ハモの骨切り用カッターを作りたい(デジタルリマスター)

デイリーポータルZ

紆余曲折を経て、これをつくりました。

関東で夏の魚といえばウナギだが、関西ではウナギも食べるがなんといってもハモなのだそうだ。魚偏に豊と書いて鱧。いい名前だ。私は食べたことないけれど、きっとさぞかしおいしい魚なのだろう。

外で食べると高いので、家でハモを料理してみようかと思ったのだが、ハモといえば小骨が多いので「骨切り」という皮一枚残して切れ目をたくさん入れていく下処理をする必要があり、それが難しいのだと聞く。

まともにやったら何年も修行が必要な技術なのだが、骨切り専門の道具があれば、素人でもどうにかなるのではないだろうか。

2007年9月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

ネギカッターがあるならハモカッターがあってもいいはずだ

ハモの骨切り専用の包丁は存在するらしいが、それはあくまで包丁の範囲内。私がほしいのはもっと簡単に骨切り問題を解決するソリューション。パスタマシーンや茹で卵の輪切りをする道具的な方向性なのである。

そこで参考としたのが、「ネギカッター」という白髪ネギが簡単にできるという道具。

持ち手がピーラーになっていて、どっちを使うにしろ持つ手を怪我しそうでおっかないという変わった商品である。

ネギカッターは何枚もの刃が固定されており、これなら一度で均等な間隔を開けて切ることができる。

これを参考にして、もっと刃の間隔が狭くて刃がいっぱいあるものを作れば、簡単にハモの骨切りができるのではないだろうか。名付けて「ハモの刃物」、いや「ハモカッター」だ。

カッターの刃を洗う

ハモカッターの刃となる部分は、名前そのままにカッターの刃を使用することにした。

ただこれで料理をするには抵抗があるので、一度よく洗剤で洗って油を落とし、再度食用油を塗る。手間がかかるというか、手が切れそうになる作業だ。

20枚の刃があれば、一回で20の切れ込みを入れられるはず。
カッターの刃を一枚ずつ丁寧に洗う。手は切らなかったが、スポンジは切れた。
洗って油を落とすとすぐ錆びてしまいそうなので、再度食用油でコーティングする。こういう工程は料理っぽくて好きだ。

 

スペーサーが必要だ

下処理をしたカッターの刃を等間隔で並べればハモカッターの完成なのだが、刃と刃の間に1ミリ程度の間隔が必要だ。

プラ板でも買ってきて、切ってスペーサーとして挟もうかと思ったのだが、もっといいものが売っていた。ケーブルフックというやつだ。

これなら両面テープがついているのでカッターの刃に貼りつけることができるしサイズも厚みもちょうどいい。これをみつけて「冴えているな俺!」って思った。

この厚みがほしかった。
フック部分をペンチで折って、カッターの刃に貼っていく。邪魔な出っ張りがあるが、これはちょうど刃の穴に収まるので問題なし。
並べてみてハモカッターの成功を確信した。

 

万力で固定する

きれいに並んだ刃をじっくりと眺めてうっとりしたところで、次はこれを固定する作業。固定といえば万力である。

これまたちょうどよさそうなミニバイスという道具が売っていたので、これに挟んで締めあげる。こいつの大きさの都合で刃が15枚しか挟まらなかったのは計算外だったが、計算なんて最初からしていない。

固定する部分が横に長いのがいい。
スペーサーを挟んだ部分を万力でがっちりと固定。若干間隔にムラができてしまった。
2.3ミリに15本もの刃。これで誰にでも1センチあたり6.5回もの骨切りが可能となる。プロの技は「一寸(約3cm)につき26筋」といわれているので、これでも少ないのだけれど。

 

ハモを用意する

ほぼイメージ通りのハモカッターができたので、あとは実際に試すだけなのだが、ハモは近所の魚屋には置いていない。そこで知り合いの鮨屋で仕入れをしている方に、安いハモをわざわざ築地から仕入れてもらった。

お寿司屋さんの仕入れを担当している最高齢の友人。本当は築地市場についていこうと思ったが、見事寝坊した。

私はハモの骨切りがしたいだけなのだが、当たり前だけれどハモはそのままだと骨切りができない。そこでいつもウナギを捌いている細長い板に乗せ、腹から捌いていく。

ハモなんてはじめて手にした魚だが、生きているウナギに比べれば全然捌きやすい。もちろんプロのようにはいかないが、まあまあの切り身ができた。

これがハモか。なるほど、確かにウナギの仲間だ。
関西の魚なので腹から開いて(関東のウナギは背開き)、中骨や腹骨、ひれなどをとる。
ほんのりピンクのきれいな身。ウナギよりはだいぶ柔らかい。指で触ってみると、確かに小骨がそこらじゅうにある。

 

ハモカッターでハモを切る

どうにか捌いたハモにハモカッターの刃先を当てて、グッと力を入れて手前に引く。

北斗の拳でいうところの南斗水鳥拳の気分なのだが、これがまるっきり切れない。

刃はただハモの身をなでるのみ。

うおー!(魚だけに)

絶対成功すると思っていたのだが、びっくりするくらい切れない。
力が足りないのかと指で押さえるも、包丁と違ってカッターは背側もある程度薄いので、抑えたその指が痛い。
何度もやっているうちに刃がだんだんとずれてきて、もう崩壊寸前。

ハモカッター、敗れる。

もし刃が1本ならカッターでも容易にハモを切ることができただろうが、刃が15本ともなると、一度に15倍の切る力が必要になるということを、やってみて初めて気がついた。

それだけの力をハモに加えるためには、もっとハモカッターの切れ味、均等に並べる精度、強く押しても壊れない強度が必要になってくる。ハモカッターのアイデアはともかくとして、道具としての完成度が低すぎたようだ。

「親の小言と茄子の花は千に一つも無駄がない」なんてことをいいますが、この失敗もきっとこれから生きる上での肥やしとなるでしょう。

 

普通に骨切りをしてみる。

スペーサーの両面テープ部分に伸縮性があるのが悪いとか、万力で固定する場所が端すぎるとか、反省すべき点は多々あれど、いさぎよくハモカッターのバージョンアップは諦めて、ものは試しと普通に包丁で骨切りをしてみることにした。

柳刃の真ん中あたりでザクザクと切れ目を入れていくのだが、なるほど骨だらけで力がいる。これじゃカッターの刃が15本まとめて入る訳がない。

身が硬いからと力を入れすぎるとすぐ皮まで切ってしまう。確かに修行が必要だなと思う反面、身が硬い分だけ切りやすくもあり、イメージよりはきれいに骨切りができてしまった。

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骨を刻むザクザクという音が心地いい。皮が結構滑るね。

間隔がちょっと広いけれど、初めてにしてはきれいにできたような気がする。

 

食べてみて驚いた

結局わざわざ作ったハモカッターはまったく使わず、普通に包丁で骨切りしたハモを湯引きした。見た目は結構上手にできたが問題は味だ。

梅肉をつけて食べてみると小骨がものすごい勢いで口の中に刺さる。全然骨切りができていない。

そして皮が硬く、ヘタなウナギのような生臭みが残っている。さらにいえば一切れのサイズがでかすぎる。

見た目はよかったんだけれどね。

これはハモの品質の問題ではなくて、すべて料理人の問題だろう。

口に小骨が残るのは、単純に骨切りの間隔が広すぎるから。

そして皮が硬く生臭さがあったのは、骨切りの際に皮まで切らないようにと注意しすぎて、切り込みが浅くなっていたためだろう。

骨切りは本当に皮が切れるギリギリまで包丁を入れてあげないと、身と皮のバランスがとれないようだ。滑りのとり方が甘いなどの下処理の問題もあったのだろう。

やっぱり上手にハモを捌くには、長年の修業が必要のようだ。

もったいないので湯引きしたハモを天麩羅にしたらうまかった。
ただやっぱり小骨が気になる。一切れのハモに、こんな骨が何本も残っているのだ。

 

あれで骨が切れると思っていた自分が不思議だ

今、この記事を書きながら、「こんなのでハモが切れる訳ないだろう」「おまえは本気でやっているのか」と、何度思ったことだろう。読んだ方も同じように思ったかもしれない。

しかし、ハモカッターを作っているときは、「これならいける!」と何度も本気で思ったのだ。「商品化できる!」とすら考えたのだ。「夢中になる」って、悪い方向に作用すると怖いですね。

たぶん、暑かったからだと思う。

ネギくらいなら切れるかなと思ったら、それすらできなかった。

 

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