KDDIは2月15日、「KDDIスマートドローン発表会2022」をオンラインで開催し、「日本航空(JAL)との協業」、「新会社の設立と新サービス提供」という、2つのニュースを発表した。
JALとの協業においては、同社の航空安全技術や知見を、KDDIのドローン運航管理システムに適用させ、安心安全な運航管理体制の構築を目指す。KDDIのスピンオフベンチャーとして設立されたKDDIスマートドローンは、月額の基本料金が4万9800円(税込)の「4G LTEパッケージ」をはじめとする新サービス「スマートドローンツールズ」の提供を開始した。
発表会では、KDDI 執行役員 事業創造本部長の松田浩路氏、JAL 常務執行役員 デジタルイノベーション本部長の西畑智博氏、4月からKDDIスマートドローン 代表取締役社長に就任する博野雅文氏が登壇した。
ドローンの社会インフラ化に向けた「2つの鍵」
松田氏は冒頭、2022年にレベル4が解禁され、遠隔での自律飛行が可能になることに言及し、「2022年はゲームチェンジの年だ」と話した。遠隔自律飛行が“起爆剤”となって、国内ドローン市場の急成長が見込まれるという。そして、「我々がドローン事業を始めた当初に思い描いた、全国各地でドローンが飛び交う時代が、いよいよやってくる」と意気込みを見せた。
このドローンの社会インフラ化に向け、「大きな鍵が2つある」という。1つは、「モバイル通信」だ。ドローンがどこまでもネットにつながり続けて飛んでいくことができる、“コネクティッドドローン”の実現を目指す。もう1つは、「運航管理システム」。ドローンを単体で監視するだけではなく、複数のドローンが飛行する空域全体を管理し、衝突を回避することが求められている。
「ドローン用モバイル通信」について、松田氏は「我々KDDI、auとしては、『ずっと、もっと、つなぐぞ。』を合言葉に、地上の携帯電話の電波を日々改善してきた。2020年の電波法に関する省令改正によって、上空での利用が可能になった。ドローンは150mまで飛べるので、例えば50mごとに電波を測定するなどして、上空のモバイル通信を可視化、最適化していける」と説明した。
また、本格化する「空の運航管理」については、「我々はこれまで、運航管理システムを、約6年間にわたる実証実験で開発し、機能面の拡充も進めてきたが、ドローンが同時に多数飛び交う世界を実現するには、サービスを運用するためのルール整備や、体制構築も本格的に作り込む必要がある」と語った。
松田氏は、「基礎固めが終わり、応用問題を解いていく、そういう段階にきたと考えている」と話し、JALとの協業を発表した。「空の世界を知り尽くした日本航空さまと協業させていただき、JALの航空安全技術や知見を我々の運航管理システムに適用していけることを、本当に喜ばしく思っている」(松田氏)
日本航空の西畑智博氏(左)と、KDDIの松田浩路氏(右)
全国で飛ぶ「複数のドローン」を安全に運用したい
両社協業の発表に続いて、JALの西畑氏が登壇し、KDDIと共に何を実現したいかを語った。
西畑氏はまず、JALの安全への取り組みを説明。JALでは、経営、安全推進本部、オペレーションや運航などの各部門が連携して、Safety Management Systemを機能させているという。オペレーション本部では、24時間、365日、Integrated Operations Controlで運航を一元管理し、安全に関するリスク評価、ヒューマンファクターズに基づく、エラー分析と必要な対策を実施しているという。
KDDIとの協業の目的は、こうした取り組みをドローンにおいても活用することだ。西畑氏は、「ドローンの社会インフラ化には、運航体制の構築と、運航管理システムの開発、両輪が必要だと考えている」と言う。
JALとKDDIは、これまでも複数の飛行実証に取り組んできた。その中で、JALは運航体制の構築を担当。運航規定の策定による各当事者の役割、責任の明確化、イレギュラーガイドラインの策定、コミュニケーション要領の作成によるオペレーション手順の確立、チェックリストの活用による作業ミス防止策の策定に取り組んできた。
またKDDIは、運行管理システムの開発を担当し、遠隔自律飛行の実装、全国複数機体の統合管理、気象、地図、航空機などの周辺情報の可視化に取り組んできた。今後も、相互に役割を担いながら、運用管理体制のバージョンアップを図るという。
「今後は、レベル4解禁をきっかけに、ドローンが社会インフラとなる時代に向けて、運航体制の構築では、安全性の向上、運航の効率化が、運行管理システムの開発では、空域利用ルールのシステム化が必要になると考えている。JALとKDDIは、全国各地で展開される複数のドローンが、安全かつ効率的に運用できる環境を構築していく」(西畑氏)
両社は今後について、短期的には、離島地域におけるドローンを用いた新たなビジネスモデルの構築、中長期的には、ドローンの運航管理、空域管理の運用制御を行う体制やビジネスモデルの検討を行なっていくという。
遠隔運用に必須の「4G LTE パッケージ」提供開始
最後に、4月からKDDIスマートドローンの代表取締役社長に就任する博野雅文氏が登壇した。松田氏が、「2022年というドローン新時代、我々はモバイル通信と運航管理、この2つの武器をもって、切り開いていきたい」と、博野氏を紹介した。
KDDIの松田浩路氏(左)と、KDDIスマートドローンの博野雅文氏(右)
博野氏は、KDDIに入社してから10年以上、基地局から端末までモバイル通信全般の開発に携わり、6年前からモバイル通信を使ったドローンの商品化のプロジェクトに参画してきたという。「KDDIはモバイル通信と運航管理を6年間磨き続け、いよいよ企業や自治体の事業の皆さまに、活用いただけるフェーズに入ってきたと感じている」と挨拶した。
そして、新サービス「スマートドローンツールズ」を紹介した。「モバイル通信、運航管理システム、クラウドといった機能を中心に、ドローンの利活用の可能性を広げる機能を、ツールとしてご提供していく」(博野氏)という。
基本プランは、ドローンの遠隔運用に必須となる3点がセットになった「4G LTE パッケージ」。本日から1IDにつき4万9800円(税込)で提供し、データ容量無制限のモバイル通信、運航管理システム、保存容量100GBのクラウドサービスが利用可能だ。他サービスとの違いについて博野氏は、「モバイル通信だけではなく、運航管理とクラウドがセットになってこの金額」と説明した。
例えば、スマートドローンツールズを活用すれば、洋上での風力発電設備の点検作業を自動で行い、クラウドにデータを上げて解析まで行うことも可能になるという。災害時に、寸断された道路を超えて、救助活動することも可能になる。
博野氏は、「スマートドローンツールズにより、ドローンの利活用の幅を大きく広げることができる」と話して、オプションサービスについても紹介した。高精度測位や、小型気象センサーなど、用途に応じて必要な機能と提供する。また、これまでさまざまな分野で行ってきた実証実験の知見を生かして、導入サポートも提供する。
さらに将来的には、2021年に提携を発表したスペースXが提供する衛星インターネットサービス「Starlink」を基地局のバックホールとして活用し、光回線が引けないような場所もエリア化していくことで、スマートドローンのエリアを広げることも視野に入れる。このほか、クラウドでの解析機能や、周辺サービスも順次追加していくという。
ドローンで通信の送受信をするために必要となる「通信モジュール」については、4月から提供開始予定だ。特徴は3つ。1つめは「耐ノイズ設計」で、高いノイズ耐性による安定した通信品質を確保した。2つめは「電波ログ解析機能」で、電波ログをモジュール内部に自動的に蓄積して、常に上空での電波状況を可視化する。3つめは「運行管理システム連携」で、KDDIの運航管理システム接続用のソフトウェアを通信モジュールにあらかじめ搭載することで、モジュールを機体に搭載するだけで簡単に運航管理システムに接続できる。
すでに9社の機体メーカーと、同通信モジュールの実装に向けた協業を進めており、11機体への搭載を予定。ラインアップは順次追加するという。
また博野氏は、スマートドローンツールズを試すチャンス「トライアルキャンペーン」の告知も行った。第1弾は、「4G LTE パッケージ」を年内無償で使用できる50社限定チケットで、本日から応募開始だ。
発表会では、ドローンベンチャーへの投資やハンズオンの経営のサポートをするベンチャーキャピタルDRONE FUNDの千葉功太郎氏からビデオメッセージも寄せられた。
DRONE FUND 千葉功太郎氏
「ドローンは、物も情報も運べる、情報の取得もできる、作業も人間に変わってできるかもしれない。これからドローンは、巨大なインフラになっていく。その中で、日本の大企業で一番最初にイノベーションを起こすのがKDDIさんであり、KDDIスマートドローンが中心となって日本のすべての大企業が巻き込まれていく、そんなムーブメントの予感がしている。我々DRONE FUNDも、KDDIさん、国内外のドローン企業と連携しながら、ドローン前提社会を作ることに協力できればと思う」(千葉氏)
最後に博野氏は、「今後、ドローンの社会インフラ化をさらに加速するためには、スタートアップとの皆さまとの連携が、何よりも重要となる」と話して、発表会を締めくくった。