中古レコードのオンライン売買が最優秀賞に–NTT Comの新規事業創出コンテスト「DigiCom 2021」レポート

CNET Japan

 NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が毎年開催している社内新規事業創出コンテスト「DigiCom(デジコン)2021」。その予選会を通過した10チームのプレゼンテーションの場となる「Demoday」が1月25日にオンラインで開催された。


2021年度もオンラインで実施された「DigiCom 2021」

 2016年にスタートし、毎年数百名がエントリーしてきたDigiComは、これまでに延べ2863名が参加。7回目となる今回は69チーム224名が切磋琢磨してきた。Demodayで優秀なアイデアとして認められた場合には早期事業化の可能性も出てくるため、DigiComの一連のプロセスのなかでもDemodayは最も重要なイベントの1つと言える。

 オープニングでは、NTTコミュニケーションズ 執行役員 イノベーションセンター長の稲葉秀司氏が、今回のDigiComを含む同社が運営するイノベーション創出のための取り組みについて改めて解説。社員発の事業化の伴走支援にフォーカスした「BI Challenge(ビジネスイノベーションチャレンジ)」や、社外パートナーとの連携も図るオープンイノベーションプログラム「ExTorch(エクストーチ)」の役割などを説明しつつ、Demoday出場者に向け「これまでやってきた想い、熱量を出し切るつもりで発表してほしい」とアドバイスした。


NTTコミュニケーションズ 執行役員 イノベーションセンター長の稲葉秀司氏

 また、NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長 社長執行役員の丸岡亨氏も挨拶に立ち、2022年1月からNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアの2社がNTTドコモと統合することに触れた。新ドコモグループとしてさらなるDXを進めるとしているが、同氏は、こうしたDigiComのような取り組みが「広い視野で世の中を見て、社員全員、グループ全体としてDXへの意識が高くなる」ことにもつながる意義の大きな場であるとアピールした。


NTTコミュニケーションズ 代表取締役社長 社長執行役員の丸岡亨氏

 Demodayでは、10チームが9分間ずつプレゼンし、社内外の6名の有識者が審査員となって最優秀賞と2位、3位のアイデアを決定する。加えてイベント視聴者の投票による「オーディエンス賞」も設けられている。ここでは、上位に選ばれた3つの発表を中心に、イベントの中身をレポートしたい。

世界中の“中古レコード”のオンライン売買をAIで可能にする「Dig」

 10チームのなかから栄えある最優秀賞に輝いたのは、ニッチアイテムのオンライン売買プラットフォーム「Dig」を提案したNTTコム エンジニアリングのチーム「てらこや_さそり」。その最初のステップとして、世界中に愛好家やコレクターがいる、アナログレコードのオンライン売買を可能にする仕組みづくりを目指す。

 発表者である茶谷勇三氏は、レコード収集やDJ活動を30年間続けている自身の経験と、同じ趣味をもつ周囲の知り合いの話から、価値ある中古レコードをいまだにオンラインで気軽に探せるようになっていないことに課題感をもった。そこで、全国に眠っているレコードの在庫を誰もが簡単に探し出したり、売買したりできるようネット検索を可能にすることを思いついたという。

 サービス名は、中古レコードを探し出す行為である「ディグ」が由来。ディグる人のことを「ディガー」とも呼び、地方のレコード専門店やリサイクルショップ、友人の家など、あらゆる場所に足を運び、独自の知識やノウハウ、センスで価値の高い中古レコードを探し出すというバイタリティあふれる活動をしている。


中古レコードを探し出す行為は「ディグ」、ディグる人のことを「ディガー」と呼ぶ

 アナログレコードは、そのようなマニアからの注目度の高さもあるが、近年では国内の生産枚数が復調し始め、世界的にも売上がCDを上回る状況になるなど、市場としての盛り上がりも見せているという。しかしながら、そうした背景があるにもかかわらず、オンライン上でのアナログレコードの売買は極めて限定的だと指摘する。


世界的にはアナログレコードの売上がCDを上回る状況になっている

 その原因は、中古レコードを取り扱っている店舗の多くが小規模で、在庫として抱えるレコードの情報をデータ化できていないことが1つ。多くの分野にEC化が広がっているなかでも、大半の中古レコードについては現地の店舗を直接訪れ、商品を目で見て探すしかないのが実情だという。


大半の中古レコードはオンライン化(データ化)されていない状況

 データ化の鍵は、レコード一枚一枚に対して出品の手間が煩雑であるため、これを解決するために、Digにおいては人が介在する部分をAIに置き換え、自動化実現を目指す。

 審査員であるNTTコミュニケーションズ 執行役員 プラットフォームサービス本部 アプリケーションサービス部長の藤嶋久氏は最優秀賞に選んだ理由として、「熱量が非常に高く、エッジが効いた提案だった。マニアックで、マーケットが絞れているからこそ、ビジネス化・マネタイズに一番近いと感じた」とコメント。「利用者に納得感のある評価モデルを作れるかが非常に大事なポイントになってくるだろう」とも付け加えた。


NTTコミュニケーションズ 執行役員 プラットフォームサービス本部 アプリケーションサービス部長 藤嶋久氏

がん患者向けの経験共有・相談サイト「患者ペディア」

 2位に選ばれ、同時に視聴者投票による「オーディエンス賞」にも選ばれたのが、がんなどの疾患をもつ患者向けの経験共有・相談サイト「患者ペディア」を提案したNTTコミュニケーションズのチーム「TOGETHER!」。過去にがん宣告された経験を持つ発表者の有馬千秋氏自身が、がん患者に対するフォロー体制が社会的に整っていないと実感したことから、患者自身が納得した治療選択が可能となるようにサポートするプラットフォーム構築を目指している。

 多くの場合、がんの疑いがあって病院で検査しても診断結果がわかるまで3~4週間。不安を抱える中でようやく診断結果を聞くことになっても、そのときの診察時間が10分未満と短いケースが大半、という背景がある。実際に患者と医師の両方にインタビューを行ったところ、病気に対する不安な気持ちにじっくり寄り添ってもらいたいという患者の気持ちと、病気の状況を事実として端的に説明したいと思う医師の間にミスマッチが起きていることがわかった。がん患者に対する精神面でのフォローを医師のみで行うことは困難で、そのために全国にがんの専門家に相談できる「がん相談支援センター」が設けられているが、都市と地方では設置数に格差があり、また都市部であっても配置されている人数が少ないなどの課題があり、十分な状況ではない。


「がん相談支援センター」は全国各地に設置されているが、地方に少なく、対応できる人員は限られている

 さらに、がんといってもさまざまな疾患、症状があり、人によって効果のある治療法も異なる。インターネットで検索しても自分にマッチする情報に出会えることは少なく、どのような心構えで治療方法を選択し、その後の生き方とどう向き合っていくべきかは当事者にとって深刻な悩みだ。自分に合った、より具体的なアドバイスや情報を求めたいが、そうした場や環境がまだまだ少ないのが現状だという。


「患者ペディア」では、不安を抱えるがん患者に役に立つ情報の提供を通じて、当事者が納得して治療に臨める環境づくりを目指す

他の患者の体験や経験を共有する機能と、専門家に相談できる機能の2つがメイン

 こうした患者の疾患に関するデータはセンシティブな機密情報になるが、NTT Comには非可読状態のデータを復元せずに分析できる技術があるため、それを活用することで強固にデータ保護できるとアピール。

 対象者としては、女性特有のがん疾患をもつ患者を皮切りに、他のがん患者、難病をもつ患者、慢性疾患の患者という流れで順次対象範囲を拡大していく計画。「患者が納得できる治療を選択できる世界をつくり、病気になったら誰もが最初に訪れる場所をつくる」ことをミッションに掲げ、ぜひこのアイデアを実現したいと語った。

 審査員を務めたNTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部長の奥澤慎哉氏は、「社会的価値の高いアイデアで、理念もいい。仲間をしっかり巻き込めれば1つのムーブメントになるのでは」と評価。実現に向けては、サイト上で提示する「データの信憑性」が鍵を握ることになるだろうとし、「藁にもすがる思いで情報にアクセスしてくる方々に対して信頼あるデータをどう出していくか」が課題になると指摘。権威のある団体や業界のプロフェッショナルなどを巻き込むことで、データとしての信憑性を高められる可能性についても言及した。


NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 事業推進部長 奥澤慎哉氏

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