。特に、窓枠にピッタリと合わせようと曲げるのは困難だ。ある程度、事前に曲げておき、窓のカギを使って力業で押し込めるようにする必要がある。
また、今回は短期的なテストしかしていないため、10Gbpsでの通信に問題はなかったが、長期的に利用した場合に、果たして天候や外来ノイズの影響がどこまで出るのかまでは判断できない。
便利な製品ではあるが、実際に配線に使うとなると、それなりの準備や検証が必要と言えそうだ。
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