カラオケは気持ちがいい。歌を歌うとスカッとする。
山登りもそうだ。
登り切った達成感や、見晴らしの良い景色。日常では得られない爽快感がある。
両方一緒にやってみたら、どんな気分になるだろう。
山に登り、カラオケをしてみました。
最近は演劇の勉強に熱中。大きなエビフライが好き。
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新春 登山は織田信長公のお膝元で
舞台は岐阜県、金華山(きんかざん)。
岐阜市内にあり、岐阜駅からも近い。日帰りで気軽に登れる山として有名だ。
愛知県にある筆者の実家から車で行ける距離だったので、ちょうどいいやと年始の帰省を兼ねて挑戦を決めた。
金華山には、織田信長が天下統一の拠点とした岐阜城があり、ゆかりの地であることをアピールする物がたくさん見られる。
そんな訳で、山頂に到達した際には、織田信長や、岐阜にまつわる曲を歌うのもいいなと思っていた。登り始めるまでは。
選曲に悩む余裕を吹っ飛ばすほど、金華山はしっかり「山」だったのである。
この道を、老若男女が?
近隣に住む人たちは散歩スポット感覚で金華山に訪れる。幼稚園児が遠足で登ることもあるという。
そのため「ちょっと遠くのカラオケ店に行く気分」で登れると思っていた。
金華山には、麓から山頂近くまで続くロープウェーと登山道がある。ロープウェーに乗れば楽だ。少しの労力で頂上に辿り着けるだろう。しかし、より強い達成感を得るために選択肢から外した。
一方で登山道は10のルートがあり、選ぶ道によって難易度が異なる。私の登山経験は数える程度。初心者向けの道でじゅうぶん満足できるだろう。
そうして選んだのが、約1900mの距離を歩く初心者コース「七曲り登山道」。戦国時代にも使われていたという登山道である。
コンクリート舗装の道・土と石の坂道・高低差がワイルドな階段の3パターンを繰り返す。
どの道もそれなりに大変で、道の形が変わる度に「やっと終わった」「まだ頂上じゃないのか」という気持ちが交互に浮かぶ。
山に入るのは中学校の修学旅行で行った富士の樹海ツアー以来。登山ってこんな感じだったか……。
新鮮な気持ちで登山にチャレンジできている!……と前向きに考えることにする。
そして山頂へ
歩き始めて30分も過ぎると、道の厳しさにも慣れてきた。
汗ばんだ頭皮を冷たい風が撫でる。気持ちがいい。
周囲を見る余裕が生まれ、木々の間から見える空が広くなっていることに気づく。
ロープウェー駅を越えると、なんとなく城の雰囲気が漂う。
これまでとは打って変わり、道がしっかり固められていてとても歩きやすい。
ロープウェー駅を山頂と勘違いした人の心を折らない親切設計だ。
人もぐっと増えた。記念写真を撮ったり、他の登山者から撮影を頼まれたりしながら進む。
そうして登り始めてから約一時間。ついに山頂に到着!
ひっそりカラオケ大会
達成感と風景をそこそこ楽しんだところでカラオケの時間です。
「らしさ」を出すために、デンモクとレプリカのマイクを持ってきた。
もちろんデンモクだけあったところで音楽も歌詞映像も流れてこないが、あるとカラオケっぽさがぐっと出る。
しかもカラオケ店のデンモク同様、その場で曲検索もできるぞ。
しかしなかなか歌う気分にならない。
疲労のせいか、自分の「カラオケやる気スイッチ」が入らない。
岐阜市の繁華街が舞台の「柳ヶ瀬ブルース」や、曲中に信長が出てくる「名古屋はええよ!やっとかめ」といった、ローカルソングを歌おうかなと思っていたのだが……そう思っていたことすらも記憶から飛んでいた。
考えあぐねた末に選んだ曲がこちら。
「ちょっと恥ずかしい」という気持ちが勝ってしまった。
周囲が気になってしまう。そんな気持ちを持ちながらでも歌える(であろう)曲として辿り着いたのが「大きな栗の木の下で」だったのだ。
歯切れの悪い歌声が不自然に漂う。親しくないひととカラオケに行ったときのような居心地の悪さを感じる。
いつのことだったか、慣れない合コンでの二次会カラオケを思い出した。
無難な選曲をしようとして、当時既にブームが過ぎていた「恋するフォーチュンクッキー」を歌って絶妙に盛り上がらなかったあの空気が山頂で蘇った。
周囲に聞こえるほどの声量ではないので気づいている人もいない。
撮影を手伝ってくれている母と妹は、私が歌っていることよりも、この場にカラオケアイテムがあることに気を取られているようだし、周囲の登山者はお城に夢中である。
勝手に自意識過剰になっているだけなのだ。
歌いたくなる人もいる
当初の想定とは異なる感情を抱きながらひっそりと歌い終えたところで、妹が言った。「歌いたい曲思いついた!」
四人兄弟の末っ子である彼女は、大人に囲まれて育ったためか、はたまた全員趣味嗜好が異なる三人の兄姉と関わっていたせいか、妙に適応力が高い。
鼻歌を歌いながら選んだのは、ディズニーソングの「ミッキーマウスマーチ」だ。山を登りきった達成感と、岐阜城に対するワクワク感からのチョイス、とのこと。
岐阜城をシンデレラ城と勘違いしていないか。
しかし気分が高まっていることがわかる選曲だ。さっきまでクタクタだったのにもう元気そうだな。
恥ずかしさや気まずさは特に感じていないようだ。普段からピアノを弾いているからだろうか。堂々と口ずさんでいた。
「私も」と続いてデンモクを手にした母は、曲のタイトルが思い出せない。
インターネットを活用してなんとか辿り着いたのは、天地真理の「水色の恋」。
山頂から木曽川と長良川を見て、この曲が思い浮かんだそう。
母も口ずさむ程度の声量。周囲には他のグループも多く、話し声でほとんど歌声は聴き取れなかったものの、二人とも「開放的で楽しい」とご満悦だった。
自分の企画なのに同じように楽しめない私は、いやあ、まあ、楽しんでもらえたなら何よりですけど……と、そばで突っ立っていた。ちょっと損した気分だ。
気のあう人ばかり集めて山を貸し切りたい
山に登ってカラオケをするとどうなるのか。わかったことは以下の3つ。
・山に登ると疲れる。カラオケどころではない。
・歌っている人はレポーターっぽく見える
・楽しめる人と楽しめない人がいる
母に恥ずかしくないのかと尋ねたところ「周りは知らない人だから気にならない」「旅の恥はかき捨て」との回答を受けた。
私は知らない人がいる場所は緊張するし、旅先でも恥はできるだけかきたくない。
聴かれていても、目の前で失敗しても平気だと思える人が一緒だったら……周りを気にしにくい環境を整えたら……私も楽しく歌えるかもしれない。
つまりカラオケボックスでいい。
だが、母と妹のようすを見たら、山頂もまた改めてチャレンジしたいと思った(記事にするしないはさておき)。
体幹が試される
帰りはロープウェーに乗りたかったが、「距離が短いから楽なはず」という母の謎理論で難易度が高いコース「百曲がり登山道」から帰った。
楽ではなかったです。