これが中学生が作ったガムテープ剥がし装置「熱ぺろん」だ!
先日、とある中学校の先生からメールをいただいた。
ざっくり言うと、その先生が顧問をしている物理研究部の生徒さんたちが「ダンボールに貼られたガムテープを簡単に剥がせる装置」を作っているんだけど、文房具ライターの立場から何かアドバイスをもらえませんか?というものだ。
えー、なにそれなにそれ、気になる。役に立つコメントができるかは分かんないけど、ひとまず実物を見せてもらいに行こう。
ガムテープ剥がし装置を作った中学生って、どういう人たちなのか
お邪魔したのは、神奈川県の大船にある栄光学園。中高一貫の私立で、ぶっちゃけ超頭良い学校である(OBに養老孟司、隈研吾など)。
どれぐらい頭が良いかと言うと、校舎にかけられた横断幕が「甲子園出場」とか「インターハイ○位入賞」とかじゃなくて、「科学の甲子園全国大会出場」と「囲碁選抜大会出場」なぐらい。
そもそも、部活として“物理研究部”というのがある時点で、我々(僕と撮影に同行してくれた編集長林さん)にとっては「すごいなー、なんか頭良さそう」という感想しかないんだけど。
しかも、メールをくださった顧問の鈴木先生によると、物理研究部は中高併せて140人ほどが活動しているとのこと。それ、ガチの甲子園常連野球部の規模だろ。
ちなみに取材させてもらったのは2月11日。
この日は祝日なんだけど、今月20日に開催される大会(後述)に向けて最後の追い込みとのことで、多くの生徒さんたちが賑やかかつマジメになにやら取り組んでいる様子。
その大事な時間を割いて取材に対応してくれたのが、写真左から柴田くん(中1)・坂口くん(中2・チームリーダー)・安達くん(中1)と、あと顔出しNGの武村くん(中1)。
彼らが、ウワサのダンボールに貼られたガムテープを簡単に剥がせる装置こと「熱ぺろん」を開発している中心メンバーなのである。
「熱ぺろん」プロジェクト進行中
そもそもなんでこんな装置を作っているのか? というと、いま栄光学園の物理研究部では、ブロック玩具でお馴染みLEGO社が主宰する「ファースト・レゴ・リーグ」(以下、FLL)という世界規模のロボットプログラミング大会にエントリー中なのだ。
このFLLは、レゴを使った自立型ロボで与えられたミッションをクリアする「ロボットゲーム」部門と、ロボットデザインや、指定されたテーマに関する研究発表(プロジェクト)を行う「プレゼンテーション」部門に分かれている。
で、「熱ぺろん」は、そのプレゼンテーション部門用に開発した、ということなのだ。
坂口 ……で、今回のFLLのテーマが「CARGO CONNECT」なので、「輸送」に関するプロジェクトとしてダンボールを取りあげようということになったんです。
安達 大丈夫? 「CARGO CONNECT」ちゃんと書ける?(笑)
坂口 えー、書けるよー、こうだろ!
さっきFLLに関する説明をすごく整然とした口調でされて「え、彼ら本当に中学生? 背の小さい大人ではなく?」と思ってたところなので、こういうやりとりを聞くと、ホッとする。
柴田 なにをするかディスカッションしていく中で、ダンボール梱包のガムテープが剥がしにくいよね、というのが出てきて……。
坂口 ダンボールはリサイクル率がとても高い素材なんですが、その際にガムテープが邪魔になるらしい、というのが調べていくうちに分かったんです。
坂口くんたちがある自治体に問い合わせたところ、なんと回収したダンボールは、一人の担当がいちいち手作業でガムテープを剥がしてリサイクルに回している、という。(※自治体によって異なります)
なるほど、そりゃ大変だ。というか、文房具ライターとして「ガムテープを簡単に切って開梱できるオープナー(ダンボールカッター)」はあちこちで紹介していたんだけど、回収時に剥がすなんてことは、気にしたこともなかった。
お恥ずかしい限りだし、もうこの時点で中学生に完敗だ。
そしてこれが、彼らがダンボールリサイクルの解決案として考え出した「熱ぺろん」の試作2号機である。
回路の先にある黒い部分がセラミックヒーターで、ここを加熱してガムテープの端に押しつける。すると熱でテープの粘着剤が溶けて柔らかくなり、ぺろん、と剥がしやすくなるという仕組みだ。
ガムテープを剥がすのに何が面倒かって、爪でテープの端をカリカリやって剥がすきっかけを作るのが一番の手間。
そのきっかけさえ作ってやれば、あとはベリベリと引き剥がしてやるだけなので、簡単だよねー、ということなのだ。
それにしても、よくこくなやり方を思いついたものである。
安達 最初から「熱でいけるんじゃない?」とは思ってたんです。なので最初にアイロンで試してみたら、いきなり上手く剥がせました。
坂口 あとは、熱源をハンコ型にしてテープ端に捺すだけで良さそう、と安達くんが提案してくれたんで、その方向性でコンパクト化を進めました。
ちなみに試作1号機は、電池式の半田ごての先端を改造したもの。半田ごてそのままだと熱すぎるため、熱源はセラミックヒーターを使用している。
2号機は、サーモスイッチを使って150度になったら電源をカットできるようになっている。さらに、加熱中は黄色、加熱完了すると赤色のLEDが点灯するように改良したそうだ。
安達 温度と当てる秒数で剥がしやすい領域を探して、150度で3秒が丁度いいな、というのが分かりました。熱すぎたり時間が長すぎたりすると、テープの粘着剤が溶けすぎてドロドロになって、余計に貼り付いてしまう。ちょっと溶けるぐらいがベストなんです。
トラブル発生!ぺろんってできない!?
……というような話をしながら、実際に「熱ぺろん」でガムテープを剥がす実験を進めていたんだけど、ここでトラブル発生。温度がぜんぜん上がらないのだ。
先端の熱源に温度計を当てて計測しても、70度ぐらいにしかならない。これではさすがに粘着剤を溶かすのは無理っぽい。
柴田 うーん、このあいだまではちゃんと温度が上がってたんですけど、最近調子が悪くて……。
その場で「ボタンを押す時間が」とか「回路的に抵抗が増えたからじゃないか」とか、原因を究明すべく考え出す中学生たち。
さすがに僕もこのままじゃ記事にできない。困ったなーと軽く途方に暮れていたら、ふと坂口くんが「電池、変えた方がいいかな?」と言い出した。
あっ、言われてみたらLEDの点灯も微妙にショボショボしてるぞ。
坂口 そうかー。おれ、家でいっぱい剥がしたからなー。
柴田 えっ、持ち帰っていっぱい使ったの? じゃあそれだよ。
間違いなくそれが原因だろう。なんだよ頭の良い中学生、思ったよりウッカリしてるな!
慌てて電池を交換すると、今度は何の問題もなく、150度までスイスイと上がっていく。
で、「熱ぺろん」の温度が上がりきったところで、ダンボールにべったり貼られたガムテープの端に押しつける。
数秒待ったところで離すと、なるほど、表面が少し熱延びして浮き上がってるっぽい。そこを指でつまんでいけば……おお! ほんとだ! 軽く「ぺろんっ」て剥がれるぞ!
これは非常に面白い。これならダンボールからガムテープを取り除くのもラクラクだ。
現時点ではまだ基板丸出しのビジュアルだし、加熱完了まで1〜2分かかったり、熱源剥き出しで安全性が無かったりと欠点も多いが、そういうのを解決していけば、実用品として市販される目も間違いなくあるんじゃないだろうか
こういうのを中学生が一から考えて形にしている、というのはかなり驚きである。
いや、実は驚くのも当然で、「熱ぺろん」チームは、昨年12月に開催されたFLLの予選大会でグループ1位になり、全国大会出場の権利を勝ち取っているのだ。
冒頭で述べた「20日に控えてる大会」というのが、まさにこのFLLの全国大会というわけ。
さらにここを勝ち抜くと、次はアメリカ(他、場所は未定)の世界大会。ガムテープを爪でカリカリしているのはおそらく世界共通なので、「熱ぺろん」は間違いなくワールドワイドに通用するんじゃないか、と思うのだ。
ただ、現時点ではきちんと完成形にまで持っていくのは間に合わなそう、とのこと。
あくまでも研究発表を行うプレゼンテーション部門なので、現物は完全じゃなくていいらしいんだけど。
坂口 最終的には、企業に持ち込んで製品化してもらいたいので、そこまでに完成させればいいかなって。
おお、夢がでかい。実際、世界大会レベルまでいくと「特許を取って製品化しました」というチームも普通に出てくるようだ。
もちろん「熱ぺろん」チームも、すでにいくつかの文房具メーカー(誰でも知ってる大手)に「こういうの考えてるんだけど、興味あります?」的なメールを送り済み。しかし、ちゃんとした返事はもらえなかったそう。
なんだ、残念だな。SDGsがこれだけ騒がれてる昨今、リサイクル前提でガムテープを剥がすツールなら、使う価値はあるんじゃないだろうか。
もちろん家庭用だけでなく、流通の現場なんかでも欲しいと思ってくれるケースは充分に考えられる。
林 次はメーカーフェアに出すのとか、どう?
柴田 あ、メーカーフェアは気になってました!
林 ダンボールを一杯持っていって、ずっとガムテープ剥がしてたら人が来ると思うよ。あと光らせて音楽かけてたら完璧。
坂口 あ、曲は作ったんですよ。安達くんが。これなんですけども。
「♪ねつでーはがせる、ねーつぺろーん」
安達くんが操作するPCから、脱力系ラジオCMのような曲が流れてきた。
なんというか、クセになる系のやつだ。正直、センスあるぞ。
安達 ヒマだったんで作りました(笑)。無料の音楽ツールで。
大人顔負けのプレゼンテーションや装置を作るだけでなく、CMソングまで!
今回、聞く端々で「コロナで部活がちゃんとできず大変」という話が出てきたので、大人として単純に「そうか、中学生も大変だな」と思っていた。
だけど彼らはコロナ禍で持て余したヒマを使って、いろんな方面に才能を伸ばしているのである。
そしてたぶん、全国でも同じような中高生がいっぱいいるんだろうな。すごいことだ。
アイデア出しと駄目出しと実現性と
最後に、顧問の鈴木先生にも話を聞いておこう。
優しく見える鈴木先生だが、実はかなり厳しく、生徒のアイデアにガンガンと駄目出ししていたらしい。(取材中、何度かそういう話が出てた)
鈴木 坂口くんが最初に考えていたのが、Uber Eatsで届いた食品が崩れている、という問題。それは面白そうだなと思ったんですが、レゴを使って解決できそうなモデルを試作していくうちに、どこかで見たことあるな? という形になってきて。おそば屋さんの出前バイクと同じようなものに(笑)。
あー、出前カブの荷台についてるサス付きの出前機だ。
ただ「思いついたアイデアを煮詰めていった結果、すでにあるものに似てしまった」というのは、実はすごいことでもある。
だって、少なくとも考え出した解決法自体は正しかったということだし。
鈴木 あと、アイデアとして面白そうだったのが、宅配便の再配達率が高いと問題の解決案。コンビニにある宅配ロッカーのようなものを積んだトラックを各地域に駐車して取りに来てもらうのはどうか、というものなんですが、これはさすがに生徒が実際に作るのは無理そうで。
FLLには採点項目が事前に示されており、例えばプロジェクトとしては「課題がちゃんと社会に存在しているか」や「考えたものの実現性」「それによって課題が解決できるか」などがある。
フワッとした「こういうのあったらいいな」では済まされないし、実現性も重要なのだ。
鈴木 評価項目には「解決策を共有するための詳細なモデル・図面があるか」とあるので、もちろんモデルだけでも問題はないんです。ただ、私は理科の教員なので、生徒には実際に手で触って物作りをして欲しい、という思いもあるんです。
坂口 僕としては、実際に物作りをしたほうが面白いんです。実物があれば分野的に詳しい方に見てもらって話を聞くこともできるし、意見が集まると改良がしやすいじゃないですか。自分で実現できないSF的なアイデアはモデルで止まっちゃうから、それ以降に進められないし。
すごい。中学2年生にして坂口くん、完全に物作りする側の人の発想だな。
個人的には、彼のような人が後々に文房具メーカーに入社して面白い製品をガンガン作ってくれると嬉しい。
まずは「熱ぺろん」を全国、そして世界へ持っていって、最後は製品化だ。本気で応援するぞ!
坂口くんをはじめとした「熱ぺろん」チーム、全国大会を前にして、すでに世界へ行く気満々だった(全国8位までが世界大会出場)。心強い限りだ。
ただ、鈴木先生から「世界大会はプレゼンも質疑応答も全部英語だけど大丈夫?」と聞かれた坂口くんが、一気に表情を曇らせていたのが面白かった。
はやいところ世界進出を決めて、英語の準備も頑張ってもらいたい。