期限の切れたクーポン、切れてないことにする。
期限の切れたクーポンは、選ばれなかったもう一つの未来である。そしてこの未来は「期限が切れてないことにする」だけで取り戻せる。
失われた未来
何ヶ月に一度か、財布やカード入れを整理すると期限の切れたクーポン券やポイントカードがワサワサ出てくる。
期限が切れているので捨てることになるのだが、いつも少し心を痛めていた。『(特定の商品への)200円引きの券』なのに、200円そのものを捨てているような気持ちになるのだ。
この雪だるまさんロールケーキの半額券を捨てなければいけない、となった時は金額以上に『これを食べたかもしれない未来の自分』までも捨てるような気持ちになった。
チケットというモチーフはよく未来への比喩表現に使われる。まだ使ってないチケットはこれから選ぶかもしれない未来で、期限の切れたチケットはもう失われてしまった未来である。
運命に抗うSFの主人公の気持ちで考えた。未来をそんな簡単に諦めていいのだろうか。期限、切れてないことにしたらいいんじゃないか。
デザートサンデーを食べる未来を諦めない
つまり期限が切れてないことにしてクーポンの商品を食べに行く。割引は無いがあることにする。気持ちの勝負である。
永遠に失われた未来。
カード上部の白い旗のところ、コインでこするスクラッチくじになっていて、A賞が当たっている。コンビネーションサラダかデザートサンデーがもらえるぞ。
しかし期限は切れていない。そういうことにする。というか期限なんてもので僕が万世に行く未来を諦めない。僕が万世でデザートサンデーを食べる未来を。
カツが乗っているのにカレーの中にも肉がたくさん入っていて、そこに更に豚汁が付いている。隙あらば肉を食わせる肉の万世のカツカレーだった。
そして待つ。
あのスクラッチくじを誇らしげに店員さんに見せた自分を頭の中にインプットする(本当は普通に頼んだ)。僕はくじに当たった。そして期限の切れないうちにまた肉の万世に来れた(期限は切れている)。これがデザートサンデーをサービスでもらえる僕の未来(普通に頼んだ)。僕の細やかなスケジュール管理能力(そんなものは無い)。
A賞のカードと一緒に写真を撮った。なぜかと言うとこれが当たったおかげで食べられるから。当たったおかげで(期限が切れたが当たりが惜しくなり期限が切れてないことにして肉の万世に来て)食べられるから。
素晴らしい未来だった。キャラメルのソースはかけるとパリパリに固まってすごくいい食感だった。下にコーンフレークが入っているんだけどドライフルーツもたくさん混ざっていてここもおいしい。隙間を埋めるためだけのコーンフレークじゃなかった。
普通に頼むよりくじが当たった経験と結びつけて食べるとより感慨深い。味が甘い。期限内に来れて(期限内に来たことにして)よかった。
お会計の時はカツカレーの値段と一緒に払うのでサンデーの値段とかはよく分からなかった。くじに当たった。デザートサンデーを食べた。